貴族のグルメ、粗食ダイスキ！くろいあんそくびさん

「私は美食の先に、粗食へ辿り着いた」

（Küröy Ansöckbee）

　留置所から出て幾日か過ぎた。私は現在、自宅の宮殿で珈琲をたしなみながら本編を執筆している。日々の食事は専属のシェフに任せているが、昨日食べたものをご覧いただきたい。

【朝食】

・麦ごはん（五穀米）

・鮭フレーク

・ゆで卵 (ぬか漬け)

・納豆

・みそ汁（切り干し大根）

【夜食】

・麻婆キャベツ（牛肉・枝豆）

　以上、一日二食を基本としており、時にはヨーグルトを追加することもある。炭水化物の摂取量が極端に少ないが、別にダイエットしているわけではない。カレーを作った時など一食で二合のご飯を食べることもある。

　私は悟ったのだ。無理して食事制限する必要はないが、無理して食べる必要もないと。

　映画館で上映中にスマホを見るな、居眠りするな、集中しろ。そんな奴に作品を語られると貴族剛掌波を放ち奥歯を粉砕したくなる。そして再び留置所へ……ダメじゃん。しかし私にとっては食事も同じ、集中したい。集中できないのに食べるのは、もったいないと感じるのだ。

　仕事中や運転中にお菓子をつまむ、これはアリだろう。味や食感、そして仕事や運転に集中できる。ガムなんて最適だ。

　しかし毎日毎食ガッツリガッツリ食べ、空いた時間も絶え間なく何かを食べ……こうなってくると甘いもの濃いものしか食べられなくなるはず。これはもう心の病気だし、次に体の病気となるのはさけられない。

　映画は二時間、食事は毎食、集中して味わいたい。

　さて、話を戻して。

　監獄での食事は「臭い飯」と表現されることが多い。理由は諸説あるが、私は確信を持って正解とする解答を持つ。刑務所は主食が麦飯であると聞く。そして麦飯は、臭いのだ。

　私は二日に一回はラーメンを食べることにしているので、ご飯の消費は少ない。週に一度、二合炊いて四等分し、ラップで包み冷凍保存している。え？シェフに作らせてるんじゃなかったのって？うっせえな……

　そのご飯も五穀米のおいしさを知ってからは、押し麦半分・白米半分・雑穀スプーン一杯の割合で炊飯している。色々試してこの割合になったのだが、実験で押し麦の比率を上げて炊飯したことがある。

　これがまあ臭いのなんの、味や食感は悪くないが匂いがダメだ。これが「臭い飯」の語源だと理解した。

　そんな食い物にうるさい私だが、ムードや情緒は重視する。

　観光地でミスタードーナツやCoCo壱には行かない。

　海に行けば海鮮を食べ

　山に行けば山菜を食べ

　万博に行けばミャクミャクを食べ

　ディズニーランドでは野生のネズ (自主規制)

　……私が留置所で、どのような食事に期待していたのか。読者諸兄姉はご理解いただけただろうか。

◇◇◇

　午後12時 (正午)

　鉄格子の下にある、ネコの出入り口のような扉が開き、昼食が配られる。

　コップのお茶、そして銀杏の模様が描かれた赤いプラスチックの弁当箱。

　……弁当箱のデザインが良い。地方の仕出し弁当って感じがたまらない。手に持っても軽く、その高級感の無さが味わい深い。これならマクベもニッコリ、キシリアさまに届けたくなるはず。それならゼクノヴァは起こらなかった。 (謎理論)

　警察署の近所にある老舗の弁当屋さんが作ってくれたんだろう。白い軽のバンに乗って店主である老翁がみずから配送してくれたんだろう。勝手な妄想だが止まらないこと腐女子の如し。

【昼食】

・仕出し弁当

　なすの煮びたし

　きんぴらごぼう

　とんかつ（少量）

　さくら大根

　白米＋黒ゴマ

・コップに入ったお茶

　くぅ～痺れましたw これにて昼食です！

「……いただきますわ」ファサ

　古のネットミームはともかく、私が期待していた留置所の食事とはかけ離れている。もっと粗末で貧弱なものを想像していたのだ。しかしナウなヤングが満足するものでは無いのも確か。そこは大いに気に入った。

　本編より面白いかもしれない感想欄に「予算は警察署によって異なるものの、大体1食300円位」と書かれていたが、的を得ている。そして同価格帯でスーパーなんかに売られている弁当の企業努力がよくわかる。量が違うのだ、圧倒的に少ない。

　全てのおかずがカップに入れられ、その量の少なさを見た目でごまかしている。主食である白米も、しゃもじで切って広げている。ほっかほっか亭でバイトしていた私の目はごまかせない、ワタシでなきゃ見逃しちゃうね。久々に血が騒ぐぜ、ワタシの得物だ……!!

　思わず盗賊の極意 (スキルハンター) を使いそうになった私だが、あいにく窃盗罪ではなく傷害罪だ。ここは念ではなく燃を使って食事に没頭しよう。

［なすの煮びたし］

　おいしい。出汁が染みてトロトロだ。量は少ない。

［きんぴらごぼう］

　おいしい。噛めばゴボウが香る。丁寧に煮込まれ柔らかいが、個人的にはもっと硬くてもいい。背後関係にゴマ油の存在感……令状をとって家宅捜査の必要があるな。量は少ない。

［とんかつ］

　おいしい。でも小さい。おそらく一枚のとんかつを３等分したバラバラ事件だ。そういえば留置されている被疑者は３名。なるほど、見えてきたぞ。おい、ヤス！聞き込みを始めるぞ。まずはポートピア周辺からだ。もちろん量は少ない。

［さくら大根］

　おいしい。とはいえ不自然なほどのピンクな蛍光色。こいつは出来合いの漬物を乗せただけだな。風営法違反だ、キャストと客を拘束しろ。当然のように量は少ない。

［白米］

　おいしい。黒ゴマが少量かかっているだけで、普通に白米だな。麦も混ざってないようだし……こいつはシロだ。白米だけに。お茶碗小盛り程度で量は少ない。

　最後は「めしばな刑事タチバナ」みたいになってしまった。そういえばテレビ版は……いや、立花役に佐藤二朗は素晴らしい配役だったが、強烈に貧乏くさい番組だった。もうちょっと予算どうにかならなかったのか。