1118 おじさん不在で行なわれる蛮族たちのお宝発見
引き続き、学園迷宮内である。
「ちょっと待ちなさい!」
てててーと無警戒に走っていく一号と二号である。
二人の背を追うアルベルタ嬢たち。
「まったく。リー様以外で誰があの二人を制御できるのかしら」
おじさんの母親がいる。
蛮族たちは知らずとも理解できるのだ。
逆らってはいけない人が。
「あー! なんだこれー!」
ケルシーが叫ぶ。
聖女も足をとめた。
それは穴だった。
壁に空いた穴である。
だいたい人ひとりが通れるかどうか。
かなり狭い穴だ。
「ケルシー、あっち見てみなさいよ。ほら、宝箱がある!」
「ほんとだ!」
聖女が膝をかがめて、穴の中を覗きこんでいたのだ。
確かに、聖女の言うように穴の向こうには部屋があり、宝箱が見えている。
「ちょっと先に行かないでって言ってるでしょ?」
アルベルタ嬢が追いついてきた。
「ほらほら、ここ見て」
聖女が手招きする。
五人が膝をかがめて穴の中を見た。
「宝箱がある!」
目を輝かせたのはルミヤルヴィ嬢だ。
でしょう! と蛮族たちと意気投合している。
「……罠に決まってるじゃない」
切って捨てたのはイザベラ嬢だ。
「露骨過ぎるわよね」
アルベルタ嬢も同意のようである。
さすがに優等生たちは冷静であった。
「いってくる!」
言葉と同時にローブを脱ぐ。
その勢いで、聖女が穴の中に頭を突っこんだ。
「ズルいぞー!」
ケルシーも行く気満々だ。
「ん~この大きさだと私は無理、か」
ルミヤルヴィ嬢たち脳筋三騎士は高身長だ。
故に諦めたのである。
「いや、人の話を聞きなさいよ。まったく!」
ぷんすこ怒るアルベルタ嬢だ。
呆れているのかもしれない。
蛮族の蛮族たる行動を目にして。
後先のことよりも目先の欲を優先する。
その精神性が蛮族なのだ。
もぞもぞ、と身体を動かす聖女。
半分ほど進んだところで、言う。
「ぐえええ! ちょ、この穴ちいさくなってきてる!」
ん? と首を傾げる聖女以外の四人だ。
「小さくなってる? 見た目は変わりませんけど」
イザベラ嬢が言う。
「ちょ、引っ張って」
どうやら二進も三進もいかなくなったようだ。
進むに進めず、戻るに戻れない。
つまりハマったのだ。
ルミヤルヴィ嬢が聖女の両足首を掴んだ。
「エーリカ、今から引っ張るからね」
「いだだだだ! 早く、早く!」
ふんぬ、と力を込めるルミヤルヴィ嬢だ。
だが、聖女の身体がうんともすんとも動かない。
それどころか……。
「いだだだだ! ちょっと待った、一回休憩!」
その言葉に従うルミヤルヴィ嬢だ。
足を離して、ふぅと息を吐く。
「エーリカ、どういう状況なのです? こちらからではわかりませんわ」
アルベルタ嬢が確認を取ろうとする。
「んとね……ちょうどお腹のところだと思うんだけど、ぎゅってなってる」
恐らく壁の中で穴がすぼまっているのだろう。
「だとしたら、そのまま進んだ方がいいのでは?」
単純に身体の大きさの話だ。
頭や肩といった部分が通っているのだから。
足の方が通りやすくなる。
「でしょうね。エーリカ、とりあえず痛いのを我慢して、先に進みなさいな」
「えー!?」
「その方がマシですから」
アルベルタ嬢とイザベラ嬢の言葉に渋々従う聖女だ。
「いだだだ! 誰だ、こんな罠を仕掛けたのは!」
ぶつぶつと文句を言っている。
むしろ、引っかかる方が悪いと思うアルベルタ嬢とイザベラ嬢だ。
「ルミヤルヴィ、悪いけど、エーリカの身体を押してあげて」
アルベルタ嬢の指示に首肯するルミヤルヴィ嬢。
ふんぬ、と力をこめて聖女の身体を押す。
「いだだだだだ! ちょ、ちょっと待っ」
「押しこんで」
無慈悲な一言を告げるアルベルタ嬢だ。
ふんぬ、とさらに力をこめて押す。
すると、すぽんと聖女の身体が壁のむこうに消えた。
聖女は押し出されて、ごろごろと床を転がっている。
「わはははは!」
その様子に笑い声をあげるケルシーだ。
「エーリカ、そっちの部屋に罠はありませんの?」
「……わかんにゃい」
罠があるかどうか確認する余裕がなかっただけである。
ごろごろと転がったから。
「周りを確認して。魔物はいる?」
「う~。いにゃい。宝箱があるだけ」
「うおおお!」
ケルシーのテンションが上がった。
ずばっとローブを脱ぎ捨てる。
そして、頭から突っこむ。
「ぐえええ!」
ルミヤルヴィ嬢だ。
ケルシーが突っこむのと同時に足を引っ張ったのだ。
そのまま、びたーんと地面に落ちるケルシーである。
「なにを見てたのよ? エーリカが言ってたでしょ。穴が小さくなってるって」
「忘れてた!」
でへへと笑うケルシーだ。
「よし! 宝箱だー!」
聖女以外の四人が顔を突きあわせて、穴の中を覗いている。
なんだかんだで興味はあるのだ。
「エーリカ、宝箱に罠がないかの確認よ」
アルベルタ嬢が先に指示をだす。
「どうやって確認するのよ?」
「とりあえず真正面から開けないで」
「もう!」
と言いながら、聖女が横に回った。
腰につけた宝珠次元庫から杖をだす。
おじさんにもらったものだ。
聖女っぽい杖が欲しいとリクエストしたのである。
一メートル半ほどの長さの木の杖だ。
ただし、石突きの部分と先端部分に金属で装飾が施してある。
聖女がふんぬとちょっとだけ宝箱を開けた。
石突きを隙間に入れて、テコの原理で蓋を開ける。
「だらああああ!」
宝箱が大きく口を広げた。
罠はなかったようである。
「お、お、お宝あああ! 大発見!」
宝箱の中には財宝が入っていた。
金銀財宝の類いだ。
海賊のアジトにありそうな。
「うおおおおお! これはテンション上がるわね!」
もちろん、おじさんが用意したものだ。
このくらいなら懐が痛むというほどでもないのだから。
「いただきまんもーす。まんもーす!」
宝珠次元庫にお宝をしまっていく聖女だ。
「で? どうやって帰ってくるの?」
素朴な疑問を口にしたのはケルシーだ。
首を傾げている。
あちらは部屋。
出入り口はこの壁の穴だけである。
聖女が財宝を取れば、取るほど穴が小さくなっていた。
そのことに気づいたのは、イザベラ嬢だ。
「エーリカ、帰れなくなるわよ!」
「な、なんだって-!?」
「そのお宝を戻しなさい。穴が小さくなってるわ!」
「ええ~もったいないじゃん!」
と、手をとめない聖女だ。
「だから、穴が小さくなってるの!」
そう。
彼女たちは穴から覗いているのだから、すぐにわかったのだ。
「だが、断る! ぬへへへ。お宝を戻すことなんてできるわけないでしょ!」
「ないでしょ!」
ケルシーも叫んだ。
まったく、この蛮族たちは。
アルベルタ嬢が肩を落とす。
「部屋から戻れなくなったら、ここでおしまいですわよ」
「終わってもいいじゃーん!」
「バーマン先生は攻略してこいと仰ったのですよ?」
「お宝、お宝」
もはや目がハートマークになっている聖女だ。
そんな聖女に正論など通じるわけがない。
「エーリカ!」
アルベルタ嬢とイザベラ嬢が声をあげる。
そして――穴が完全に閉じた。
「終わったわね」
はぁと息を吐くアルベルタ嬢。
「ふんふーん!」
ケルシーが歩き出す。
「どこへ?」
ルミヤルヴィ嬢が隣にならんで聞いた。
「エーリカ、助けたらいいじゃん。どっかに道はあるってばよ!」
なんともポジティブな蛮族であった。
その言葉に目を見開くアルベルタ嬢たちだ。
「でも、あっちは部屋だったのよ?」
つまり出入り口はない。
だから助けるも、なにもと思うのだ。
が――蛮族にそんなことは関係ない。
「さー行くぞー! お宝を持って帰るんだから!」
だって、聖女のことよりお宝なのだから。




