表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら悪役継母でした  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/43

23 新たな発見

 エトワールの掌に乗った石から、青くまばゆい光が溢れた。

 次の瞬間、その身体の周辺に召喚の魔術陣が広がった。


 そこから掌サイズのジェル玉が現れ、ぷるんと震えて地面に落ちる。


 私は目を凝らして、それを見つめた。


 見た目は、どうみてもこんにゃくゼリー。

 ぷるぷるで、ほんのり透明で、なんだか美味しそう。


「これ、何でしょうか?」


 公爵を見ると、真剣な顔で観察している。


「アーススライムだ。希少だが、害はない」


 安全と聞いてほっとする。


(でも、この子の頭、カブがはえてるんですけど!?)


「体内に取り込んだ植物を育てる性質がある。このカブも異界の植物だろう。初めて見る」


 エトワールがつん、と指で突くと、ジェル玉はふるんっと揺れた。


「どこに、みみあるの?」


「スライムにも聴覚はあるが、その原理は未解明だ」


「むずかちぃ、みみ。ぷるぷるん、アシュラーイム!」


(アーススライム、言いにくかったのね)


 必殺技みたいな呼び方になってる。


 エトワールは夢中になってつんつんし、透けた体を覗き込んでいる。

 すっかりお気に入りのようだ。


「エト、いしまるとアシュラーイム、おせわちていい?」


 ぷるんっとアーススライムが震えて返事をした。

 ちょっとかわいい。あと頭のカブも気になる。


「ええ、お願いするわ」


「あいっ!」


 エトワールが手を差し伸べると、アーススライムがぴょんと跳ねて肩に乗る。

 もう仲良くなってる。


「いしまる、おともだちふえて、うれちぃね!」


 エトワールが笑いながら手にした青い石を空にかざすと、それはキラリと輝いた。

 その様子にほっこりして、つい頬がゆるむ。


「良かったな」


「え?」


 顔を上げると、公爵が私を見つめている。


「なにか気付いたんだろう」


「……わかるんですか?」


「ああ。アルージュのことだからな。顔を見ればわかる」


 微笑みかけられ、私は自分の頬に片手を当てる。


(そんなにわかりやすいの、私)


 けれど確かに、確信があった。


(エトワールが名付けた、いしまる。あの石が赤から青に変わって召喚を起こしたんだから、間違いないわ)


 私はすぐに、はぐれ聖樹周辺の廃石を回収し、ラボラの工房へ送った。


  ◇


 数日後。

 ラボらから「重大な成果がでた」と連絡を受け、私は再び工房を訪れた。


「本日は、アルージュ様が発見された“廃石の変色”について検証し、動力として実用テストを行います!」


 きりっとした宣言とともに、ラボラは瓶の蓋を開けた。

 ざざっと塩が流れ落ち、中から赤い石が姿を現す。


「アルージュ様の仮説どおりです。灰色の廃石を塩で浄化すると赤に変わり、魔力を蓄えると青になります!」


「やっぱりね」


 干上がった塩湖の塩で廃石は浄化され、灰から赤になったのだ。


 そして、いしまる――赤い廃石がエトワールの魔力を吸って青くなり、召喚が起きたのもその証拠だ。


 この浄化廃石に魔力を補充すれば、何度でも使える“バッテリー”になる。


 高価な魔石の代わりにできれば、動力コストはほぼゼロだ。


 ラボラは青い廃石を加工した“魔充具”をハンドミキサーに組み込み、スイッチを押す。

 ウイーンと軽快な音を立てて、羽根が滑らかに回った。


「アルージュ様、完璧です! ゴミだった廃石が、再生動力になります!」


「これで銅貨数枚でケーキが買えるわ!」


「素晴らしいです!」


 ラボラと頷き合うと、胸の奥がじんわりと温かくなった。


 前世では「お姉ちゃんなんだから、高価なお菓子は我慢しなさい」と、妹の食べる姿を見ているだけだった。

 でもこの価格帯なら、気軽に食べられるようになる。


(高すぎる魔石問題は、これで解決よ!)


 ラボラは感極まったようにハンドミキサーを握りしめる。


「私もついに……この調理魔道具でシフォンケーキを作ってみせます!」


「まずはメレンゲからね!」


「お任せください!」


 ウィーン!


 次の瞬間。

 ラボラが勢いよく羽根をボウルに突っ込み、卵白が爆散。

 祝いの花吹雪のように飛び散った。


「卵白、なぜか舞いました!」


「舞ったんじゃなくて、暴発したのよ!」


 天才的な魔道具師――料理の腕は、残念方向で天才的だった。


   ◇


 こうして調理魔道具の量産準備が整い、私たちは公爵領へ戻った。


「アシュ、エトといっしょにかえろうね」


 エトワールの召喚したアーススライムは、いつの間にか”アシュラーイム”から、“アシュ”と呼ばれるようになっていた。


 頭にはえていたカブは庭に植え替えるとすくすく育ち、アシュものんびりとそばで過ごしている。

 そのおかげか土はふかふかになり、花壇の草花の育ちも良くなった。


 さらに、元詐欺オーナー・アクトゥの従業員たちも無事に体調を回復し、改めて雇用契約を結ぶ。

 正式なスタッフとして迎えることができた。


「アルージュ様のおかげです! もう包丁を持っても指が痛みません!」


「よかったわ。じゃあ次は、魔道具を使った新メニューの開発ね。味見係、お願いできる?」


「アルージュ様の噂の甘味を!? 光栄です!!」


 そんな風に笑い合いながら、試行錯誤して商品メニューを洗練させていった。


 並行して、従業員たちと領内を清掃し、枯れた聖樹のそばに転がっていた廃石を回収する。

 すべて塩で浄化してラボラに送り、動力の確保も万全だ。


   ◇


(ついに、この日が来たわ……!)


 よく晴れた早朝。

 朝の陽射しに、小城のような店舗の白壁が光る。

 新スイーツ店の前にはすでに行列ができ、通りには明るい声が飛び交っていた。


「ねぇ、聞いた? 画伯でもある公爵夫人の芸術的な甘味、孤児院や学舎のお祝いで配られたんですって!」


「しかも慈善活動までしているらしい。ゴミ廃石を拾って領内を綺麗にしてくれたって評判だ」


「今日は娘の誕生日なの。ここのお菓子、ずっと楽しみにしていたのよ」


 ざわめきがあちこちで弾ける中、店の扉が開いた。


 その先は宮殿のようだ。

 焼きたての甘い香りが、風に乗ってふわりと広がる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ