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リュウチジョ―で朝食を Breakfast at Jail’s



 目が覚めた。



 オレンジ色の常夜灯が部屋を照らしている。



「知らない天井ですわ……」




──────────


第伍話 見

    知

    ら

    ぬ、 天 井


──────────



 窓からは日光が差さず、まだ暗い。

 この部屋の天井は不自然に高く、遠い。



「知らない天井……あたりまえか、何でここにいるんだろう……」

(CV:緒方恵美)



 懐かしいパロディはともかく、私は起き上がり布団を畳む。

 寝具は全てペラッペラに薄いが、空調がガンガン効いているので快適だ。やっぱクーラーは人類の至宝、まさに科学の勝利ね(CV:三石琴乃)


 しかし枕はいただけない。小さく薄く柔らかすぎる。こんな枕で寝てたら首が損傷、活動維持に問題発生、シンクログラフ反転パルス逆流してしまう。



 留置場の居室には時計が無い。しかし鉄格子から外を覗けば、壁時計を見ることができる。午前5時、いつも起きている時間だ。そう、私は意味もなく無駄に朝が早いのだ。


 日課のスクワットを軽く行ってから壁に背もたれて座る。徐々に差す日の光、片膝立てて壁のシミをじっとながめる。ふふふ、私は犯罪者、ここは留置場、愚か者の吹き溜まりってヤツさ……


 そんな囚人ムーブに浸っていると、隣人の豪快なオナラが鳴りひびいた。ついでにイビキも。そう、全ての生活音は筒抜けなのだ。すっかり萎えた気分になったところで照明が点灯、時間は午前7時、点呼の始まりだ。



バタバタバタ……


「38番」


「……」


「38番、おはよう、38番」


「……はい」


「おはよう」



バタバタバタ……


「42番」


「……」


「42番、おはよう、42番」


「……あーい」


「おはよう」



 何人かで各部屋を回り声をかけているようだ。なるほど、これが朝の点呼か。被疑者(留置所に入れられてる人)たちはみんな朝が弱いようだ。隣人も気が落ち着いたようで妙にかわいい返事をしていた。私は既に起きて時間が経っている、順番が来たら元気に返事するとしよう。



バタバタバタ……


「56番」


「はーい!」


「なにが好き?」


「傷害罪、よりもア・ナ・タ!」



愛♡スクリ~ム!!!



 旬の過ぎた流行を追いかけるのは恥ずかしいというが、最近は流れが早すぎると思うのだがいかがだろうか。エッホエッホとかかわいくて、いつまでも見ていたいのだが……



 点呼の後は部屋を出され布団を収納、それから洗顔と歯磨き。そして身体検査をして部屋に戻り朝食を待つ。


 午前8時、朝食が配られる。

 鉄格子の下には、ネコの出入り口のような小さい扉があり、そこから食事が配られる。



【朝食】


・ミルクコーヒ 紙パック 200ml

・コンビニパン(ジャムパン)

・コンビニパン(コッペパン)

・コップに入ったお茶



 はぁ~~~(クソデカため息)



 いや、量や内容に不満があるわけではない。私は基本少食だし、普段から日常的に麦ごはんを主食とするほど粗食を好んでいる。ため息の理由は、あまりパンを食べないというのもあるが、今まで菓子パンを避けてきたからだ。糖質のかたまりじゃん、ここ数年は買った記憶がない。


 とはいえ下等な犯罪者の身分で贅沢など言えない。有難く拝領致し候なれば、馳走を頂戴する也。



 まずはジャムパン。

 まずは一口。

 マズ……くはない。むしろおいしい。


 ひさびさに口にした菓子パンだが、柔らかい。自宅だとノンフライヤーでカリっと表面を焼きたくもなろうが、ここは留置所流されて俺 (ブルーゲイル)


 噛めば噛むほど味が出るものではないが、一口目の香ばしさは悪くない。適度に人工的で安っぽい味が、ほのかな甘味を伴って口の中に広がっていく。


 私は噛む、念入りに噛む。


 ミルクコーヒーを口に含み、液状化したジャムパンを喉に流し込む。甘い。甘い。甘い。


 ふたくち目にしてジャムに到達。

 影山ヒロノブが歌いだす。

 そのジャムじゃない。

 ジャムの果物、リンゴの香りが煌めく粒子を放ち、口内の勢力図を塗り替えた。もはや誰にも、止められないぜ。


 ミルクコーヒーはストローが取り外され、飲み口が小さく切断されており、そこから吸うように飲まなければならない。非常に独特な飲用方法だ。


 私は意図的に食事は時間をかける。噛んで噛んで、ゆっくり食べる。ジャムパンは咀嚼され、喉に流され、腹に落ちていく。



 続けてコッペパン。


 これこそ焼いてカリカリにしたかった。

 香ばしさを立てたかった。


 しかし素のまま堪能するのも一興。


 どこから口にしても味に変化なし。

 だが、それがいい!と言ったのは花の慶次か。私を取り調べたのは〇〇署の刑事だ。こういう素朴で高級感の薄い存在は、食べ物ならずとも私の好む趣味嗜好ではある。貴族だけど。



 最後はお茶を腹に沈める。

 薄い、そして安物の麦茶、大変好ましい。

 自宅でコーヒやお茶を作るときは、濃い目にしようと試行錯誤してしまいがちだが、それは本来浅ましい行為なのかもしれない。素朴でいい。素朴がいい。



 思いのほか朝食を堪能してしまった。

 では今回はここまで、次回もサービスサービス!



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― 新着の感想 ―
なんか普通のご飯だ! 臭いメシ、なんて今では流行らない、というか人権が云々でやりたくても出来ないんだろうなあ。
一食300円ぐらいだと……? 社会人の私よりもいいもの食いやがって! 今日のごはんは納豆ごはんのみ! でしたあぁぁぁあ!!!
調べてみました所、留置場には調理する施設がないので食事は近所の弁当屋さんやパン屋さんなどに外注した物みたいですね。 そして予算は警察署によって異なるものの、大体1食300円位だそうですね。 そう考えま…
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