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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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面倒事の気配と暖かな家

「ちっ、シケてやがる」


 かなり強く腹を殴ったせいで、マフィアどもは悶絶している。

 殺してはいないし、重傷を負わせたわけでもない。しばらくまともにメシは食えないかもしれないがな。


 悶絶する阿呆から財布代わりの皮袋を奪いとって中身を検めるが、大した額は持っていなかった。

 金貨どころか、三人分合わせても大銀貨が二枚程度だ。

 失った商品代はまかなえるが、これでは迷惑料が全然足りない。

 しかし、こいつらのアジトまで追加徴収に行くのもな。さすがにこれ以上のトラブルは御免だ。


 買い物をやり直してさっさと帰ろう。店が閉まっていなければいいが。


「しょうがねぇ。このくらいで勘弁しといてやるか」


 どこかで聞いたようなセリフを吐いてしまうが、この場合の用法に問題はないだろう。

 汚い路地に落としてしまった買い物袋は放棄して移動しようとすると、マフィアにボコボコにされていたチンピラが起き上がる。


「あ、あんたは、この前の……」


 俺のことを知っているかのような驚き方をしている。誰だ?

 顔はボコボコに腫れてよく分からんが、そういえば、あのウルフカットには見覚えがあるな。あ、そうだ。


「……お前、通行料とってたチンピラか!」


 大分前に城下町を散歩していた時のことだ。

 路地裏を歩いていたら通行料をせびってきたチンピラの一味だ。間違いない。

 どうやらマフィアにバレてお仕置きされていたようだが。


「まあなんだ、元気にやってたか?」

「兄貴! 助けてくれ!」


 唐突に何言ってんだ、こいつ。兄貴だと?


「このままじゃ、俺たちみんな殺されちまう! 頼むよ、兄貴! なあ、兄、がっ!?」


 すがり付いてきた阿呆を反射的に殴って引き剥がす。

 知り合いとも言えない程度の奴のケツを、どうして俺が持ってやらねばならんのか。

 知ったこっちゃない。当然、お断りだ。


「俺は忙しい。つまらんことに巻き込むな」


 図々しいチンピラを放って立ち去る。

 無駄に時間をとられたな。今から買い物をやり直していたら、晩メシにはもう間に合わんか。


 結局、閉店していた店もあって全てを買い直すことはできなかった。



 すっかり真っ暗になった夜道を歩いて屋敷に戻ると、煌々とした灯りが点いている。

 誰かが待つ家に帰るってのは、やっぱりいいものだ。


「あ、やっと帰ってきた。遅かったじゃん」

「お、お帰りなさい、大門さん」


 中に入って手を洗いに水場に向かうと、洗い物をしていたのか、キョウカとシノブは台所にいた。


「おう、帰ったぞ。取りあえずメシだ。腹減った」

「だからあたしは家政婦じゃないっての!」


 屋台で買い直した焼き菓子を押し付けてから、ツマミの類を保管庫に仕舞っていく。

 文句を垂れながらも鍋を暖め直すキョウカと食器の準備を始めるシノブ。こいつらも大分慣れてきたようだな。



 いつものように見た目に反した腕前の料理を食べ終えると、一人寂しく晩酌の時間だ。

 生意気にもキョウカは自分にも飲ませろなんて言っていたが、あいつらにはまだ早い。この世界じゃ年齢制限なんてないから、別に構わないのかも知れないがなんとなくだ。


 でも待てよ。ある日、どこかでいきなり飲むことになるよりも、自宅で少しずつでも慣れさせたほうがいいのかもしれないな。

 若い奴が限界も知らず、勢いだけで飲みまくって中毒を起こすなんて珍しくもない。特に女は身の危険もあるしな。いくら勇者でも酒に酔ってしまえば自慢の力も発揮できまい。

 そんな妙に親父臭いことを考えていると、いつの間にか眠ってしまった。



 泥酔するほど飲んだわけではないから、朝は普通に目を覚ます。

 まだ早朝だが、もう習慣になってしまったトレーニングの時間だ。


 顔だけ洗って運動着に着替えると、山の中を全速力で駆け回る。

 安定しない足場、視界の取りにくい樹木に藪、岩もあるし、場所によっては地面の裂け目もある。

 野外での戦闘を想定するには、実はいい訓練環境かもしれない。


 味覚以外の全ての感覚を意識しながら、逐電亡匿の特殊能力まで発動する。

 周囲の全てを委細漏らさず把握し、そうしながらも全力で足を動かし、シャドーを織り交ぜる。


 勇者の体がもたらす圧倒的なスペックを限界以上に引き上げるのだ。

 恵まれた心肺機能や筋力は、何もせずとも異次元の領域だ。だが、普通の人間と同じ様に鍛えれば鍛えるほど、それはさらに伸びる。


 俺の武器はこの拳、そして肉体だ。慣れない剣や武器を振り回す訓練をしなくていい分、ある意味では楽かもしれない。


 重ねて拳闘無比の特殊能力を発動して、加速する意識と体の感覚をより確かなものとする。

 繰り出す拳は一撃ごとに洗練されていく。

 一体どこまでいけるのか、怖いような気もするが、今はとにかく面白い。


 適当なところでトレーニングを切上げると、窓のない風呂でシャワータイムだ。

 冷たいシャワーで火照った体を冷ましていると、台所では人の気配がする。朝メシの準備が始まったようだ。



「おう、キョウカ。俺の分は多めにな」


 頭を拭きながら風呂から上がると、さっそく注文をつける。朝は体を目一杯に動かすから腹が減る。


「ちょ、ちょっと! あんたいい加減、服着なさいよっ」

「だからズボンは穿いてるだろ? 全裸やパンツ一丁ってわけじゃねぇんだ。上半身くらいで恥ずかしがるな」

「上半身だけでも裸を見せ付けるなっ! もうっ!」


 朝っぱらからうるせぇ奴だ。


「だ、大門さん、お、おはようございます。その、お洗濯」

「おう、シノブ、悪いな。洗い場に置いといたからよ、後で頼むぜ」


 料理に洗濯、掃除とやってくれる奴がいると助かるな。

 こいつらは別のことを頑張ったほうがいい気がするが、まあいい。

 家事とはいえ、せっかくやる気になっているんだ。水を差すこともない。



 賑やかな、いや、キョウカが騒いでいるだけだったが、ともかく朝メシの後は仕事だ。

 まだマクスウェルから請け負った魔物討伐が残っているからな。

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