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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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重要極まる男の作戦始動

 仲間はずれにして妙な勘繰りをされても困るので、もう一人の真面目そうな小隊長も交えて一緒のテントで作戦会議を始める。

 事前の情報収集と作戦の立案が、ある意味では初陣となる今回の戦いの明暗を分けることになる。

 これは非常に重要な会議である。


「そうすると勇者殿は、こちらの世界では初めてなのですか」

「まあな。実は随分とご無沙汰になる」

「いかんですな。まだお若いというのに。して、どういった感じの店をご所望で?」


 ダンディな小隊長の顔が若干、下品に変わったのを見逃さない。こいつは結構なやり手に違いない。


「どんなのがあるか、そこから分からんのだがな。まずは基本的な店でいいぞ」


 参考に話を聞いてみるとあるわあるわ。娯楽に乏しい世界では、それこそが最大の娯楽なのかもしれない。

 俺が知っているようなものは大概あるようだが、まずはノーマルなところだな。


 しかし懸念もある。

 手っ取り早い商売女だが、納得できるレベルで衛生に気が払われているとは到底思えない。これでも一応は衛生観念のそれなりに強い文明人だからな。


 はっきり言って病気が心配だ。勇者が性病を患うとか情けなさすぎる。

 だがそんな心配も杞憂だった。訳の分からん魔法がある世界だけあって、病気どころか妊娠の心配もしなくていいらしい。

 やべぇ、俄然楽しみになってきた。


 さらにだ。もちろん女なら誰でもいいってわけではない。

 ついでにシステムや料金設定も気になるところだ。

 どっちの小隊長もベテランらしく、色々と知っていて大変に参考になるありがたーい話を聞かせてくれた。

 まったく、先達の知識とは素晴らしい。


 聞いたところによれば、大体のところは俺の常識と変わらない。

 店は高級店から大衆向け、それ以下の酷い店とピンからキリまで様々ある。


 喜ばしいのは、高級店であっても大した金が掛からないことだ。それだけ搾取されている職業だってことだろうが、遊ぶ側としては気軽に行けてありがたいものだ。

 酷いほうの店だと、小銀貨が一枚からなんて店もあるらしいが、それは安すぎて怖い。小銀貨一枚は千円相当だからな。

 まとまった金も入ってくるし、素直に高級店に行く。


 任務達成後であり、しかも完勝だ。浮かれたような緩い空気の中で一晩を過ごすと、王都に向かって帰路についた。



 王都に帰り着いてやることはまず報告だ。

 面倒だが、疎かにすることはできない。

 報酬もこの後に支払われるし、必要な手順と思って割り切ろう。報告自体は騎士団の小隊長が行うから俺は特に何もしないが。


 わざわざ王様と謁見したりすることもなく、騎士団の駐屯所で騎士の上役と王宮の官僚に報告するだけだ。

 労いの言葉を適当に聞き流して報酬を受取ったら、いざ約束の地へ出発だ。

 契約どおりに報酬がちゃんと準備されていたのは高評価だな。




 まだ日も高いうちから歓楽街を練り歩く。意外なことに夜を待つまでもなく、昼間から営業しているらしい。


「いやー、まさか勇者殿とこのようなところに一緒に行けるとは、夢にも思いませんでした」


 まあな。そりゃそうだろうよ。

 店の場所を紹介してもらうだけのつもりだったが、小隊長たちはちゃっかり俺についてきた。

 三人の嫁さんのことは今だけは忘れているのだろう。男にはそういう時も必要だ。



 訪れたのは、王都でも五本の指には入るという高級店だ。

 外観はレンガ造りのマンションにしか見えない。店の前で立ち止まるのもなんなので、さっさと入る。


 話によれば開店直後だから、ほとんど誰でも指名可能らしいが、指名といわれても知り合いがいるわけでもないし、写真だってないだろう。どう指名すればいいんだよ。

 中に入ると、ロビーには婆さんが一人だけ。マジでどうすればいいんだ。


「よお、婆さん。元気でやってるか。今日は、そうだな。俺はモニカを頼む」

「あんたは相変わらずだね。嫁さんが泣くよ、まったく。あいよ、モニカだね」

「俺はビルギットで」

「あんたはいつもビルギットだね。もうあの子をもらってやんなよ」


 ……慣れているどころじゃない。こいつら常連じゃねぇか。本指名なんかしやがって。

 婆さんが隣の部屋に居るらしい女に声を掛けると、二人ともさっさと俺を置いて奥の扉から消えていった。

 なんか急に心細くなったな。


「あんたは初めて見る顔だね。指名料はもらうけど指名するかい?」

「そうしたいが、誰がいるのか分からんぞ。どうするんだ?」


 付いてこいという老婆に大人しくしたがって、隣の部屋に移動する。

 すると、思い思いに寛ぐしどけない姿の女たちがいた。


 ……やべぇ、やべぇよ。ここはパラダイスか。久しぶりに激しく高ぶる。

 ちょっと見ただけでも、レベルの高さがうかがえる。さすがは高級店だ。


「ほれ、気に入ったのを選びな」


 選び放題かよ。誰もが一定以上の美しさを誇り、年齢層は低いのから俺と同年代までいるようだ。

 俺はロリコンではないので、若すぎるのは除外する。

 露骨にアピールしてくるのもいれば、俺に興味がないのか無視を決め込むのもいる。なかなかに面白いシステムだな。


 せっかくの機会だし他に客もいないので、じっくりと入念に選ぶ。この世界初なのだし、失敗は許されない気合で臨む。


 一人一人と目を合わせていき、その中からこれだと思う金髪ポニーテールの美女を選び抜いた。

 見た目がいいと思えるのは何人もいたが、彼女はなによりも表情が良かった。優しげな眼差しと微笑みは癒しを求めている俺には完璧な存在だ。


「ヴァイオレットだね。時間はどうする?」


 ほう、スミレ色の瞳に良く似合う名だ。まあ源氏名かもしれんが。

 時間に縛られるのを嫌った俺はフリータイムを選択した。そんなものがあるとは思わなかったが、婆さんがこっちの様子を見て薦めてくれたのだ。もちろん迷わずそれを選んだ。

 値は張るが時間に追われたくはない。なんといっても久しぶりなのだから。


 ヴァイオレットは俺に寄り添うと、そっと腕を組んでエスコートする。その所作がまた素晴らしい。やべぇな、もうすでにハマりそうだ。

 そこからは個室に向かって、天国への階段を登っていった。


 ――世の中には桃源郷がある。


 今日は間違いなく、人生最高に匹敵する時間を過ごした。



 どんなに別れが惜しくても互いにビジネスだ。俺は余裕のある態度を崩さずに店を出る。

 その際、最後の見送りのスキンシップでまた、もよおしてしまうが我慢だ。キリがない。


 フリータイムを限界まで使って、気がつけばもうかなり遅い時間だ。

 何時間ここにいたんだ。晩メシにルームサービスまで頼んでしまったからな。


「ふぅ~、すっきりして腰が軽いぜ」


 今日は良く眠れそうだな。気分が良くなって土産に菓子や果物などを買い込みつつ、ぶらぶらと歩いて帰ることにした。

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