密かな同盟
若い組員の先導で別の部屋まで案内されると、そこにはアンドリューが寛いだ雰囲気で金勘定をしていた。
「大門さん、あんたのお陰で上手くいったのはスピアーズからも聞いてるぜ」
「始めからそういう作戦だったんだ、気にするな。それより金は十分だったか?」
アンドリューが自分のシマの損害額を試算して奪った金の余剰分は俺に、足りない場合でも一定額は受取る約束だった。
奪った金が小額であれば空振りだが、今回の悪徳商人はそこらにいる小売人ではない。胴元に当たる大物だ。その資金の全てがあの隠れ家にあったとは思わないが、それなりの額はあったと期待できる。
「細かいところはまだ数えさせているが、ざっと大金貨にして三十枚ってところだ」
大金貨となると、一枚当たりはおよそ百万円程度の価値だったか。それが三十枚だと、大体三千万円相当になる。十分に大金だが、それで足りるかどうかはこいつら次第だな。
「それで足りたのか?」
「考えていたよりも少ないが、奴らに一泡吹かせたことを考えれば悪くない。大門さん、あんたには大金貨十枚を報酬に出す。これでどうだ?」
三分の一も差し出すか。気前のいいことだ。
だが、気前が良すぎる。
「ずいぶんと多いが、どういうつもりだ? 何か思惑があるなら正直に言っておけ」
こういう奴らが単に気前良く金を渡すはずがない。必ずなにか思惑がある。
「……分かった、腹を割って話そう。不幸なすれ違いはもう御免だからな。簡単に言えば、ワッシュバーン組はあんたを高く買っているってことだ。これからも、あんたとは上手くやっていきたい。これはその手付けみたいなものだ。本当ならウチに入ってもらいたいが、そこまではどうせ無理だろう?」
「ああ、無理だな。だが、もうお前らと事を構える気はない。俺の周りで余計なことさえしなければ敵には回らないし、場合によっちゃ今回みたいに協力してもいい。その代わりに、俺が困ったときには手を貸せ」
「それこそ願ったり叶ったりだ。困ったことがあったら、いつでも俺に言ってくれ」
望んでいた展開に収まったが、それでも深入りするつもりはない。
俺が友誼を結んだのはあくまでもアンドリュー個人だ。いいところ、その配下のコロンバス会の連中までだ。
ワッシュバーン組本体や他の連中のゴタゴタにまで付き合うつもりはない。勘違いのないようにあとで念を押しておこう。
そういや報酬も貰いすぎだな。
「なあアンドリュー、さっそくだが頼まれてくれ。大金貨五枚出す」
「……五枚? いきなりだな」
ひと仕事終えて若干緩んでいた表情が、警戒心に満ちたものに変わる。
まあ理由も言わずに、いきなり五百万出すから頼まれてくれなんて言われたら警戒もするだろう。
「なに、妙なことじゃねぇ。心配するな」
もったいぶらずに用件を伝える。
「どこでもいいから王都の中にヤサを用意してくれ。なるべく目立たない場所がいいな」
「……あんたの頼みならその程度いくらでも融通できるが、どういうつもりだ?」
「今回の報酬に大金貨十枚は多すぎだ。元々はお前らのアガリだろ? 俺がそんなに貰うわけにはいかねぇ。だが俺がいらねぇと言っても、どうせお前の上が納得しねぇだろ? だから仕事にするんだ。フェアにな」
「そいつは助かるが……まあ、分かった。ウチのシマの中でなら、多少の無理も通せる。明日にでも誰かに案内させるから、気に入ったのを使ってくれ」
無理をさせる気はないし、特別に難しい要望はない。隠れ家的な部屋がひとつ欲しいだけだからな。もちろん立派でなくても構わない。
普段使いとしては、ちょっとした休憩に使う程度だ。独りになりたいときだってある。
必要のないことを願っているが、いざという時のセーフハウスとしても使えるといいな。
王宮の連中や他の勇者に知られていない拠点は、あっても損にはならないだろう。
「おう、じゃあ今日はもう帰るぜ」
適当に挨拶をしつつ、山の上の屋敷に帰ることにした。
悪党からの頼みではあるが、悪党退治で金が手に入るのなら悪くない。それも大金が。
明日には新たな拠点も手に入りそうだし楽しみだな。




