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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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訓練の成果

 颯爽と森から躍り出ると、近くのオーガを背後から一撃で殴り殺す。

 実は背後からの攻撃だと、拳闘無比けんとうむひの恩恵は得られない。最近判明したことだが、拳闘無比は正面からのガチ勝負でなければ恩恵が与えられないらしい。

 さらには後頭部や背中側、腰より下への攻撃にも適用されない。ますますボクシングのルール染みている。


 なんとなくだが鍛えれば鍛えるほど、特殊能力発動のためのルールが厳しくなっていっている気がする。

 代わりにルールの厳しさに応じるように拳闘無比の能力がより強くなっているようにも感じる。不思議なものだ。


 特殊能力の発動には条件があるが、そもそも能力を使うかどうかは場面次第で良い。勇者の力は特殊能力がなくても破格だ。

 今回の場合は、正面から拳闘無比の能力を頼って戦うよりも、不意打ちで敵の数を減らすほうを選択しただけだ。この程度の敵なら、これで何の問題もない。


 そのまま足を止めずに、苦戦している護衛騎士を助けてやる。

 背後からの流れるような襲撃でオーガどもを倒すが、姿を晒してしまえば逐電亡匿ちくでんぼうとくの隠密効果はなくなってしまう。ここからは普通に拳闘スタイルでやっていこう。


 突如現れた俺に驚く護衛たちを無視して、続けて魔物を倒す。

 やろうと思えば即時殲滅もできそうだが、キョウカとシノブの出番も残しておくべきだろう。せっかくやる気になっているところに水を差すわけにはいかない。

 それにあっさりと片付けてしまっては、助けられるほうもありがたみが薄かろう。


 どうせだ。勇者がどれだけ打たれ強いか、この機会に試してみるか。


 第二種指定災害である魔物、グシオンの蹴りでノーダメージだった俺なら、少々の攻撃ではビクともすまい。見るからに怪力のオーガが相手であっても、グシオンよりは明らかに弱い。

 さすがに無防備に攻撃を受けるのは抵抗があるから、腕でガードくらいはする。

 戦闘中はスローモーションの世界にいるから、避けるも受けるも自由に選べる。


 決断し、一番体格のいいオーガの前に出ると、意図的に腕を下げて足も止めた。

 無防備になった俺に対して、横手からオーガの棍棒が迫る。

 駆け引きや罠を理解できない魔物らしい、力任せで思い切った攻撃だ。

 本能が避けようとするのを抑えこみ、棍棒の軌道に腕を割り込ませると、受けるさまを冷静に観察した。


 鈍い衝撃。普通の人間と比べて遥かに勝る魔物の一撃だ。

 ぶっとい棍棒は防いだはずの腕を折るだけでは収まらずに、ガードを弾いて頭をカチ割られてもおかしくない威力がある。普通なら。


 常識的には結構な破壊力だが、俺にとってはそうでもない。

 スローモーションの世界で受けたダメージがほぼゼロであることを確認し、足を踏ん張れば吹っ飛ばされることもないと結論付ける。

 特殊能力の一つである『極致耐性きょくちたいせい』のお陰だろう。少なくとも打撃への耐性はかなり高いようだ。実際に確認できたのは収穫だな。



 ついでに周囲を観察すると、一芝居打つことにした。

 今だとピンチの護衛騎士や馬車に取りつくオーガはいない。ちょうどいいタイミングだ。

 打撃を受けた状況をこれ幸いと、やられたフリをして吹っ飛ばされてやる。

 苦労して敵を排除したほうが、助けられる側にも感動を与えてやれるだろう。


 はたから見れば、オーガの棍棒のフルスイングを腕でガードしたとはいえ、もろに食らった格好だ。かなりヤバそうに見えるはず。

 そのまま勢いに乗って地面を転げるサービスまで付けてやる。

 大怪我を想像させる絵面だったと思う。我ながらいい芝居だ。


「ちょっと、嘘っ!? トオル! こ、こんの化物っ」

「キョ、キョウカちゃん!? だ、大門さん、援護します!」


 あ、やべ。あの二人には芝居だって理解できなかったか。

 すぐに起き上がって心配ないと言ってやってもいいが、どうやら何かするらしい。せっかくだし様子を見るか。


 薄目を開けると、なぜかキョウカが十人くらいに増えて、一斉に魔法をぶっ放そうとするところだった。


「……なんだありゃ?」


 勇者の特殊能力なんだろうが、分裂? 分身? なんだか分からんが凄いもんだな。

 それっぽいポーズで勇ましい感じが妙に決まっている。戦闘嫌いにしては意外な感じだ。


 不思議なことはまだある。

 周辺にたくさんいるオーガどもの体勢だ。奴らは動きの途中のようなポーズで不自然に固まってる。明らかにおかしい。

 オーガどもだけが、まるで時を止めてしまったかのような状況だ。見る限りキョウカやシノブ、護衛騎士には影響がない。

 キョウカが攻撃中ということは、これはシノブの仕業になるか。


 どっちも理屈や詳細は不明だが凄い能力だ。あいつら、まさかこんな力を隠し持ってやがったとは。


 完全に動きを止めたオーガどもは、キョウカが使うよく分からん魔法によって、次々と真っ二つにされて全滅した。

 たくさんに増えたキョウカが一斉に魔法を放ったように見えたな……。



 任意の複数対象に対する動きの停止と、分裂しての一斉魔法攻撃。

 いや、あいつら強すぎないか?

 あれで戦闘はやりたくないとか、宝の持ち腐れにもほどがあるだろ。

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