変化する状況【Others Side】
たくさんの若き勇者たちが、今日も元気に訓練で汗を流していました。
全ての勇者ではありませんが、若者らしく前向きに頑張っている者が半数以上です。
訓練は過酷なものとなりますが、勇者の身体能力は並外れて高いです。
普通は無理と思えるような大変な訓練であっても、勇者の力があれば労せずとまではいきませんが、割合楽にどうにかできてしまう程度でもありました。
筋力のみならず、体力や心肺機能まで並外れている勇者は、訓練の密度も効率も非常に高くなります。
そんな勇者であっても、ずぶの素人が命を賭して戦えるようになるには、それなりの時間が掛かります。
彼らは未だ、その途上にありました。
「いつまでこうして訓練ばっかりしてればいいんだろうな」
「俺は本番なんていつまでもこなくていいと思ってるけどな」
恐ろしい魔物との戦闘には、そう簡単に挑めるものではありません。どうしても恐怖は付きまといます。
しかし、そこがクリアできなければ、世界を救う戦いなどできはしません。
いつの日にか勇者は、世界各地に出現する魔神に対処するため、ある程度のチームを編成した上で分散します。
肝心要の戦力が一箇所に固まっていては意味がありません。
遠方ともなれば、移動しているうちに該当地域が壊滅してしまうのですから、そうせざるを得ない事情もあります。
しばらくは情報収集と訓練に努め、通常の魔物と戦って勇者としての力を高める段階を踏みます。
これは決して焦ってはならないことです。十分な力をつける前に勇者が倒れるようなことがあっては最悪です。
全ては慎重に事を運ぶ必要があります。
魔神はひとつの居場所を定めると、基本的には動かない性質です。自らは動かず眷族を増やし、徐々に世界を侵食するのです。
現在のような最初期は魔神の活動が活発ではないため、勇者も固まって訓練をしたほうが効率はいいのですが、本来なら一国が彼らを独占すべきではないのです。
バルディア王国は勇者召喚を実行する特別な国家ではありましたが、世界のためである以上は、永遠に独占はできません。
王国の重鎮も理解しているからこそ、いつかの旅立ちに備えて、王国に愛着を持たせようと画策しています。
地域への愛着、知りあった人々への愛着。できれば愛する人を王国内で見つけてもらうこと。この試みは、少しずつではあったのですが実を結んでいました。
恋仲にまで発展するケースは限られていましたが、友情は広く育まれているといってもいいです。
「次はもっと遠くへの遠征だったよな? 最近は若手騎士との交流も多いし、結構友達も増えてきたから楽しみだぜ」
「まあな。次の標的は強力な魔物らしいから、あんまし遊び気分じゃいられないけどな」
行動を共にする騎士もベテランから若手を中心に移行し、勇者との友情、もしくは愛情を育ませようと様々な画策がなされていました。
「そういや、松平の奴はカノジョと上手くやってるらしいな」
「カノジョつっても、何人もいるんだろ? よくやるよな、あいつも」
「お前だって二股掛けてるだろ?」
「二股とは聞き捨てならん。この世界じゃ、合法だからな。何の問題もない!」
若者の順応性は高いです。
そして若さゆえの欲も多いのでした。合法であるのならば大変結構なことです。
上手く世界に順応する勇者がいる一方、そうでない勇者もいます。
月の勇者と死神の勇者は、刑死者の勇者の元に身を寄せる決断をしましたが、それ以外の者たちです。
やる気のない勇者はもう周囲に諦められつつあったのですが、使命とは関係のないことに情熱を持ってしまった変わり者もいます。
極端な例では、バルディア王国を出奔してしまった者も実はいました。
幸いなことに勇者同士は元々顔見知りではなかったため、誰かがいなくなっても影響は限定的でした。
それが死であれば、無視できない影響があったと思われますが、好きで旅立ったというのであれば、誰もが一度は考えた可能性です。そういう選択をしたんだな、と思うだけでした。
状況は流動的です。バルディア王国の予定にない、さらなる勇者の出奔は今後も大いにあり得ます。
活動報告において、今後の更新に関するコメントを書きました。
チェックと共に、ご意見やご感想などもいただけるとありがたいです。




