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絶望高校帰宅部  作者: 南野海風
七月
81/202

080.七月十一日 月曜日  美少女降臨編




 期末テストが終わった翌週月曜日。

 最大の難関を越えた僕らは、もう翌週にまで迫っている大型連休――夏休みを意識せずにはいられない。

 休みである。

 休みである!

 連休であるっ!

 毎日毎日必要以上のパワーと気力と忍耐と他諸々を生活に求められる八十一高校に通わなくていい期間である!

 僕にとって、これがどんなに大きな意味を持つか……もうほんと、泣きたくなるほど待ち遠しかった。


 僕……夏休みになったら、可能な限り引きこもるんだ……


 まあたぶん遊びに行ったりなんだりで色々あるんだろうけれど、今の僕は、これまでの日曜祝日と同じように、何もなければ心と身体の癒しに当てたいと思っている。


 ……いや待てよ?

 本当にそれでいいのだろうか?

 夏休みにしかできないこともあるのでは?


 ――そんな間近に迫る大連休を前に、贅沢な悩みをあれこれこねくり回しながら、僕は校舎を出た。





 先日の「手抜き掃除発覚事件」から、僕ら教室掃除はわりと真面目である。……ジャンケンして二名選出のスタイルは(忙しい運動部所属の彼らの意向も兼ねて)変更はないが、掃除自体はほんの少しだけ丁寧に、時間をかけてやるようになった。

 まあきっと、日々が過ぎて粛清の痛みを忘れれば、元の通り手抜きに戻るのだろうが。


 今日の担当は僕と、やはり黒光りする肌が眩しい大喜多君だった。

 ――実は大喜多君の「初手は必ずグー」はなおも健在で、先日のアレは本当にたまたまだったようだ。……もう七月なんだけどなぁ。五月からやってるんだけどなぁ。……さすがにちょっと悲しくなってきたなぁ。


 そんなわけで、掃除を終えた僕はようやく学校を出ることができた。

 そういえば、一人で帰るのは久しぶりである。よく一緒に帰る柳君と高井君は「待とうか?」と言っていたが、掃除に時間が掛かるので先に帰ってもらったのだ。……そういえば彼らの掃除区分はどうなっているのだろう? 聞いたことないけど僕らのように割り振っているのだろう。……弥生たんにバレろ。早く。


 ま、たまには一人で帰るのもいいだろう。


 いつもより十五分から二十分ほど遅い帰宅時間。

 帰宅ラッシュはすでに終わっていて、校門をくぐる生徒はもうほとんどいなかった。





 僕は夏休みの予定を色々考えながら、のんびり歩いていた。

 あと、天塩川さんのことも。

 フラれるのは覚悟してるけど……でもやっぱり遊んだりしたいなぁ。夏祭りとか一緒に行ったりしたいなぁ……


 そんなありえない夢を見て、妄想し、首を振って現実に戻り。

 隣に広大な八十一第二公園を臨む、八十一商店街へと渡る交差点で、それはやってきた。


「おーい。そこの君ー」


 ――女の子の声!?


 敏感に、もはや過敏すぎるほどに素早く意識するや否や、僕は弾かれたように振り返った。


「あ……」


 公園から手を振っている女性を見て、僕の心は高鳴った。


 清廉潔白を表すような真っ白のブラウスに、朱色の棒ネクタイ。

 それは、僕の憧れの、九ヶ姫女学園の夏服だった。


 しかもだ。


「う、うそだろ……!?」


 僕は呆然とし、慌てて携帯を取り出し、その写真を開く。





 きっちり真横に切り揃えた額と、ラフに掛かったセミロングのソバージュの後ろ髪は、明るいキャラメル色。

 身長は僕と同じくらいだが、均整の取れたスタイルは等身が高く、より長身に見えた。

 色素の薄い白い肌は、陽を反射して眩しく輝き。

 幼い顔立ちの中、芯の強そうな瞳が印象的で。


 間違いない。

 あれは絶対間違いない。

 写真と本人を何度見比べても間違いない。

 間違いようがないほど間違いない。


 だって写真よりもっとかわいいから。





 今、僕の目の前にいて、僕へと駆けてくる彼女は。


 九ヶ姫女学園でもっとも人気がある三人の一人――月山稟だ。




 え、これ何の冗談?

 ――まず僕が思ったのは、それだ。


 なんだかよくわからない内に公園の中に移動した僕の目の前に、本当なら写真でしか見られないような超美少女がいる。

 そして僕を見ている。


 ――な? 冗談みたいだろ?


 まあ冗談というか、……そうだな……そう、白昼夢? 女の子に飢えた僕が見ている瞬きの幻みたいな?


「あのさ、君さ」


 うわ、しゃべった! 幻のくせに!


 ……いや、わかってるよ。わかってるさ。実物だよね。無駄に駄々漏れの美少女オーラが圧倒していて、現実味がないってくらい輝いて見えるけど、本当にそこにいるよね。


 本物の月山凛(・・・・・・)だよね。


「冗談はやめてくれ!」

「は?」

「君みたいな子が僕を逆ナンなんてするはずないじゃないか! ……千円しかないけどいいかな!?」

「なんの話?」

「この私がちょっとしゃべってやるから金出せって言うんだろ!? ……千五百円しかないけどこれで勘弁してくれる!?」

「援助交際かよ。君ちょっと落ち着きなよ」


 これが落ち着いていられるかーーーーーーー!!











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