1107 おじさんたちはビブリオバトルの予行演習をするのかい?
放課後のことである。
おじさんたちは学生会室にて会議を開いていた。
今回、学園側からは男性講師が参加している。
ビブリオバトルという初の試みをするのだ。
オブザーバーとして、おじさんが招待したのである。
「美味いなぁ……」
男性講師はご満悦であった。
なにせ、ここでは王国各地のグルメが楽しめる。
なによりおじさんの試作品もあるのだ。
しみじみと男性講師は呟いていた。
今、彼の手元にあるのは銀霜茶である。
セロシエ嬢の実家があるロクロスの名産品だ。
希少なもので、あまり手に入らない。
ただ、おじさんにはロクロスの裏側を牛耳る使い魔がいる。
つまり――いつでも手に入るのだ。
爽やかで、口当たりのいいお茶である。
そして、甘さが控えめの香ばしいクッキー。
実に合う。
「……ということなのですが」
ちらりと男性講師を見るアルベルタ嬢だ。
彼女はビブリオバトルの概要を説明していたのである。
「これは聞いていませんわね」
ほう、と息を吐くアルベルタ嬢だ。
少し目の焦点が飛んでいる男性講師である。
何というか怒濤の日々であったのだ。
前学期の終わり頃から始まった、次期学園長候補という重荷。
もはや逃げたくても、それを許さないという雰囲気があった。
そもそも学園長などというのは、王国における重職のひとつ。
下級貴族出身の男性講師が担うなんてことはあり得ない。
だが、あり得ないことが起こってしまった。
たぶん、その要因のひとつがおじさんだ。
おじさんと縁を持ったこと。
それが男性講師の運命を変えてしまったと言えるだろう。
「……お疲れなのですわ。今しばらくはそっとしておきましょう」
おじさんがアルベルタ嬢に告げる。
「そうですわね」
少しは男性講師に同情しているアルベルタ嬢である。
いきなり学園長候補だなんて、何段階飛ばしなのだ、という話だから。
「では、現在のところの概要はどうなっていますか?」
おじさんが学園を離れている間も、会議は続いてわけである。
で、その途中経過を確認しようというのが今回だ。
「はい。では、私がご説明いたします」
アルベルタ嬢の代わりにジリヤ嬢が口を開いた。
今回は彼女がメインの担当者のようである。
「参加者は学生から募るつもりです。どのくらい集まるかの予測は難しいですが、キルスティ先輩たちからの情報によれば、最低でも二十人は集まるだろう、とのことです」
けっこうな参加者が出るようだ。
いや、学園生の人数からすれば、そんなものかもしれない。
「自らが推薦する本を観客に読ませたいと思わせる勝負ですので、四人か五人を一組にして審査したいと思います。その中で一位をとった者同士で、さらにバトルをする流れです」
いいでしょう、と頷くおじさんだ。
「推薦する本ですが、事前に幾つか主題を作っておき、くじ引きで決めるのが公平でしょう。くじを引くのはリー様にお願いしたいです」
今回、おじさんはプレイヤーとして参加できない。
なので、こういう立ち位置なのだろう。
「会場はどこを使う予定ですの?」
「今回も闘技場の方が良いかと思います。大講堂でも良いのですが、やはり施設面の充実度で言えば、やはり闘技場の方が適切かと」
首肯するおじさんだ。
もともと闘技場は対校戦のために整備したのである。
だが――舞踏会の開催など、今や多目的に使われているのだ。
なので闘技場という名称も変更すべきかもしれない。
「概ねは問題ないかと思います。そうですわね、一度、予行演習をしてみるといいでしょう。そこで問題点を洗い出しておくといいですわ」
「……なるほど。では、さっそく」
ジリヤ嬢が動く。
「え? 今からやるの?」
ニネット嬢が声をあげた。
「もちろん!」
実にいい表情で微笑むジリヤ嬢だ。
「今回の主題は冒険小説としましょう。主題に沿って薦めたい本がある者は挙手を」
はい! と手を挙げたのはジリヤ嬢だ。
それ以外にも、アルベルタ嬢とニュクス嬢もいる。
セロシエ嬢も。
優等生組が手を挙げている状態だ。
「いいでしょう。今回はジリヤ、アリィ、ニュクス、セロシエの四人で行ないます。そうですわね、本がかぶらないように、四人だけで打ち合わせを。三十分後に開始します」
おじさんの仕切りで、ビブリオバトルが始まることになった。
「ねぇねぇ」
と、ケルシーがおじさんの袖を引く。
「お菓子なくなっちゃった」
ちょうだい、と両手を差しだすケルシーだ。
聖女もお菓子を食べ終わって、ずずずとお茶を啜っている。
蛮族たちは、お菓子に夢中だったのだ。
「そうですわね。先の四人以外はこちらへ」
と、おじさんの周囲に集合させる。
そこで差し入れとなる軽食をだすおじさんだ。
「うっひょおおお! これ、これ」
肉まんである。
むんず、と手づかみでいく聖女だ。
半分に割って、かぶりつく。
ほふほふと息を吐きながら、食べていく。
「むむむー!」
聖女がくわっと目を見開いた。
中に入っているのが、なにか気が付いたのだろう。
「そうですわ。今回は角煮マンにしてみましたの」
ケルシーと聖女がハイタッチをしている。
よほど美味しいのだろう。
「アリィたちの分はべつにとってありますので、どうぞ遠慮なく」
あちこちから手が伸びてくる。
やはり、皆が気になっていたのだろう。
「ほっろほろのお肉!」
「とっろとろのお肉!」
飲みこんだ蛮族たちが口を開いた。
「うまーーーーー」
大はしゃぎである。
その声で、意識が戻されたのか。
男性講師が口を開いた。
「なーおれももらっていいかー?」
「もちろん」
おじさんの一言に、にんまりとする男性講師だ。
だが、その瞬間だった。
あちこちから再び、手がにゅううと伸びてくる。
皆が、食べている物以外の確保に走ったのだ。
「え? あ! ちょ、ちょっと!?」
さすがに男性講師も焦る。
次々と角煮マンが消えていくのだから。
「ふがっふぁあああ」
口に角煮マンを咥え、さらに手を伸ばす聖女。
「もいもいもー!」
ケルシーもまた口を使い、手を伸ばしている。
「ちょ!?」
男性講師が慌てる。
「まったく! 調子に乗りすぎですわ!」
ぴぎゃああああ!
蛮族たちが悲鳴をあげる。
おじさんの魔法が炸裂したからだ。
「では、召し上がれ」
お、おう……。
おじさんの迫力に飲まれてしまう男性講師であった。
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