襲撃者を襲撃
これまでの魔物退治やトレーニングで、山や森での活動には慣れている。
逐電亡匿の特殊能力で、離れた相手の位置も丸分かりだ。
街道から森を突っ切るルートで、起伏の激しい道なき道を最短距離で進む。
しかも逐電亡匿の隠密性を発揮しているから、このまま近づけば相手には気づかれずに奇襲も可能だ。
全速力で現場近くに駆けつけると、いきなり飛び込んだりはせずにまずは観察する。
大きな物体はやはり馬車だ。大型で豪華な造りは、一般人が乗る物ではない。
「これは謝礼が期待できるかもな」
世知辛い世の中だからこそ、金が物を言う。
相手が金持ちならば、その辺は言うまでもなく承知しているだろう。助太刀すれば、必ずや謝礼は弾むはずだ。
肝心の敵は盗賊ではなく魔物だった。
見たことのある形状の魔物はオーガだ。しかも魔物のくせに魔法を使っているところから、どうやら亜種も混じっているらしい。
亜種がいるとはいえ、オーガ如きが何匹いようと俺の敵ではない。よし、いけるな。
襲われている馬車だが、守っているのは腕の良い護衛たちらしく、まだしばらくは持ちこたえられるだろう。窮地に陥るまでは放置だ。
まずは森の中に潜んでいるのを倒す。伏兵を残しておくなんて、予想以上に頭が回る魔物だ。これも亜種だからだろうか。
森の中は密生した木々や藪で見通しが悪く、逐電亡匿を発動させていれば、オーガ相手ならまず見つからない。
小賢しくも隠れて様子を見ていたはずのオーガどもを、一方的に忍び寄っては屠っていった。
一撃で殺し、そっと寝かせるように支えてやれば、大きな物音を立てることもない。
人知れず伏兵を全滅させると、背後からやってくる人影。
「遅かったな」
足場が悪いどころか通り抜けるのも難しいほど起伏に富んだ森を急いでやってきたはずだが、特に疲れている様子はない。さすがは勇者だ。
「あんたが速すぎるだけだから」
「お、襲われている人は、ど、どうなっていますか」
まだ大丈夫だと思うが、そろそろ頃合か。
「今から助太刀する。俺が突撃するから、お前らは適当に援護しろ」
「適当にって……」
顔を見合わせるキョウカとシノブ。しかし、二人の能力を知らないのだから、どうしろとも言えない。
まだ多少の余裕はありそうだが、さすがに今から打合せするほどの暇はない。
「状況に合わせてやれってことだ。魔物との戦闘は初めてってわけじゃねぇだろ? 俺と襲われている奴を誤射さえしなけりゃ、なんでもいい」
言いながら馬車の付近の様子を探ると、いつの間にか囲まれている奴がいる。すぐ助けに入らないとマズイな。




