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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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ライディング!

 今日は珍しく三人で仲良くお出掛けだ。

 たまにはキョウカとシノブも外に連れ出してやらんと、あいつらは案外引きこもり気質らしいからな。

 小遣いはやっているのに、遊びどころか食料や日用品の買出しくらいにしか外出しない。


 まったく、シノブは地味な見た目からしてインドア派だと思っていたが、まさかキョウカまでもそうとは思わなかった。

 しかも意外なことに今回の外出に積極的だったのはシノブのほうだ。


「は、早く行きましょう」

「慌てるな。まったく、まさかシノブがここまで乗り気になるとは思わなかったぜ。なあ、キョウカ」

「それはあたしも同感だけど。それより、あたしはいいってのに」

「駄目だ、お前もこい」


 テンションの高いシノブの姿は初めて見る。控えめではあるが、はしゃいだような姿は微笑ましい。

 逆にキョウカは迷惑そうにしているが、一人だけ留守番をさせようとしたなら怒り出すのは間違いない。面倒な奴だ。


「だ、大門さん。ほ、本当に、乗馬、できるんですか?」

「騎士団に頼んできたから大丈夫だ。練習させてくれるってよ」


 嬉しそうなシノブ。こいつは地方都市に住んでいたらしいが、親戚が経営する牧場で子供の頃から乗馬を嗜んでいたらしい。実に意外だ。


 そうだ。今日は以前から考えていた乗馬を習いに行く。

 ついでに二人を誘ってみれば、こんな反応だ。


「練習するのはあんただけでしょ? シノブは乗れるんだし」

「シノブはともかく、お前は俺と一緒に練習しろよ」

「なんであたしまで」


 本気で嫌そうな顔をする奴だ。

 興味がなければそんなものだろうが、乗馬は必須スキルだと思う。


「これから先、出掛けるときにお前だけ馬に乗れなくてもいいのか? それとも俺やシノブの後ろに毎回乗る気か?」

「……馬車は」

「キョウカ。お前、馬車が好きだったとは意外だな。俺はできれば乗りたくないがな」


 馬車での移動は揺れが酷くて最悪だ。多少は慣れた今でも、できれば乗りたくない。

 異常に体力のある勇者なら、乗り物酔いを避けて自分で馬を操ったほうが遥にいいはず。まさに馬並みの体力だろうからな。多分、だが。


「もうっ、行けばいいんでしょ、行けば!」

「おう、そのとおりだ。じゃあ、そろそろ行くか」

「はいっ」


 常になく明るいシノブと、いつもと変わらないキョウカを伴って出掛けた。



 騎士は乗馬ができて当たり前。まあ、字面からしてそうだろうよ。

 騎馬ではなく馬車に乗って移動する場合もあるが、それは遠征時に飼料の関係で個人の馬までは出さない場合があるだけで、通常は自分の愛馬を誰でも持っているらしい。


 つまり、騎士であれば誰もが乗馬が得意なのだ。そして乗馬の訓練施設も充実している。

 今日からは邪魔にならない時間に施設を借りて、優雅に乗馬の練習としゃれ込むわけだ。もちろん単なる趣味ではなく実用のために。


 騎士団の馬が管理されている牧場にやってくると、さっそく以前に顔合わせをした訓練教官にレクチャーを頼む。

 ただし、経験者のシノブだけは好きにやらせることにした。


「わぁ~、気持ちいいっ。いい子だね、お前」


 軽い駆け足で颯爽と走る馬上で、メガネの少女が優しく微笑みつつ馬を撫でてやっている。


「……おい、誰だよ、あいつ」

「……あたしに聞かないでよ」


 喜び勇んであてがわれた馬に跨ると、違和感のない所作で見事な手綱捌きを見せるシノブ。

 しかも表情も言葉遣いも、普段とは全く違って明るく爽やかだ。

 まさか、シノブの笑顔が眩しく見えるときがくるとはな。しかもこれは勇者の力とは何の関係もない特技だ。世の中分からんものだ。


「シノブは放っておいて俺たちも始めるか」


 俺とキョウカは、まずは馬に跨るところからだ。今日中にどこまでできるようになるか。

 間近で見る馬はかなり大きいし、生きているから動きもする。この上に跨ろうとするのは、それなりの恐怖感がある。

 シノブを見る限りでは、慣れれば楽しそうなものではあるが。


「お二人は乗馬の経験は全くないので?」

「ああ、一度もないな」

「あたしも」


 現代日本においては、乗馬の経験者であるほうが珍しいだろう。

 能動的に動かなければ、まずその機会に巡りあうこと自体がない。


「では基本から始めましょう。なに、勇者殿であれば、すぐに会得できましょう」


 そうだといいがな。



 馬に跨るところから始まり、騎乗姿勢から手綱の持ち方、動かし方。馬の歩く速度や揺れに慣れるまでは、割と早く覚えることができた。

 あとは馬のスピードを上げたり下げたり、様々な動作に慣れることだ。

 勇者の身体能力は驚異的に高い。体力だってあるし、馬を乗りこなせるようになるまで、そう長い時間は掛からないだろう。期待込みだが。


 しばらく練習をして、サマになってきた辺りで今日はお開きだ。


「大門さん、今日は誘っていただいてありがとうございました!」

「お、おう。良かったな、シノブ。誘った甲斐があるってもんだ。キョウカ、お前はどうだ、やって良かっただろ?」

「ふんっ、明日も連れてきなさいよね」


 慣れるにしたがって楽しそうにしていたキョウカだ。表面上はいつもと同じ風を装っているが、満更でもなさそうだ。可愛くない奴め。


「ついでだ。今から馬を買いに行くぞ。明日からの練習には、自分の馬を使ったほうがいいだろ? それに馬の世話だってシノブならできるだろうしな」

「え、えっ!? い、いいんですかっ!? 本当ですかっ!? お世話なら私に任せてくださいっ」


 シノブのこのテンションにも、今日だけで大分慣れた。

 それにこの様子だと馬がいる生活は、シノブにとって明るい材料になるだろう。


「……あんたにしては気が利くじゃん」


 こいつも素直じゃないが、本音では嬉しそうだ。


 なに、金ならある。馬の面倒だってシノブなら問題なくやれるだろうし、移動手段を手に入れることの優先順位は高かった。

 まだ屋敷にまでは馬は連れていかずに騎士団の牧場に預ける予定だ。乗馬に十分に慣れてから乗って帰る。


 しかし、本人が喜んでいるとはいえ、シノブだって一応は勇者の端くれだ。

 何があるか分からんし負担軽減のためにも、いつかは老夫婦でも雇って、馬の世話もそうだし屋敷の管理も任せたいところだな。

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