板に付く魔物退治
魔物の捜索といっても、何者かの足取りをたどるような技術や能力を持っていないから、虱潰しに辺りを捜すしか手がない。
特殊能力のお陰で捜索範囲はそこそこ広いが、それでも範囲外に魔物がいるのなら意味はない。ほぼ運任せだな。
一見すると平和そうな森を突っ切る街道を、散歩のような気分で練り歩く。
目的外の魔物もいるが、こっちが襲われない限りは無視だ。それは請けた仕事に入っていない。
たまに馬車が通り掛かるのを見送りつつ、休憩を挟みながら捜すこと幾ほどの時間か。
街道から外れた森の中を歩きながら、木々を見るのにも飽きたなと思ったころ、まだ遠くから騒々しい馬車の走行音が聞こえてきた。随分と飛ばしているらしい。
目的のアムドゥスが現れたか、盗賊か別の魔物か。とにかく緊急事態だ。
仕事に無関係なことなら放っておきたいと思いつつも急行する。
索敵の範囲に入ったと思われるところで、特殊能力を使って音が聞こえてくる方向を詳しく探る。
「当たりか」
特徴的な形といい、力強い魔物の気配といい、アムドゥスに間違いないだろう。
森を駆け抜けると、ちょうど一台の馬車が猛スピードでこっちに向かってくるところだ。
どうやら護衛らしき馬に乗った男たちが、背後の魔物に対して魔法で牽制しながら逃げているらしい。
第三種指定災害を相手に逃げ切れるとは思えないが、奴らにとってはまともに戦うよりは逃げ切る可能性のほうが勝算は高いか。
俺の前を猛然と通り過ぎる馬車と騎馬に続いて、一角を持つ馬型の魔物が現れた。
どうやって乱入するかは駆けつける間に決めている。
ただタイミングを合わせて、そいつに向かって飛び掛るだけだ。これしかない。
「どりゃああああああ!」
木陰から躍り出て迷いなく踏み切ると、サラブレッドみたいな馬型の巨体に向かって、助走をつけたドロップキックをかましてやった。
手ごたえのあるドロップキックは、見事に激走中のアムドゥスの体を不意打ちに直撃して横倒しにする。
こんな攻撃方法では、もちろん拳闘無比の恩恵は受けられないが、勇者のスペックの高さは並ではない。
しかも逐電亡匿による完全な不意打ちで、転倒のダメージだけでもかなりになるだろう。
逃げる馬車と騎馬には何が起こったか分からないだろうが、チャンスとばかりに走り去り、残されたのは想定以上のダメージに倒れたままのアムドゥスと、それを警戒する俺だけだ。
初めて見るアムドゥスは確かに一角の馬型だったが、思っていたのとは違った。
一角の馬型と聞く限りではユニコーンを想像していたが、足は六本もあるし甲殻の虫のような羽まで生えている。良く見ると割と気持ち悪い。
しかし第三種指定災害相手に、パワーアップした拳闘無比を試したかったのだが、打ち所でも悪かったのかすでに半分死んだような状態だ。
馬に転倒は鬼門であるし、ひょっとしたら弱点を突けたのかもしれない。
「……しょうがねぇ、止めだけ刺して帰るか」
無造作に首を踏み砕いて慈悲の一撃を入れた後で、値打ちがあるという角を折って戦利品にする。討伐証明にもなるから一石二鳥だ。
本来なら植物を操る特殊能力を持つ魔物らしいが、正面から戦うのは次の機会に持ち越しだな。
それにしても、ずいぶんとあっさりした終わり方だったな。
やはり馬型だから転倒に弱かったのか、不意打ちが強すぎたのか。まあ、楽に終わる分にはいいか。




