表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/59

過去話 バレンタインSS 割れたクッキー

バレンタインに割烹にあげた物です。

二人の過去になります。

 ここエクセリオン帝国では、冬のとある時期に、気になる異性にプレゼントを贈る風習がある。ローイックがそれを知ったのは、帝国に連れてこられた翌年だった。祖国でも同じ風習があり、地域性なのかとも考えたが、今の自分ではどうでもよい事だと結論付けられた。

 今日もローイックは雪で白く化粧された宮殿裏の腰壁にもたれ、漠然と真っ白な景色を眺めていた。


「ローーーイーーーックーーー!」


 聞き覚えのある声に振り返ると、頭からすっぽりと白い毛皮のコートに覆われた何かが、白い粉を巻き上げて走ってくるのが見えた。足首まで積もった雪に苦労しつつ、手には小さな袋を振り回しながら、白い息を吐き出して駆けてくる。


「今日はちゃんと上着を着てるな」


 駆けてくるのがキャスリーンと分かり、ローイックの頬も緩む。


「やっほーー!」


 ローイックが自分を見たことに気が付いたキャスリーンが大きく手を振ってくる。だが雪に足を取られ、彼女はローイックに辿り着く前に盛大に転んだ。頭から雪に突っ込んで雪煙を上げている。


「いったぁーい!」

「キャスリーン!」


 ローイックは不味いと感じ、駆けだした。積もった雪が足に絡みつくが、なけなしの筋肉で蹴り飛ばす。が、仕事人間のローイックにそんな筋力があるわけはなく、キャスリーン同様、派手に転倒した。


「イテテ」


 顔を上げたローイックの前にはケタケタと笑うキャスリーンが座っていた。彼女は鼻をぶつけたのか、ちょっと赤くなっている。だがそれ以外に怪我はなさそうだった。その事に、ローイックは安堵の息を漏らした。


「あはは、ローイックも転んだね!」

「はは、転んでしまいました」


 ローイックもつられて笑う。

 二人で笑いあっていると、キャスリーンが「あっ!」と声を裏返した。手に持っている袋をがばっと開け、中を確認し始めた。


「あーーー! 割れちゃったー!」


 袋を覗いていたキャスリーンが泣きそうな顔になってしまった。ローイックは驚いて声をかける。


「ど、どうしましたか?」

「せっかく、うまく作れたのに。割れちゃった……」


 キャスリーンが袋を差し出してくるので、ローイックは覗き込んだ。袋の中には、割れてしまったクッキーがいくつも入っていた。


「ローイックにあげようと思って、一生懸命作ったのに……」


 キャスリーンの緋色の瞳の前には大粒の涙が見え隠れしていた。ローイックは慌てて袋の中のクッキーを一欠片取り出し、キャスリーンに見せた。割れているが、美味しそうな茶色のクッキーだ。


「割れてても、美味しそうですよ」


 ローイックはそのクッキーの欠片を口にいれた。そして微笑んだ。


「うん、美味しいですよ」

「ほんと!?」


 キャスリーンの顔がぱぁっと明るくなる。

 この娘は笑顔は、いいなぁ。

 ローイックは何度も思い知らされている事実を、今日も思い知らされた。


「キャスリーン嬢も食べますか?」


 ローイックが袋から割れたクッキーを取り出せば、キャスリーンは「食べる!」と言って指ごとパクっと食いつく。


「ん~、おいしー!」


 キャスリーンは二パッと笑った。可愛いと美味しいは正義だ。


「失敗作はお父様にあげてよかった!」


 キャスリーンが笑顔でそんな事を言い、袋から割れてしまったクッキーを取り出して、ローイックの口元に運んでくる。

 ローイックは、数回しか見たことのない、彼女の父である皇帝陛下に同情しつつ、差し出されたクッキーを唇に挟んだ。



当時の年齢

ローイック19歳

キャスリーン14歳

次回も幕間です。

着物チャレンジです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ