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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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1101 おじさんの居ない薔薇乙女十字団のドタバタ


 野営訓練から学園へと戻ってきた頃である。

 おじさんの講義は終わりだ。

 

 本日の放課後はおじさん抜きの学生会である。 

 ふぅとアルベルタ嬢は息を吐く。

 

 彼女は思っていた。

 私たちは何のためにリー様の側にいるのか、と。

 

 少しは差が縮まるように、と努力を惜しんだことはない。

 だが、その差は広まる一方のように感じてしまう。

 

 頭では理解できているのだ。

 おじさんは特別だ、と。

 

 それもただの特別ではない。

 数年に一度とかそういう話ではないのだ。

 

 それこそ数千年に一人いるか、いないか。

 いや、もっとかもしれない。

 

 とにかく、おじさんに並ぶ者はない。

 そのくらいに突出した存在である。

 

 だから、おじさんと比べることに意味はない。

 そう理解しているのだ。

 

 だけど――やはり一緒に居ると思うことはある。

 

 三学期が始まってからというもの、おじさんは積極的に講義をしていた。

 その内容は素晴らしいと思う。

 

 例えば秘匿通信概論の講義。

 知的好奇心をくすぐってくる仕掛けがあった。

 前期魔導帝国時代に使われていたという魔導暗号だ。

 

 そんなものは聞いたことがなかった。

 加えて、あの魔導紙。

 逸失した物を事もなげに復活させている。

 

 魔法や武術だけではない。

 そうした知識などの面でもまるで歯が立たないのだ。

 

「もう四度目だよ、アリィ」


 セロシエ嬢がアルベルタ嬢に注意をする。

 何度もため息をついていたのだから。

 

「ごめんなさい。少しリー様のことを考えていて」


 くすりと笑うセロシエ嬢だ。


「気持ちはわからないでもないよ。ボクだって先日は領地を襲った百鬼横行(パレード)を裏から助けてもらったんだから」


 少し表情に自嘲が宿る。

 なにが軍師だという話だ。


 おじさんは表舞台には立たなかった。

 その手勢と権能を使って手助けしただけである。

 

 いや、ちょっぴり戦ったけど。

 それは誰にも言っていない秘密だ。


「私、いや私たちはリー様のお役に立てているんでしょうか?」


 率直に思ったことを口にするアルベルタ嬢だ。

 

「役に立つ、ねえ。リー様はそういうことは考えていらっしゃらないよ」


 セロシエ嬢の言葉に、ぱちんと指を鳴らす聖女だ。

 

「今、いいこと言ったわね、セロシエ!」


 聖女がソファーから立ち上がる。

 

「あのさ、リーにとってここにいる皆はお友だちだから。友だちに対して、役に立つとか立たないとか、そういうことは考えないでしょう?」


「……まぁエーリカの言わんとすることはわかる」


 セロシエ嬢が苦笑いをする。

 

「ああ……そっか! あんたら基本的に友だちってもんが居なかったんでしょ!」


 ズバリと核心を突く聖女だ。


 王国の貴族は基本的に子どもを外に出さない。

 そういうのは学園に上がってからの話となる。

 

 もちろん家の中で、お茶会の作法を学んだりはするのだ。

 ただ相手になるのは家族であったり、使用人であったりする。

 

 貴族のお子様は忙しい。

 色々と勉強することがあるのだから。

 

 なので――友だちもまた学園にきてからになる。

 

 ニネット嬢とプロセルピナ嬢は、かなり特殊な例だと言えるだろう。

 彼女たちは近所であり、親同士も知り合いだった。

 

 偶然に偶然が重なって、彼女たちは仲良くなったのである。

 

「そ、そういうエーリカはどうなのです?」


 パトリーシア嬢が好奇心から聞いた。


「アタシ? アタシは村の中だと子どもたちのボスだったもん。そりゃあもう友だちだらけよ!」


 加えて、聖女は前世でも同様だった。

 あけすけで裏表がない。

 そんなさばさばした性格なら、友だちは作りやすいだろう。

 

 要は根明なのだ。

 聖女は。

 

「そうなのです!?」


 ちょっと驚くパトリーシア嬢だ。

 聖女に友だちがいたなんて、と。

 

「もちろんよ!」


 自信満々に言う聖女だ。

 ちなみにケルシーはだんまりである。

 彼女もまたボッチだったから。

 

 いや、ボッチというのは正確ではない。

 村の皆にかわいがられていた。

 いちばん若いエルフだから。

 

 遊び相手に事欠くことはなかったし、クロリンダもいた。

 ただケルシーは友だちだとか、そういうのは考えたことがなかった。

 だって、毎日が楽しかったから。

 

「そんなあーたたちに教えてあげるわ!」


 聖女が滔々と語る。

 

「あのね、アタシたちとリーは上と下の関係じゃないのよ! 横の関係なの。わかる? 身分とかそういうんじゃないってこと。だからさ、まずは呼び捨てから始めなさいな」


「よ、呼び捨て!?」


 聖女とケルシー以外の口から驚きの声があがった。

 

「そうよ。アタシとケルシーだけじゃない。リーのことをリーって呼ぶの」


 確かにそうである。

 家族以外でおじさんを呼び捨てにするのは、蛮族たちだけだ。

 

「まずはそこからね。だって、そうでしょ? アタシたちはリーの友だちであって、家臣じゃないんだもの」


 う……と言葉に詰まるアルベルタ嬢だ。

 だが、ニュクス嬢は言った。

 

「しかし、リー様はあまりに尊い存在! そんな御方を呼び捨てにするなど……」


「私は敬意をこめてリー様とお呼びしているのです」


 イザベラ嬢も続く。


「おねーさまはおねーさまなのです!」


 パトリーシア嬢もだ。

 

 そも貴族という身分制度の中で育ってきたのである。

 やはり、敬称をつけるつけない、その一線は大きいものがあったのだ。

 

 聖女は村娘であり、おじさんと同じく転生者。

 ケルシーは王国とはまたちがう枠組みで育ってきたエルフ。

 故に――その辺りの感覚がちがうのだ。

 

「あのさ、アタシだって聖女って呼ばれるのが嫌で、名前で呼んでって言うでしょ?」


「確かに最初の方はよく言ってたのです」


「それはね、聖女って呼ばれるとアタシ自身じゃないみたいだから。リーだってそこはね、やっぱり思うところがあるんじゃない? だって友だちから様をつけて呼ばれるんだもん」


「分かるような分からないような話なのです」

 

 パトリーシア嬢が首を傾げている。

 ちょっと例え話に失敗した聖女であった。

 

「そこは雰囲気でいいじゃない!」


「いいじゃなーい!」


 聖女の言葉にケルシーが続く。

 なははは、と笑っている。

 

「ニネット、あんたさ、プロセルピナからニネット様って呼ばれたらどうよ?」


「う……ちょっと気持ち悪いかも」


「プロセルピナは? ニネットからプロセルピナ様って呼ばれたら?」


「想像したくないな」


 でしょう? とにんまり笑う聖女だ。

 

「リーだって、それと同じだと思わない?」


 今度は全員が沈黙してしまった。

 

「ねぇねぇ、ちょっと練習してみたら?」


「いいこと言ったわね! 二号!」


「二号って言うな! 一号!」


「いや、あんたが一号って言ったら、それはもう負けを認めてるじゃない」


「ん~よくわからん!」


 高笑いをするケルシーであった。

 

「さぁ、言ってみ? せーのでいくわよ」


 了解もとらず、せーのとかけ声をかける聖女だ。

 

「リ、リー…………」


 基本的には素直なのだろう。

 薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)は。

 蛮族の言葉に乗せられるのだから。

 

「いやああああ! やっぱり無理ですわああああ!」


 なんだかわからない思いがほとばしる薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)たちであった。

 

「やれやれ、ね」


 聖女とケルシーは肩をすくめるのであった。


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