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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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討伐の後始末【Others Side】

 不意にもたらされた第一種指定災害の情報について、バルディア王国の王宮は大変なことになっていました。


 第一報は国内情勢の情報を一手に取り仕切る情報部から入ることになります。

 情報部は王直属の機関ですので、即座にバルディア王の耳にも報告が入りました。日が沈んでから間もない時間帯のことです。


「報告は以上です。急ぎ騎士団を動かすご下命を」

「アルノーとグリューゲルにも同じ情報を回すがよい。フルフュールの死骸は全て回収し、どこにも渡すなと伝えよ」

「御意」

「騎士団だけでは足りぬな。関連部署にも同じ情報を回し、必要なことを実行させよ」


 情報部の長は速やかに下がります。あとは細かいことを言わなくても、忖度そんたくしてやってのけるのが有能な人間です。

 王の意を汲んだ対応が逐次取られることになるでしょう。


「……陛下、また大門さまですね」


 同じ場には王妃もいました。彼女も一緒に報告を受けています。


「グシオンの時にも凄まじい力と思いはしたが、今度はフルフュールだ。討伐記録は昔のものだが、グシオンとも比べ物にならん怪物のはずだったな。むう、勇者とは恐ろしい存在よな。特に大門トオルといったか、あの男は凄まじい」

「ええ、なんとかして取り込みたいお方です」

「ほう、お前がそこまで言うとはな。囲ってみるか?」


 囲うとはもちろん、そういう意味です。王妃の権力や財力で援助、そして男女間で密接な関係を結び、近くに留めおくことを指しています。


 バルディア王の年齢は四十と少しですが、実年齢以上の威厳と貫禄を備えています。年相応には決してみられないでしょう。

 王に比べれば王妃はもっと若いです。内面こそ王同様に成熟していますが、実年齢よりも遥かに若々しく美しい女性でもあります。世の中の大抵の男性にとっては、ストライクゾーンに食い込むことでしょう。


 王族たる者、国益のためとあらば使えるものは何でも使います。

 必要に迫られれば、己の命も家族も犠牲にします。決して安売りするものではありませんが、それが王族と呼ばれる者たち、国家の頂点に君臨する者の役割と覚悟です。


「ご冗談を。それに大門さまは私をお求めにはならないでしょう」

「そういえば、以前に茶会をしたと言っていたな。お前ほどの女に興味を示さなかったか」

「元よりそのつもりもありませんでしたが、大門さまに興味は向けられませんでした」


 自身の美貌を自覚している王妃は、その手の視線にも敏感です。自衛やトラブルを避けるために、少女時代から自然と養われていった能力となります。


 刑死者の勇者としても、実は王妃の美貌や色気は認めるところでしたが、王族の女に手を出す危険性は必要以上に承知しています。自らの身を守る意味でも彼は決して興味を向けず、最初から圏外に設定しているというのが真相です。


「趣味嗜好の調査はもっと詳細にやらせるか」

「ええ、大門さまに限らず、全ての勇者さまの調査を掘り下げるよう伝えます」


 こうして勇者たち個人の趣味嗜好、それも隠しておきたい非常にセンシティブなところまでもが暴かれようとしていました。なんとも恐ろしいことです。



 寝耳に水の第一種指定災害の討伐が知らされると、王宮関係者は一様に現実として受け止められませんでした。

 多くの職員が仕事を終えようかという時間帯のことです。非常識な話の内容には、悪い冗談としか思えなかったのです。


 しかし、それが冗談ではないと分かると、続けて間違いではないかと疑いました。

 やがては上司の上司を通じて、情報の発信元が王であることが知らされると、いよいよ現実に起こったこととして、残業もやむなく仕事に取り組み始めました。


 文官は過去の魔物の資料を掘り返し、その脅威の再認識や貴重なサンプル採取のための注意事項の確認、周辺被害や出現地点を特定するための資料作成、魔物の研究者へ知見を得る手配、関連部署総出で取り組むためのスケジュール調整など、多くのことに忙殺されました。


 騎士団は翌日以降のキャンセル可能な仕事は全て後回しにし、当てられる人員を当該地域に派遣するべく編成を組み直しました。大型魔獣を持ち帰るための道具や装備、移動手段の確保など、文官との連携も必要になります。

 多くの作業に時間がとられることを考慮すると、野営の準備や周辺に集まってくるかもしれない魔物を討伐することも想定しなければなりません。気軽に出かけられる状況ではないので、そのほかの非常事態に備えるためにも慎重な準備と対応が求められました。


 討伐後の後始末に過ぎない仕事でしたが、王宮の職員が総出で行うような事態となっています。

 遅い時間帯にもたらされた仕事ということで、恨み節が聞こえてきそうです。



 急な事態には若き勇者たちもあおりを受けました。

 事情を知らされなかった彼らは翌朝、いつものように騎士団との訓練予定があったのですが、このような事態ですので訓練はキャンセルとなり、自主練や休養にあてるよう連絡を受けてしまいます。


 不意に訪れた休みには喜んで出掛けた者もいましたが、起こった事態に戸惑っている者もいます。


「おい、聞いたか? 第一種指定災害ってマジかよ? 俺らじゃ絶対勝てねぇから、もし見つけても逃げろって言われた奴だろ? どうなってんだよ?」


 若き勇者たちが集まるサロンのような場所で、戦車の勇者がぼやきました。彼はいかにもスポーツ万能といった感じの高校生で、勇者としての戦闘力も高いがゆえにプライドも相応に高い青少年です。


「マクスウェルさんに聞いたが、やったのは刑死者の勇者らしい。昨夜遅くにミサオも現場を見に行ったと聞いている。ボクも一緒に行きたかったが……」


 俯き加減に答えるのは委員長っぽい男子高校生で、審判の勇者です。彼がいつも熱い視線を送っている正義の勇者が不在のため、少し拗ねているようでした。


「刑死者? ってことは例のおっさんかよ! そいつがやれんなら、俺らでも余裕なんじゃねぇか?」

「あたしもさっきお姫様から聞いたよ! なんか倒したのはおっさんだけじゃなくて、キョウカちゃんとシノブちゃんも一緒だったんだってさ。凄いね」


 明るい声の太陽の勇者が追加の情報を出しました。


「なに? あの二人がか?」

「おいおい、あいつらかよ。こりゃあ、第一種指定災害ってのも、絶対に大したことねぇな。今度は俺らでやってやろうぜ!」

「うーん、大丈夫かなー」

「騎士団は親切だが、少々過保護なところがある。月と死神と刑死者、この人たちで問題ないのなら、少なくとも第二種や第三種の指定災害なら倒せるだろうさ。第一種だろうと、おそらく問題ない」

「けっ、俺なら一人でだってやってやるぜ」


 興味のない様子で聞いているほかの勇者もいましたが、考えていることは同じです。


 『はぐれ者のおっさんと落ちこぼれの勇者にできて、自分たちにできないはずがない。』


 このように考えてしまうのは、仕方がないことなのかもしれません。

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