1124 おじさんは絶対に失敗してはいけないお茶会をどうするのか?
おじさんちの衣装部屋である。
ここには大量の衣服が並んでいるのだ。
特に母親とおじさんのものが多い。
付き合いのある大店が勝手にもってくるわけだ。
どうぞ着用してください、と。
正直に言うと、アルベルタ嬢も驚きの量であった。
この中では、おじさんを除けば、もっとも爵位の高い侯爵家の出身である。
そんなアルベルタ嬢でも、これほどの衣装があるとは、と目を見開いていた。
「もし気に入ったものがあれば言ってくださいな。差し上げますので」
ニコニコとしながらおじさんが言う。
物に頓着しないというか。
いや、そもそもおじさんですら見たことがない服があるのだ。
「茶会に参加する人は茶会用のドレスを選んでくださいな」
「ん? 茶会用のドレスってなんなのさ?」
聖女がおじさんに聞いた。
そこから始まるのか、と思うおじさんだ。
「以前、わたくしのお茶会にエーリカが着用してきたドレスがあるでしょう?」
「うん、ある。あの黄色のやつ!」
「リー様。ボクが説明します」
セロシエ嬢がおじさんからバトンを受け取った。
「エーリカと……他にも知らない人がいるかもしれないから基本的なことから教えていくね。まずドレスにも色々とあるんだけど、ざっくり茶会用と夜会用のドレスがある」
アフタヌーンドレスとイブニングドレスのことだ。
肌の露出が少なく、襟元が開いていないものがアフタヌーンドレス。
イブニングドレスは胸元が開いていたり、華やかなもの。
「それぞれに格式というのがあってね。正礼装、準礼装、略礼装って三つあるんだ」
脳筋三騎士など初耳だという顔をしている。
もちろん蛮族一号と二号もだ。
「今回、リー様が正式なお茶会に招いたということなので、ここで選ぶべきはなにかわかるよね?」
「せーれーそー」
ケルシーが実にアホっぽく言った。
ただ、それは正解である。
「そう、正解。長くなるから説明は省くけど、今回は正礼装を選ぶ必要がある。こちらの衣装部屋はボクでも見たことがないくらいドレスがあるから。まずは選んでみるといいよ。それが間違っていたら教えるから」
と言うことで、お嬢様たちの服選びが始まった。
あーでもない、こーでもないと服を選ぶお嬢様たちである。
おじさんはその様子をニコニコと見ていた。
なんだか眩しいくらいに、皆が輝いているように映るのだ。
おじさんの前世では服選びなどしたのは成人してからである。
幼少期はずっと同じ服を着せられていたものだ。
春も夏も秋も冬も。
ずっと同じ。
「ねぇねぇ見て」
ケルシーである。
彼女が手にしていたのは、夜会用のドレスである。
少し露出が多めで、緑の下地に華やかな刺繍がしてあるものだ。
「少し大きいですが、よく似合うと思いますわよ?」
おじさんはケルシーの頭をなでてやる。
にかっと笑う蛮族二号だ。
「気に入ったのなら差し上げましょう。後で大きさも調整してあげますわ」
「ありがと!」
ぎゅっとドレスを抱きしめるケルシーであった。
なんとなくその気持ちはわかるおじさんだ。
初めて服屋で買ったときのうれしさ。
あれは、今でも覚えているのだから。
いわゆるファストファッションではあったが。
「お嬢様も服を選びませんと」
侍女である。
「わたくしは……」
と言いかけて、おじさんは驚いた。
侍女の後ろには、たくさんの侍女がいたからだ。
「ええと?」
「お嬢様、私たちにすべてお任せくださいませ」
おじさんちの侍女隊。
それはもう着飾らせるのが大好きなのだ。
今日はたくさんの令嬢がいる。
おじさんのような超絶美少女をさらに押し上げるのもいい。
そして――タイプの違う令嬢たちを弄るのも面白いのだ。
つまり、皆はにっこにこの笑顔を浮かべていた。
「……任せます」
少しおじさんが引くくらいの圧があった。
「ミーマイカはいますか?」
「侍女長なら既にお茶会の用意を指示されております」
「……なるほど。さすがミーマイカですわね」
と、いうことでおじさんも身を任せることにする。
「さて……エーリカの件ですが」
「これ、このかわいいのいいの!?」
聖女が喜んでいる。
おじさんの話を聞いていないようだ。
「ええ。もちろんですとも。お嬢様は袖をとおされていませんので」
「うへへ。いいいぃぃぃやっふううううう!」
確か二・三年前に贈られてきたドレスである。
もう何を着たのかすら覚えていない。
そのくらい色々と届くのだ。
「リー様、そ、その……私たちもいいのですか」
プロセルピナ嬢だ。
先ほど名前があがらなかった令嬢たちを代表して言う。
「もちろんです。お好きなのを差し上げます。皆、よろしく頼みましたわよ」
はい! とおじさんちの侍女たちが声をあげた。
「……さて、どうしますか」
おじさんは身を任せることになれている。
だって、子どもの頃からずっとそうだったから。
侍女たちがニコニコの笑顔ですべてをセッティングしてくれるのだ。
任せておけばまちがいない。
「エーリカは……絶対にボロをだしますし……お母様を怒らせたくありません」
おじさんは思う。
どうするのが最適か、と。
「ん~仕方ありませんわね。このために開発した魔法ではありませんが……」
ぐるりと見渡すおじさんだ。
この中だと候補は誰だろうか。
「ケルシーは問題外として……」
ジリヤ嬢、あるいはジャニーヌ嬢。
いや……。
「そうですわ!」
おじさんはピコンと閃いた。
キルスティがいる。
あるいはルルエラでもいい。
聖女をよく知る人間ということなら、キルスティが適任か。
「お嬢様、あとは御髪を……」
着付けは終わったようである。
鏡を改めて見ると、アフターヌーンドレスを装ったおじさんがいた。
白をベースとしたドレスだ。
ジャケットとスカートがセットのように見える。
金糸で施されたアラベスク模様的なコード刺繍が見事だ。
差し色に腰のところの紐が緋色になっている。
超絶美少女が着飾ると、もはや訳の分からんレベルになる。
「少しだけ出てきます。すぐに戻りますから」
と、おじさんは指を弾くのであった。
「ちょ、お、お嬢様!?」
転移したのである。
「え? リ、リーさん?」
おじさんが転移したのは学生会室であった。
相談役の三人がいる。
「キルスティ先輩、どうしても手を貸していただきたいことがあるのです」
「え? なに? どういうこと?」
「詳しい話は後で。ヴィル先輩、シャル先輩、少しばかりキルスティ先輩をお借りしますわ」
と、返答を待たずに再び転移するおじさんであった。
残された男子二人は、顔を見合わせていた。
「珍しいな、会長が慌ててるなんて」
「なにかあったのでしょうね。それにあの姿……」
「ん? ドレスを見てなんかわかるのか?」
はぁと息を吐くヴィルである。
「あれは正式な茶会用のドレスですよ。そのくらいの見分けがつかないと、令嬢と交際できませんよ?」
「いいんだよ、おれぁ冒険者になるんだから」
「その後で会長のところでお世話になる気でしょう? まったくズルいです」
かかか、と笑うシャルワールだ。
「そっちは侯爵家の跡継ぎだもんな」
「キルスティも会長のところに行く気のようですし……ままなりませんね」
「ヴィルんところは他に跡継ぎがいないからなぁ」
「まぁ……恐らくですが会長は卒業後に大公の地位に就かれるでしょうから」
「え? そんなことになってんの? 何百年ぶりだよ?」
「というかですよ、うちの父親は納得していましたよ。大公が復活するのなら、リー様以外ありえん、と」
「うへえ……あの親父さんがねえ」
絶句するシャルワールだった。
一方でおじさんである。
侍女に髪の手入れをされながら、キルスティに説明していたのだ。
「……なるほど。そういうことですか」
ん~と考えこむキルスティだ。
眉根に皺を寄せながら。
「私もいくつかヴェロニカ様の逸話は聞き及んでおりますので、協力しましょう」
あとは準備をするだけだ。
絶対に失敗してはいけないお茶会の。
「お嬢様、飾り物はどういたします?」
「すべて任せます。あなたたちに任せておけば失敗はありませんから」
きゃあ、と侍女たちが喜ぶ。
おじさんの全幅の信頼を受けたと思って。
正直なところ、おじさんにはわからないだけである。
ただ、彼女たちを信頼しているのも事実だ。
「それにしても……スゴいわね」
おじさんの超絶美少女っぷりが、だ。
「ああ、そうですわ! 先輩も後でお好きなものを選んでくださいな。差し上げますので」
「そ、そんな! そういうことを言いたかったのでは……」
確かにこの衣装部屋にある服の質の高さ、量の多さには舌を巻いた。
が、そういう話ではないのだ。
断じて。
「いいじゃーん。ゆー、もらっちゃいなよ!」
聖女が声をかけてくる。
いつもよりも愛らしい感じだ。
「もらっちゃいなよ-!」
蛮族二号も着飾って嬉しそうである。
「遠慮なくどうぞ」
おじさんまで畳みかけてくる。
「そ、そこまで言うのでしたら」
でへへと表情を崩すキルスティであった。
乙女は服選びが好きなのだ。
……しらんけど。




