納得の結果とお楽しみ
なるべく敵を引き付ける。できるだけ集落の中央に移動して、最初は避けることに徹する。
まだ遠くで様子見をしている魔物も、こっちがしぶといと分かれば近寄ってくるだろう。
敵の攻撃を避けることは造作もない。拳闘無比の能力を全力で発動しなくても余裕がある。
スイッチを入れたり切ったりしながら、まずは乱暴な動きを繰り返すオーガどもの観察だ。
今の俺に必要なのは多くの経験だ。雑魚であっても、対魔物の戦闘からは多くを得られるはず。
観察しながら考える。オーガは基本的には手に持った武器を力任せに振り回すだけだ。
木の棒を持っているのが多いが、どこで手に入れたのか剣を持っているのもいる。
事前の情報どおりに魔法は使ってこないし、特別におかしな行動をとることもない。
少しずつオーガは集まって、俺の周りを取り巻くように壁を作る。何匹引き付けられたのか分からないが、そろそろいいだろう。
まともにトレーニングを始めてから初の戦闘だ。試させてもらうとしよう。
振り回された棒をスウェーで避けると、がら空きの脇腹にボディブローを叩き込む。
強く重い手ごたえだ。なにかを破壊した感触がある。
次々と襲いくるオーガに、一発ずつ狙いすましたパンチを叩き込んでいく。狙うのは腹と顔だ。
一撃ごとに鋭さと重さを増していく拳は、気のせいではなく実感の伴ったものだ。
勇者の力が成長しているとでもいうのだろうか。ほんの少しとはいえ、実感できるのが気持ちいい。
大振りの攻撃を避けて踏み込むと一撃を入れて離脱。
ヒットアンドアウェイなんて戦法は、オーガごときには不要だろうが色々と試す必要はある。
半ば実験を繰り返すような気分で、人間の敵を屠り続ける。
腹を殴れば肋骨を圧し折りながら内臓も破壊する。
ジャブでも顔を殴れば顎や頬骨が砕け、フックを決めれば首が折れ曲がる。ストレートなら顔面が陥没する。
感触で分かる。グシオンと戦った時よりも明らかに威力が増している。確認のためにも、もう一度グシオンと戦ってみたいところだな。
気がつけば立っているのは俺だけだ。倒したオーガの死体の中で、どこかに怪我がないか一応確かめる。
一撃も受けていないのだから当たり前だが、一切のダメージはない。
しかも、素手であれだけの威力の攻撃を続けたにもかかわらず、拳を傷めてもいない。
思った以上の結果に満足だ。
片付いたと見るや、二人の小隊長が走り寄ってきた。
「勇者殿、お見事です」
「素晴らしいですな。噂に名高い勇者の力、見せていただきました!」
ストレートな賞賛と興奮した様子で賛辞が続けられるが、褒められすぎても鬱陶しいから適当なところで切上げさせる。
所詮は勇者の力でゲタを履かせて貰っているだけだからな。純粋な俺の実力ではない。
「おう、そっちはどうだった? 全部を俺が倒したわけじゃないだろ?」
「逃げ出そうとしたのは三十匹ほどでしょうか。しかもバラバラに逃げ惑うだけでしたから、我々で問題なく対処できました」
「馬車にも被害はありません。怪我人もいませんし、完勝ですね」
まさに完璧だな。騎士もベテランや中堅が編成されているだけあって、問題なく対処してくれたようだ。
よし、これでボーナスゲットだ。
実際、怪我人も出さずに第四次指定災害を乗り切るのは珍しいらしく、騎士も喜んでいた。彼らにも褒賞があるらしいし、帰ったら宴会でもやるか。
あ、そういやそうだ。
年配の渋い小隊長にちょっと聞いてみる。重要な用件だ。
「話は変わるんだが、なあ、小隊長さんよ。あんた独身か?」
「え? いや、妻は三人おりますが」
な、三人だと!? なんと、そういう世界だったのか。
うーむ、確かにモテそうなダンディなおっさんだが。
王国の正騎士なら給料もそこそこあるだろうし、嫁や子供がたくさんいてもなんとかなるか。
「どうかしましたか、勇者殿」
「いや、なんでもねぇ。それにしても、あんた三人も娶るなんてやるな」
一人でも苦労しそうなものだが、甲斐性のある男だ。
「はは、苦労は多いですが、その分楽しみもあります。そういう勇者殿はどうなのですか?」
「なに、実は独り身でな。ちょっといい店でもあったら紹介してもらおうかと思ったんだが」
これが本題だ。あまりにも重要かつ、緊急を要する男の大事だ。
欲望は別にしても、長いこと使わないとパイプが機能不全になっちまうかもしれないからな。
「……勇者殿も男ですからな。任せてください。これでも若い頃は遊び惚けて散財していましたから、馴染みも多いです。いくつか良い店を紹介しましょう」
妙に自信満々な小隊長が我が意を得たりと張り切ってくれている。
どうなることやら。期待半分てところだな。
後片付けをしたら、一泊して撤収だ。ふっ、明日が楽しみだな。




