第百三話 それぞれの想い
夜。
俺は、今日のことを、ベッドに座りながら思い出していた。
今日小由里ちゃんと過ごした楽しい時間。
思い出すだけでも、胸が熱くなってくる。
ファーストキス。一生忘れられない思い出だ。
しかし……。
俺はこれからやらなければならないことがあった。
それはつらいことだ。
だんだん気が滅入り始めてくる。できれば避けたいところだが、そうもいかない。
小由里ちゃんと恋人どうしになった以上、夏音ちゃんと弥寿子ちゃん、そして裕子先輩には、そのことを伝え、俺のことをあきらめてもらわなければならない。
今日もこの後、ルインが送られてくる。
彼女達は、俺のことが好きで、恋人どうしになりたいと思っている。そんな彼女達の想いには、結局応えることはできなかったのだ……。
彼女達には、言葉で言わなければならないだろう。彼女たちの想いに応える為には、せめてそれだけはしなくてはいけない。
怒られるかもしれないし、泣いてしまうかもしれない。
でもそれは仕方がない。俺はそれを受け止めていくしかないのだ……。
みんな、ごめん。
俺は心の中で謝る。
俺はまず夏音ちゃんに電話をした。
最初は、俺からの電話ということで、とても喜んでいた彼女だったのだが……。
俺が、
「小由里ちゃんと付き合うことになった。夏音ちゃんとは付き合うことはできない」
というと、泣き出した。
「どうして、どうして! わたし、こんなにもおにいちゃんのことが好きなのに……」
俺はただ黙っているしかなかった、
これで、いとことしての関係も壊れてしまったかもしれない。いい親戚でいたかったけど……。おじさんやおばさんにも申し訳ない。二人にもいずれ謝りにいかなきゃいけない……。
そう思っていると、彼女は、
「おにいちゃん。わたしがこんなこと自体であきらめると思っているんですか?」
と涙声ながらも、力がこもり始めた声で言う。
「小由里さんが一歩リードしたのは間違いないのかもしれません。でもわたしには、おにいちゃんに対する熱い愛があります。それは、小由里さんにも勝てると思っています。これからもおにいちゃんに毎日、想いを伝え続けていきます」
「夏音ちゃん、そんなにまで俺のことを。こんなたいしたことのない俺を好きでいてくれるなんて……」
「わたしにとって、好きな人はおにいちゃんだけなんです」
こうして、結局、夏音ちゃんは、俺への想いをあきらめることなく、かえってその想いを強くした。
うれしいという気持ちがどうしてもある。
ただ小由里ちゃんのことを想うと、複雑な気持ちだ。
弥寿子ちゃんに対しては、部活の後で言うことにした。
今日もルインで、「好き」と書いてきたが、心が痛む。
夏音ちゃんもあきらめなかったのだから、弥寿子ちゃんもあきらめることはないだろうなあ……。
それでも伝えなければならない。気が重くなるが、仕方のないことだ。
そう思っていると、小由里ちゃんから電話がかかってきた。
彼女からかかってくるのは、初めてに近い。幼い頃以来だと思う。
「今日は、一生の思い出となったよ。ありがとう。どうしてもこの気持ちを伝えたくて」
俺はその声で一挙に力がでてきた。涙が出るほどうれしい。
「俺にとっても一生の思い出だよ。うれしかった。ありがとう」
「うん。また明日ね」
「うん。バイバイ」
「バイバイ」
短い会話だったが、彼女の優しさを改めて感じることができた。
これから、どんどん恋人らしくしていきたいなあ……。
俺は、強くそう思うのだった。
翌日。
昼休み、食事を終えた後、グラウンドのベンチに座り、優七郎にこれまでの感謝をした。
優七郎は、
「よかったなあ。二人の幼馴染として、大いに祝福するよ」
と言ってくれた。
我ことのように喜んでくれている。
思えば、幼い頃から、俺と小由里ちゃんの関係を応援してくれた。
今まで、いろいろアドバイスをもらった。いい友達をもったと思う。
「ただ、お前のことを好きな子たちへの対応だな」
「そうなんだ。これをどうしたらいいかと思う」
「お前はどうしたいんだ。小由里ちゃんと恋人どうしになったんだから、これまでと同じというわけにはいかないんだろう」
「そうなんだけど……。昨日夏音ちゃんには話をしたんだ」
「どうだったんだ」
「彼女、俺のことをあきらめるどころか、俺のことを、ますます好きになった気がして……。なんで俺のこと嫌いにならないんだろう」
「うーん。でも夏音ちゃんの気持ちもわかる気がする。これはどの魅力的な男の子だ。そうそうあきらめることなんてできないだろう」
「お前まで俺のことを魅力的って言うなんて……」
「以前も言ったことあるけど、お前ほど魅力的な人はなかなかいないと思うぜ。しかも彼女は、幼い頃からお前のことをずっと想っている。このまま、まずますお前のことが好きになりそうだな」
「お前の言う通りかもしれない」
「でどうするんだ。このままというわけにもいかないだろう」
「そうだなあ……。でも俺なんかより、素敵な人はいるだろうから、そういう人に出会えれば、自然と俺のことなんか忘れるようになるとは思っているんだけど」
「彼女のお前に対する想いはそんなものじゃないと思う」
「うれしいことではあるんだけど」
「それにお前達はいとこだ。それも話を難しくしているところはあるよな」
「そうなんだ。親戚だから、そういう意味で彼女と疎遠になりたくない気持ちはあるんだ。疎遠になるのはつらい」
「そうだよなあ。ましていとこだし」
「好きとか恋とか、そういうもの以前に、彼女との思い出は、大切にしたいし。仲良くやっていきたいと思っているんだ」
「でも両立は難しそうだな」
「なんとかしていきたい」
「お前がそう思っているのなら、やっていけると思う」
「そう言ってくれるとありがたい」
「とにかく夏音ちゃんはお前のことが好きだ。お前は、仲のいいいとこどうしでいたいと思っていると思うし、それは俺も賛成だけど、彼女はお前と恋人どうしになりたいと思っている。そのことは言うまでもないと思うけど、心に充分入れておいた方がいい」
「ありがとう」
俺は優七郎にそう言った。
「面白い」
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「先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。」
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