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転生したら悪役継母でした  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


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41 盟約

 大聖堂がまばゆい光に包まれた。


 見上げた瞬間、空間に亀裂が走る。

 現れた裂け目から、巨大な影がゆっくりと降り立った。


(白い……犬?)


 その獣は、公爵が魔力暴走したときに見た犬の姿に、どこか似ている。

 けれどはるかに大きく、毛並みは雪のように白い。


「あのすがたは……!」


 大聖女が、はっと息をのんだ。


「けいじでみた、ていとをおそう、きょうじゅうですわ!」


(えっ。召喚ガチャを回しまくった結果、凶獣引いた!?)


 誰もが声を失い、白き巨体を見上げる。 


 私の腕の中にいたエトワールが、獣へと振り返る。

 そして私を守るように、ぱっと両腕を広げた。


「だめ、おっきいいぬしゃん! おかぁしゃま、ぱくってちない!」


(前にエトが泣いて話した「私が犬に食べられる夢」の犬って……!?)


 凶獣は舌なめずりをしながら、獲物を探すように周囲を見回す。


(あ、これ。全力で食べるときの顔だわ)


 小説内で凶獣に殺されたシーンが脳裏をよぎる。

 捕食者の目が私で止まり、優雅に跳躍した。


(こっ、こっちに来た!)


 けれど凶獣は身構えた私ではなく、祭壇へと歩み寄った。


 そこには整然と並べられた供物。

 私のかわいいキャラスイーツが、大きく口を開けた凶獣の牙に貪られていく。

 大司教は分厚い聖典を抱えたまま叫ぶ。


「あの神々しい姿……凶獣ではない。間違いなく神獣!」


 広間が一気にざわめく中、大司教は続ける。


「魔の飢えを鎮めるため、供物を欲しているのだ!」


 お供えは、ちゃんと意味があったらしい。

 神獣はもぐもぐと、最後のケーキを平らげる。


(スイーツで満足すれば、小説みたいに私を食べたりはしない、はず……よね?)


「実に美味。しかし、まだ足りぬ」


 鋭い眼光がこちらへ向けられる。

 まるで、最後のデザートを吟味するみたいに。


(ヒッ! 私を食べてもおいしくないわ、たぶん!)


「供物を捧げたのは、お前だな」


 なんかバレてるし。誤魔化すなんて、出来そうにない。


「……は、はい」


「気に入った。供物を重ねるならば、この地を守護しよう。盟約、結ぶか?」


(たぶんこれ、私の発言によって帝国の運命が変わるやつだわ)


 視線を送ると、大司教が勢いよく頷く。

 それを確認してから、私は白い獣を見つめた。


「神獣様の仰せのままに。今後も供物を捧げます。どうぞ、この国をお守りください」


「承知した」


 神獣は大きなあくびを一つすると、くつろいだ様子で身を伏せ、目を閉じる。

 ほどなく、静かな寝息を立てはじめる。


「……す、すごい」


 人々は祈るように手を合わせ、歓声と涙が交じり合った。


「神獣がこの国を守ってくれるなんて!」


 子どもも大人も、声を上げて笑う。

 先ほど召喚された山のような品々を抱え、大聖堂は一気にお祭り騒ぎになった。


 儀式の最後、女帝は参列者に告げた。


「祈りが奇跡を呼び、帝国民は神獣の守護を得た。この素晴らしい啓示の儀を、私は心から祝福する」


 その宣言とともに、新たな啓示の儀は幕を閉じた。


 女帝は去り際、ふと足を止めて振り返る。

 ほんの一瞬だけ、大聖女と交わし合った微笑み。

 そこには母と娘の想いがあった。


 再会は果たせた。

 けれど、まだ遠い。

 それでもいつか、肩書ではなく家族として、自然に笑い合える日が来てほしい。


 ふと、白い巨獣の気持ちよさそうに眠っている姿に、視線が止まる。


(それ、神獣がいれば叶うんじゃない?)


 腕の中のエトワールが、こくんと頷くように首を落とすと、すぐに寝息を立て始める。

 あれほどたくさん召喚したのだし、無理もない。


 私は眠るエトワールを腕に抱えたまま、深く息を吐く。


(……エトの魔力、ちょっと取り込みすぎたかも)


 腹の奥で、嫌な重みがじわじわと増していく。

 今の私は悪喰で吸った魔力を、そのまま貯める体質になっている。


(これ、「おなかいっぱい」どころじゃないわ。むしろ、はちきれそう)


 このままでは悪化して、私が魔力暴走しかねない。

 それでも、エトを抱いたまま倒れるわけにもいかない。


 そう思っても身体はいうことをきかず、踏みとどまろうとした足がよろめく。

 次の瞬間、背後から大きな腕が伸びてきて、私の肩をしっかりと包み込む。


(あ。少し、楽になった)


 不思議だけど。振り返らなくても誰なのか、わかる。


「もう、大丈夫だ」


 その温もりに身を委ねながら、私は静かに頷いた。


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