反省の夜
桃源郷から現世へと戻り、暗がりをぶらぶらと歩いて屋敷があるシュトラス山に到着した。
治安が悪いにもかかわらず、特に何も起こらず帰り着くことができたのは良かった。今日はこのまま気分良く眠りたいからな。
軽い足取りで山道を登りきって帰る所は幽霊屋敷がごとき愛しの我が家。だが、今は灯りがついている。
色々と良いことも悪いことも思い出してしまうが、待ち人がいるってのは悪くない気分だ。
壊れたままの玄関をくぐって中に入ると、一応の声掛けはする。自分の家で不審者に間違われたくはない。
「おう、帰ったぞ」
しーんとした屋敷だけど、人の気配はある。リビングに誰かいるようだが、返事ぐらいしたらどうなんだ。
居眠りでもしているのかと思いつつリビングに顔を出すと、キョウカとシノブがそろってソファーに座っていた。
「おう、帰ったぞ。どうしたんだ?」
改めて声を掛ける。
なんなんだ。やけに機嫌が悪そうだが。
「……おっそい! あんた、夜には帰ってくるって言ったじゃん」
ギロリと睨みつけてくるキョウカの眼光はなかなかの迫力だったが、俺からしてみればまだまだ可愛いものだ。
「今は夜だが」
「遅すぎるって言ってんの!」
「なに怒ってんだ、お前」
怒りから一転、黙り込むキョウカ。
訳の分からん奴だな。これだからガキは面倒だ。
「あ、あの、キョウカちゃんは、その」
「シノブ、もういいから。お風呂入って寝よ」
不機嫌なまま立ち上がったキョウカは、こっちを無視してシノブを引き連れていこうとする。
「おい、ちゃんと言わなけりゃ分からんぞ。俺は何もかもお見通しの名探偵じゃねぇんだ」
「ば、晩ごはん! キョウカちゃんが」
全部を言い終わらないうちに、キョウカはシノブを引っ張って連れて行ってしまった。
でも、さすがにそこまで言われりゃ俺だって分かる。
「……はぁ~。少しはしゃぎすぎたな」
キョウカとシノブは俺の分の晩メシまで準備して待ってくれていたらしい。
さすがに気まずい。こんな時間まで女遊びをしていたなんて絶対に言えないな。
台所に移動すると、鍋の中にはポトフのような煮物があった。
すっかり冷めてしまった鍋を暖め直して食べることにする。
風呂からは二人で一緒に入っているのか、キョウカのうるさい話し声が聞こえてきた。
暖めた鍋ごと持ってリビングに移動すると、味の染みた煮物を頬張る。
「……あいつ、意外とやるな。これはもう特技だな」
店に出してもいいくらいに美味い。料理上手ってのは、口先だけじゃなかったらしい。
……それにしてもだ。なんか凄い罪悪感があるな。なんなんだ、この感じは。
ちっ、なにかで埋め合わせしないと、このままじゃ気になってしょうがねぇ。
すでにルームサービスで上等な晩メシを食べてはいたが、煮物は全て余すことなく美味しく食べきった。




