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貴族令嬢、留置所で読書


(前回までのあらすじ)


2025年、貴族令嬢・黒い安息日は傷害罪で逮捕された!

留置場に入れられ、隣人は暴れ、尻は痛み

全ての時間が苦痛な退屈であるかのように見えた

だが、小説の貸し出しがあったッ!


タイトル:「 貴 族 の 拳 」


「愛をとりもどせ!!」クリスタルキング

https://www.youtube.com/watch?v=SbU9ZZ0WHnA



第十話 炸裂!貴族剛掌破!

    黙秘貫くとき、弁護士現われり!



◇◇◇



 みなさまご機嫌よう

 若く美しき貴族令嬢・黒い安息日でございます

 土曜の朝、優雅におすごしですか?

 え、もう昼だろって? うっせえな……


 さて、留置所では一切の持ち込みを禁止されており、本や雑誌の購入もできない。ちなみに、刑務所では制限はあれど差し入れや購入が可能であるとのこと。


 ヒマで苦しみ悶える被疑者 (留置所に入れられた人) にも救済はある。それは、死。死は救済。違う。いくら犯罪者であってもそこまでしたら可哀そう (可哀そうじゃないのもいるが)。それは「官本」、つまり本の貸し出しである。



「56番、この中から借りたい本を選びなさい」



 部屋の正面にある鉄格子、その下にあるネコの出入り口のようなトビラが開き、警官が一枚の紙を差し入れた。

 そこには両面びっしり本のタイトルと作者名、全部で60冊くらい書かれている。借りられるのは一冊、午前9時から午後8時まで。

 警官は正面に立ち、私が選ぶのを待っている。エッホエッホ、急がなきゃ……


 でもさ、知らないタイトルと作者名で本を選ぶのって難しくない?


 できれば剣豪小説などが読みたい。津本陽なんかあるとうれしいね、池波正太郎なんてグルメ小説もかねてて最高……


 ……無いな、知ってる本が。


 結局読まなかったけど、リストにあった本。



◇◇◇


「もものかんづめ」さくらももこ


 後日ネットで調べたところ、読みやすく面白い作品とのこと。これはしくじった、読んどけばかった……


◇◇◇


「蹴りたい背中」綿矢りさ


 聞いたことがあるタイトル。最年少で芥川賞だっけ?でも留置所で読みたい気分になれなかった。


◇◇◇


「変な家」雨穴


 えええ!この本あるんだ!意外!でも、YouTubeで視聴済みなんだよね……


◇◇◇



 うーん、どれを読むべきか……焦るんじゃない、私は本が読みたいだけなんだ。ん?なんだ……この「ルパンの娘」ってのは。うん、よしこれだ、これはいい。留置所でルパンとは気がきいてるじゃないか。



「スイマセン、この【ルパンの娘】を貸し出してください」


「あ……ごめんなさい、それ、来月からなんですよ」



 がーんだな……出鼻をくじかれた。



 ……ゴメン、嘘。捏造した。警官はすぐに貸し出してくれた。このエッセイを読んでる人にアームロックをかけられる前に、そして自分の記憶のために、読んだ本と短い感想を書いておこう。




◇◇◇


「ルパンの娘」横関大


 貸し出す本に漫画や雑誌はなかった。しかし苦痛を覚える退屈とお尻のために読む本なので、重厚な作品はさけたかった。本作はベストチョイス。

 恋と笑いとミステリー、なろうで作品を書くようになって気付けた文章のうまさ。読後人生観が変化したりはしないが、続きを読む楽しみが増えた。いいじゃないか、こういうのでいいんだよ。


◇◇◇


「ルパンの帰還」

「ホームズの娘」横関大


 そりゃ読むよな、つづきを。作品ごとに個別の感想はなく、ただモクモクと読み進めた。おもしろいんだもの、読みやすいんだもの。毒にも薬にもならない、ただただ優しさに満ちた作品。

 うん、これこれ、こういうのでいいんだよ、こういうので。


◇◇◇


「世界地図の下書き」朝井リョウ


 大航海時代に世界地図を書いた人の物語を期待して読み始めたので、大後悔した。養護施設で暮らす子供たちの物語。今、この作品の感想を書きながら私は涙を流している。内容を思い出すのが辛い。

 「ひぐらしのなく頃に」を彷彿とさせる素朴な子どもらしい世界観を、シリアスな現実が包み込む。大事件は起こらないが、救いもない。


 やめろ。私も似たような境遇で育ち、救いはなかった。世界は私を憎み、容赦しなかった。だから私も世界を憎む。でも、疲れた。もう放って欲しいのに、引きずり出されて留置所。笑えよ。


 ……いかん、メンタルが崩壊する。危険な作品だ。


◇◇◇


「徳川家光」山岡荘八


 全四巻。山岡荘八と言えば入手困難な幻のデビュー作「変態銀座デカメロン」、ではなくて歴史小説家として著名な作家。大作「徳川家康」はNHK大河ドラマになり、大坂冬の陣・夏の陣における家康の解釈に大きな違和感を感じさせた。話がマニアックで申し訳ない。


 それはともかく徳川家光。個人的には大変個性的な絵画を書き残した将軍として印象に残っていた。ご存じない方は「 家光 絵 」で画像検索することをおススメする。かわいすぎやろ。

 そこが本編で触れられることは無かったが、それ以上に多くの逸話を残すオモシロ将軍であることを知ることができた。

 今ではすっかり家光推し、ルンルンや角巻わためと同格である。


 あと、カボチャの語源がカンボジアだと本作で知った。知らなかった、そんなの……


◇◇◇



 一日一冊のペースでゆっくり読み進めたが、楽ではない。先日書いた通り、お尻や背中がいたいのだ。めちゃくちゃいたいのだ。立って読むことも、部屋をぐるぐる歩いて読むこともあった。今はスプリングの効いたクッションに座って、幸せを噛みしめている。



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― 新着の感想 ―
こういう本って誰の趣味で買ったのか気になるぜ。 60冊という半端な数字から見ると、何らかの作為的なものが入っていると思うんだよなあ。
 家光、鳳凰以外にもあるんですよね。  あれはあれで、キャラ絵としてうまいと思うんだけどなぁ。  北斎とかと、くらべちゃだめよ。ジャンルちがい。
『世界地図の下書き』  ヾ(´;ω;`)
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