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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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1145/1194

1111 おじさんまたしても信者を獲得してしまう


 ――廃都ン・デスト。

 その成立時期は定かではない。

 

 ただし、前期魔導帝国よりも前の時代の都市である。

 かつては王都として栄えていたというのだ。

 

 しかし魔物の侵攻によって滅んでしまった。

 その名残がいくつも残っている都市でもある。

 

 今では失われてしまった技術なども見ることができるのだ。

 そんな廃都ン・デストにある神殿である。

 

『ふむぅ……』


 感嘆の声をあげたのはトリスメギストスだ。

 おじさんの使い魔である。

 

 廃都ン・デストの西側にある神殿だ。

 一見すると、朽ちかけた円形のドーム状の建物である。

 

 壁がなく、多くの柱で支えられた開放的な雰囲気。

 公の空間というべき作りだろう。

 往時であれば、だが。

 

 現在では崩れた柱、荒れた床、穴の開いた壁と廃墟感が強い。

 が――それでもかつての空気は感じられる。

 

 ハサン老はぺたぺたと壁を触っていた。

 目が見えないのだ。

 

「質感的には素焼きにした粘土でしょうかな」


「ですわね。わたくしの目にもそう見えます」


「リー様……いや、少し」


 説明を求めたかったのだろう。

 いや、見た目の感想か。

 ただ、自分で触って確かめたいという気持ちが優ったのだ。


「……ハサン老。余計なお世話かもしれませんが、その目、わたくしが治療してさしあげましょうか?」


 おじさんは思っていた。

 この老人の盲いた目は治せると。

 ただ、どう切りだしていいかわからなかったのだ。


 しかし、今なら。

 この状況であれば、言いやすいと踏んだのである。

 

「この目を治せるのですか?」


「治せます。ただし、ハサン老は以前仰っていたでしょう? 魔力の色や形が見える、と。そうした能力は失われてしまうかもしれません。ですので、なかなか言いだしにくかったのですが……」


 かかか、と大笑するハサン老だ。

 おじさんはきょとんとしてしまう。

 

「これはお気遣いをいただいたようで申し訳ありませんな。ですが、そのお気遣いはご無用ですじゃ。治していただけるのなら、それに優ることはありません。なにせこの目で確認できるのですから」


 いくら魔力の色や形が見えようと、実物が見えるわけではない。

 そうしたものよりも、歴史家としては残る遺構をそのまま見たいのだろう。

 

「承知しました。トリちゃん、少し手伝ってくださいな」


『任されよ』


「ハサン老、しばらくの間、目を閉じていてくださいな。そのままです」


 と、おじさんの掌から光があふれる。

 それは治癒の光であった。

 

 ハサン老の目を覆うように、おじさんが手をかざす。

 

「トリちゃん」


『心得ておる』


 おじさんと使い魔で魔法を使う。

 カッと周囲が淡い光に包まれる。

 

「ふぅ……」


 おじさんの目にもハサン老の身体に異常が見えなくなった。

 ものの数分もかからない早業である。

 

「ゆっくりと目を開けてくださいまし」


 手をどけて、言葉をかけるおじさんだ。

 その言葉のとおり、ハサン老が目を開ける。

 

 白く濁っていた目はもうない。

 ヘーゼル色の瞳がしっかりと光を捉えていた。

 

「おお! 見える……見えますぞ!」


 ほろり、と涙をこぼすハサン老だ。

 目が見えなくなるというのは大変なことである。

 その苦労から解放されたのだから。

 

「ああ――神よ、感謝致します。リー様との出会いを授けてくださったことを」


 跪き、祈りの姿勢になるハサン老だ。

 おじさんは黙って、その姿を見ていた。

 

 いつもなら大げさなと思うかもしれない。

 

 だが――ハサン老にとっては大きなことだったのだ。

 故に気持ちを汲んで、見守っていたのである。

 

 そのときだ。

 外からざわつく声が聞こえてくる。

 

 ならず者たちが騒いでいるのだろう。

 黄金の夜更け団ゴールデン・ミッドナイトが支配したとはいえ、まだ時間は浅い。

 

「もう! 不粋ですわね」


「私が黙らせてきます」


 おじさんが首肯すると同時に、侍女が動いた。

 

 数人のならず者たちが揉めている。

 恐らくは詰まらない喧嘩だ。

 

「おおん!?」


 ならず者たちは侍女を見て、威嚇する。

 邪魔をするなということだろう。

 

 だが、侍女にそんな睨みなど効果がない。

 なにせ、おじさんに鍛えられているのだから。

 

「散れ! 今すぐ!」


「ああん!? 誰に言ってんだ、こらああ」


 三人のグループと四人のグループが揉めていた。

 つまり、侍女以外にはチンピラが七人。

 

「あなたたちです。いいですか、もう一度だけ……」


「調子にのんな、おらぁ!」


「はいやー!」


 ずむ、と侍女の足が金的を蹴飛ばした。

 声もなく、一人の男が股間を押さえてうずくまる。

 

 額には大粒の脂汗。

 声すら出せないほどの衝撃だったのだ。

 

「ひぃ……なんてことを」


 ならず者たちがドン引きしている。

 全員が股間をそれとなくかばっていた。


「まだ騒ぐようなら、もう一人くらいいっときますか」


 にやりと侍女が笑った。

 ちんぴらたちは、顔を見合わせていた。

 

 どうしていいかわからなかったのだ。

 引っ込みがつかないという思いもある。


「……散れ」


 だが、侍女の一言の前には無意味だった。


「かしこまりやしたー!」


 同じ目にあいたくないのだろう。

 うずくまる仲間を担ぎ上げて、退散するチンピラたちであった。

 


 一方でオクターナとケルシーである。


「うまー」


 オクターナの膝の上にのせられている蛮族二号だ。

 すっかりペットのようになっている。

 完全に餌付けされていたのだ。

 

「これ、美味しい!」


「であろう? わらわも気に入っておる果実だからな」


 それはザクロのような果物だった。

 鮮やかなルビーレッドの実をかじると、甘酸っぱい果汁が口に広がる。

 

「ほれ、こちらも食べてみるがいい」


 今度は碧色のさくらんぼであった。

 香りはかなり鮮烈だ。

 臆することなく、口に入れるケルシー。

 

「しゅっぱー!」


 顔をしかめている。

 かなり酸っぱかったようだ。

 

「ほほほほほ。これをこうすると……」


 碧色のさくらんぼ。

 水分が抜けていったのか、茶色のしわしわになってしまう。

 

「ほれ」


 ケルシーの開けた口に入れてやるオクターナだ。

 

「あまーーーーい!」


 ニコニコとするケルシーである。

 

「美味であろう?」


「うん。美味しい。もっと食べたい!」


「良き良き」


 人の懐の中にスッと入っていく。

 蛮族ならではのコミュニケーション術である。


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― 新着の感想 ―
 おおぅ……。  方や木の実を潰しろ方や木の実を食ろうておる……。  この対比は中々にエグい。
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