秘奥義、貴族剛掌波!「貴族の掟は私が守る」
「我が生涯に一片の悔いなし!」
……いや、悔いてはいるが剛掌波なので一応。
閑話休題。
第二話になる今回は、メインで語りたかった留置所の話を書くつもりだったが、感想欄にいいコメントをいくつか頂いたので予定を変更する。心の池上彰が素直に続きを書くことを許さなかったのだ。
第一話の冒頭は私が貰った起訴状の写しである。そこに書かれた私の罪状は「暴行罪」となっているが、逮捕時の罪状は「傷害罪」である。
人を叩くと「暴行罪」
ケガをさせると「傷害罪」
読者諸兄姉にこの知識を必要とする機会は訪れないと思うが、一応覚えておいて頂きたい。傷害罪は結構重いのだ。
◇◇◇
ぶっちゃけると暴行罪、つまり人を叩いたくらいで留置場に入ったり前科が付くことはそうそう無い。少々ケガをさせたところで、せいぜい48時間の留置所入り。揉めそうなら弁護士でも呼んで相手に謝罪を伝えるか示談金でも払い、起訴を取り下げてもらえばいい。警察もそれを推奨してくる。
さて黒い安息日、あの日あの時偶然にもドアを開けようとした住民を掴まえることが出来た。出来てしまった。ていうかドアを開けたら、そこに彼は立っていたのだ。彼は言った。
「あ、ごめんなさい、間違えました」
黒い安息日は咄嗟に彼の胸倉を掴んだ。
左手で。
なぜなら右手は、障害があるから。
私の障害手帳には「右肩関節機能障害」と記されている。足と同じく事故で壊れているのだ。日常生活には困らない程度には動かせるが、相手の胸倉を掴むほどは動かせない。
それと、こちらの方が重要だが、左手で相手の胸倉あるいは肩を掴むことで体をコントロールすることができる。攻撃であれ防御であれ、有利に持ち込める。今はこんな体だが元々武術の有段者なのだ。
私は悩んだ。
さて、どうしたものか。
現行犯逮捕ではある。しかし警察曰く勾留や起訴は難しいと。感想欄で「住居侵入罪」の成立について問われたが(いい感想です)私はドアのカギを必ず閉めていたため、相手が侵入したわけではなく成立しないのだ。彼の迷惑行為で私に睡眠障害や鬱病などの被害があれば、刑事訴訟もワンチャンあるかもしれないが、現状打つ手なし。
これは警察の落ち度というより司法の問題である。ゆえにストーカー規制法や迷惑防止条例などの法整備が急がれているのだ。私は思う。警察は法(刑法)の執行者であり、正義の味方ではない。それでいい、と思う。正義など人の数だけあるのだから。
……とはいえ、こういう時はイラっとするけどね。
私は考えた。
このまま彼を開放しても、また同じことを繰り返すだろう。
とはいえ感情に任せて暴行するのも違う。そこまではしたくない。
……というわけで、ビンタを3発お見舞いした。
大ケガをしないように、それでいて派手で大きな音が出るように、なにより二度と迷惑な行為がしたく無くなるよう、忘れられないようなビンタを狙って鞭のように叩いた。
……失敗した。
いや、体重は乗せてないし力も込めていない。そんなことすれば頚椎(首の骨)に損傷を与えてしまいかねない。そうならないよう頬だけに衝撃を与えるつもりで、完全に脱力からの平手打ちだったのだが……これが一周回ってまずかった。柳龍光の鞭打がごとく一撃が入ってしまい、左の歯をベキベキに砕いてしまったのだ。
やりすぎた……
正直あんまり反省していないのも事実だが、かわいそうなことをしたという気持ちはある。ケガを負わせたくはなかった。せいぜい怖がってくれて、もう私の家に来ないでくれたらそれでよかったのだ。
しかし同時に、これで済んでよかったとも思っている。何かの間違いで致命傷を負わせたりしなくて済んで本当に良かった。なにより素手でよかった。私は武術を学んでいたからこそ、逆に道具を使うことに躊躇しない。正直ホッとしている。
ほんとギリギリで助かった、相手よりむしろ自分自身に対してそう思っている。
話をまとめつつ感想欄で頂いた疑問にもお答えしよう。迷惑行為を行った住民は「シバイてください」とは言ったものの、これはさすがにやりすぎである。このあと彼は病院へ。そこで医者に理由を聞かれ、通報があり警察が動いたのだ。ゆえに私の逮捕時の罪状は「傷害罪」。
……あら、貴族令嬢らしからぬシリアスな話を書いてしまいましてよ!
これより先は明るく楽しい留置所編ですわ!
ご照覧あれ、ホーホホホ!
◇◇◇
余談だが、しばらく見ないうちに「なろう」で実装されていた顔文字スタンプ。本編第一話で押されている泣き顔が、明らかに本来の使い方と違っててめちゃめちゃ笑った。ていうか今も笑っている。それは本来悲しい話や感動した時に押すものでは?




