心構えの問題
猛然と食べる俺に釣られたように早く食べた二人を伴って庭に出る。草を刈ったばかりの、そこそこ広いスペースだ。
雰囲気を出すため、殊更偉そうに腕を組むと言い放つ。
「よし、まずはお前らの特殊能力を教えろ。ああ、汎用的な奴はいいから、ユニークな奴な。言いたくないのは言わなくていいが、一つくらいは教えろよ」
「ちょっと、なんであんたにそんなこと」
「あ、あの、大門さんは、その、ど、どんな能力が、あるんですか?」
ほう、シノブからその質問が出るとはな。質問に質問で返すとは感心しないが、まあいいだろう。
「聞いているかもしれないが、俺には全部で四つしかねぇ。笑っちまうだろ?」
「それ、ホントなの? でもあんた強いらしいじゃん」
「はい、わ、私たちも、大門さんのように、なれって、た、たくさん言われていました」
そういうのは止めてもらいたい。
年増な分、経験のアドバンテージはあるが、所詮は最初だけだ。後から追い抜かされる運命なんだからな。
「今は俺のほうが強いかもしれんが、特殊能力の数の差は歴然だ。鍛えればすぐに追い抜くだろうよ。いずれは他の勇者に負けるとしてもだ、それでも俺は強い。勇者の力ってのはそれだけトンでもないってことだ。お前らだって、これを使わない手はないぜ? 勇者の使命とか役割とか期待なんか、関係なくな。せっかく、便利で凄ぇ力があるんだしよ。そいつを誰かのためじゃなく、テメェのために使えばいい」
現に俺はそうしている。結果として、今のところは王国のためにもなっているにすぎない。
勇者の力を使わないなんてのは宝の持ち腐れにもほどがあるし、このまま腐らせるには惜しいだろう。戦いが嫌でも、他にどうとでも使いようはあるはずだ。
「……あんたの能力、教えなさいよ。そしたらあたしのも、一つだけ教えてあげる」
「わ、私も」
ガードが固いな。確かに能力の秘匿は人間同士の、最悪の場合、勇者同士の争いに発展した場合には有利になるだろうが、仮にも指導してやろうとしている俺にまで秘密にされてしまってはどうにもならん。
こっちも全てを明らかにするつもりはないから、お互いさまではあるが、ある程度は把握しあっておかないと協力することもできない。
「別に隠す気もねぇがな。いいだろう。能力の一つは『拳闘無比』だ。これは簡単に言えば拳で殴って戦う力だな。俺の戦闘で使えそうな能力はこれだけだぜ?」
「嘘でしょ? なんでそれだけで強いのよ。それに魔法は?」
勇者として数多くの特殊能力を有するこいつらからしてみれば嘘くさく聞こえるだろうが、こればかりは本当の事だ。どうせなら便利で分かりやすい魔法の一つくらいは欲しかったがな。
「そんなこと言われても無いものは無い。今のところは魔法も戦いでは使えん。俺の持っている唯一の魔法っぽいのは一応、『呪詛』って奴らしいが、どうやって使うのか見当もつかん」
「呪詛? 使えないままのほうがあたしたちは安心そうね」
能力名からして不吉だしな。しかし俺にとっては、僅か四つしかない貴重な特殊能力だ。いつかは使えるようにならなければ。
本当にどうすれば使えるのか全く分からん能力だ。どうにかしたいが、どうすればいいのか未だに不明だ。少しだけでも使えるようになりたいものだ。
まあ俺のことはいい。今はキョウカとシノブだ。
「俺にはお前らのように汎用的な特殊能力はないし、『拳闘無比』以外の能力もどうやって使うのか大して分からん状況だ。だが、それだけでも勇者の力は絶大だ。俺より優れた潜在能力を持っているお前らなら、どんなことだってできるに違いない。つまりな、戦うのは嫌だって話だったな。別に戦わなくてもいいじゃねぇか。それ以外でだって、勇者の力は役に立ちそうなもんだぜ。生憎と俺の能力は少ないし、今のところは戦いでしか活かせそうにないが、お前らは違うだろ?」
「それはそうかもしんないけど、あたしは魔法とかわけの分かんない特殊能力なんて信用できないのよ」
そういうもんなのか? 若い奴らなら喜々として魔法を使いたがりそうなものだが。
「わ、私も。ま、魔法って、なんか、こ、怖くて」
「あたしもそうよ。あんな得体の知れない力をよくも簡単に使う気になれるわね。それに命を懸けた戦いなんて絶対に嫌だし」
怖い、か。こいつらが正しいのかもな。理屈も分からない大きな力を軽々と使ってみせるほうがどうかしているのは間違いない。
だが、せっかくの力を使わないのは、やはりもったいない。それに身を守る術は多いほど良い。俺たちは厳然たる事実として、魔物が蔓延る世界に生きているのだから。
「お前らはあれだ。とにかく慣れろ。俺と違っていくつも魔法が使えるんだろ? 怖いのなら、そうでなくなるまで使い倒せ。使いこなせるようになれば怖くもなくなる。さっきも言ったが別に戦いに役立つ使い方じゃなくたって、他にも使いようはあるだろ?」
「……例えばなによ、適当なこと言って」
適当に言っているのは間違いない。ズバリと痛いところを突いてきやがる。
「まあ、適当に言ってるのはそのとおりだがな。単純にもったいねぇと思ってよ。例えば氷の魔法が使えるなら、簡単に冷たい飲み物が準備できるじゃねぇか。火なら外で種火に使えるしゴミも燃やせる。水が使えりゃ、いちいちバケツに水を汲みに行く必要もねぇだろ? 俺からすりゃ、羨ましいもんだぜ。なにせ、俺は今のところ殴るしか能がねぇんだからな。まったくよ、ガキのくせに難しいことばっかり考えんな。気楽にやれよ」
面倒くせえ奴らだ。ガンガン使っちまえよ、まったく。
「あんたは考えなさすぎ……色々考えてる、あたしがバカみたいじゃん」
「で、でも、魔法を使って、な、なにかあったら」
「お前らが考えすぎなんだ。キョウカもシノブも規格外の勇者なんだぞ。間違って攻撃魔法をぶっ放したところで死にはしねぇだろ。ここは周りには他に誰も居ない山だしよ。屋敷が壊れたとしても、今のところ少しくらいなら問題ねぇしな。ああ、だけど火だけは気をつけろ」
実際に怪我の心配は少ないだろう。勇者は耐性系の特殊能力を大抵備えているし、殺意を持って使うのならともかく、間違って発動するレベルの魔法なら死にはすまい。
「そんなわけで気楽に使え。あとはお前らのユニークな特殊能力だ。どうせならそれを一番に使いこなせるようになれ。せっかくなんだからな。俺に教えるかはおいておくとして、午後はそれを使って訓練する時間に充てろ。どんな能力か知らんが、それで金も稼げるようになるかもしれんしな。自分で稼いだ金なら誰も文句は言わん」
能力を教えてもらえれば、相談に乗ってやることくらいはできるかもしれない。金稼ぎに使えそうな手段とかな。
俺に相談するかは別として、せっかく二人いるんだし互いに相談しながら魔法の練習をやったらいい。俺がいると邪魔になりそうだし、また昼寝でもしに行くか。
「じゃあ、あとは適当にやってろ」
「ちょっと、どこ行くのよ」
「あとはお前らでやっとけ。俺は昼寝の時間だ」
「あ、あの、私たちの、能力は」
「今度でいい。そのうち面白い使い方でも見せながら教えてくれ。じゃあな」
いつものキョウカの文句が背中にぶつけられるが、無視だ無視。
ふぁ~あ、なんか本当に眠くなってきた。
そういや、あいつらも勇者の端くれなら基本的な身体のスペックの高さはあるはずだ。その辺も確認しておきたかったが、また今度でいいか。




