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転生したら悪役継母でした  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


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17 男爵令息との晩餐

   ◇


「はるばるお越しくださり、誠にありがとうございます」


 招待された男爵別邸で出迎えてくれたのは、男爵令息ノウジョアン。


 彼は天才魔道具師の令嬢、ラボラの婚約者でもある。

 ラボラは領の外れにある工房に引きこもっているため、まずは彼に手紙を送っていたのだ。


 正直、私の“悪喰”の噂を聞いて、会うことすら拒まれるのではと少し心配していた。

 けれど、そんな不安は杞憂だった。


 ノウジョアンは丁寧ながらも気さくな態度で迎えてくれて、豪華な晩餐の席まで用意してくれたのだ。


 男爵領の野菜をふんだんに使った料理はどれも鮮やかで、見た目にも楽しく、味も格別だった。


「アルージュ様はあの冷徹な公爵閣下の心を射止めたご夫人にして、絵画や作曲の才能にも長け、さらに独創的な調味料や菓子で公爵領を発展させている。“ぜひ一度お会いしたい”と噂の方から、直接お声をいただけるなんて、夢のようです!」


 どうやら、私の噂は帝国中に広まっているらしい。

 そういえば、最近は赤髪を見られても、もう怖がられなくなった。


 私の隣では、エトワールがこくこくと麦茶を飲んでいる。


「お会いして、さっそくアルージュ様の多才さを目の当たりにしました。おかげで我が領に新たな特産ができそうです」


 この領地では農作物がたくさん取れるせいか、自生していた大麦が雑草扱いだったという。


「麦茶はお腹に優しいので、子どもや体の弱い方にぴったりですよ」


「しゅっきり、おいちいっ」


 エトワールが両手でカップを抱え、幸せそうに笑う。


(そうだわ。公爵領の学舎や孤児院にも提供したら、きっと喜ばれる。公爵が戻ったら提案してみよ)


 というのも、公爵は現在お仕事中。

 男爵領に現れた異界の植物、『マナの実』の駆除に出向いているのだ。


「閣下は昔から強く、孤高の美しさは人を寄せ付けないほどでした。しかし……アルージュ様を見つめる目は、とても優しいですね」


(見つめるっていうか、見張ってるのよね)


 どうやら、知らない人にはロマンチックに見えるらしい。

 あの顔面偏差値で見つめられたら、結構心臓に悪いんだけど。


 私が曖昧に微笑むと、ノウジョアンは人懐っこい顔で頷いた。


「閣下の奥様への愛が、ひしひしと伝わってきます。僕も見習わないと」


「……ノウジョアン様は、本当にラボラ様のことを大切に思っていらっしゃるんですね」


「もちろんです。ラボラの、農家の方々を助けようとする優しさは本物です!」


 ノウジョアンの声に熱がこもってくる。


「それに、少し口下手なのに、魔道具には一晩中話しかけられるところとか、料理をちょっと大爆発させるところも、とても愛おしいです!」


(欠点もかわいいってやつね)


 そして噂通り、ラボラは個性的な令嬢のようだ。


「ただ……僕は、ラボラの気持ちを、わかってあげられていません」


 ノウジョアンのナイフでステーキを切っていた手が、ふと止まった。


「なにか、気になることでもあるのですか?」


「……実は先日、アルージュ様との面会について説明するために、公爵閣下の名を出したんです。するとラボラは何度も言葉に詰まって、『その方の話は聞きたくない』と言いまして」

 

(え、公爵。まさか嫌われてる?)


「旦那様が以前、ラボラ様に何か無礼なことを?」


「いえ、そんなはずは! ラボラは閣下と面識すらありません。ただ以前、僕が閣下にお会いした時の感動を少し語ったら、黙り込んでしまったこともあって」


(おや? それはそれで気になる反応ね)


「そういえば、以前お送りした羊羹はお口に合いました?」


「ええ! 本当に美味しくて、ラボラも喜ぶと思って一緒に食べたんです。それで僕、『アルージュ様のお菓子は素晴らしい』と話したら……ラボラは何度も言葉に詰まって、『その話はしたくない』と言いまして……僕は完全に嫌われてしまったんです」


「そうとは限りませんよ」


「……え?」


 不安げに私を見るノウジョアンに、私は微笑んだ。


(もしかしてラボラは、やきもちを焼いているのかもしれないわね)


「気づいたことがあるので、ラボラ様への手紙の宛先を教えていただけますか?」


   ◇


 そして翌日。

 ラボラから、早馬で返事が届いた。


「そ、そんな……! アルージュ様、どうやってラボラの気を引いたんですか!?」


「これからお会いすれば、わかりますよ」


 ラボラは私の手紙を読んで、すぐ返事をくれた。

 天才魔道具師の心とハンドミキサー、両方とも動かしてみせる。


(スイーツのためなら、突撃あるのみ!)


 朝日に目を細めながら、私は馬車に乗り込んだ。


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