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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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自己紹介タイム

 案内したのは広々としたリビングルームだ。

 ここも軽くだが掃除だけはしておいたし、処分品のような安い中古のソファーもいくつか適当に仕入れておいた。

 不揃いで格好悪いが、何もないよりはマシだ。

 テーブルも木箱に板材を乗っけて加工しただけの自作だが、用は足りる。


 我ながら殺風景で味気ない空間だが、金もないし仕方ない。

 あくまでもその場しのぎの急ごしらえだ。それでも埃だらけで何もないよりは、随分と生活空間らしくなった。


 マクスウェルは歓迎すべき友人だと思っているし、新しく同居人になる女とも無闇に対立するつもりはない。

 それに、仕方なしに引き受けたこととはいえ、ポジティブに考えなきゃやってられない。


 歓迎の意を表すべくソファーを勧めると、果実水で一応の持て成しをする。

 全員分を準備して座れば、これで話の準備は完了だ。残念ながら茶菓子はないがな。


「さて、始めようか。マクスウェル、すまんが紹介してくれ。こいつらとは初対面なんだ」


 初めてゴブリンと戦った時に、離れた場所から勇者たちの戦いを見たことはあっても、個人を識別できるほどではない。俺にとって完全に初対面の相手といっていい。

 向こうにとっても、ほぼ同じだろう。ただし、召喚時に瀕死の姿を目撃されてはいるだろうが。


「ええ、そうですね。ではこちらから。月の勇者、十六夜いざよいキョウカ殿です」


 ギャルが月の勇者らしい。月の勇者と言われても、何がどう『月』なのか分からんが。


「キョウカか。で、お前はなんで俺のところにきたんだ?」

「ちょっと、馴れ馴れしいんですけどっ! 住まわせてもらうからって、変なコトしたらタダじゃおかないからっ!」


 威勢だけはいい奴だ。拾ってきた懐かない猫みたいだな。


「しねぇよ、クソガキ。最初に言っておくがな、俺は見た目を裏切らず面倒見が良い大人じゃねぇ。ここは俺の家だし最低限のことはしてやるが、多くは期待するな。できることは自分でなんとかしろ。ガキとはいえ、なにもかも面倒見てもらわなきゃならんほど子供でもないだろ? 月の勇者さまよ?」

「は? 期待なんかしてないし。それに勇者なんか知るかっつーの!」


 拗ねたような態度はまだ可愛げがある。生意気な奴だが思ったよりも素直なのかもしれない。


 よく聞いてみれば、キョウカは勇者として魔物と戦うのは真っ平ゴメンってことで、戦う気は全くないらしい。

 前向きに戦おうとしている他の勇者とも反りが合わないらしく、そんな事をするくらいなら俺のような得体の知れない男との同居も受け入れるという選択をしたようだ。それはそれで分からんものだが。



 続けて根暗女だ。まだまだ緊張というか警戒というか、かなり怖がられているみたいだ。


「こちらは死神の勇者、瀬戸シノブ殿です」


 おいおい、死神ってか。また凄い勇者がいたもんだな。

 勇者って言葉がつけばなんでもいいのかよ。まあ、刑死者の勇者である俺が言えた義理ではないか。


「おう、シノブ。死神なんて随分と強そうな勇者さまじゃねぇか。こんなところで燻ってていいのかよ?」

「あ、そ、その、戦うのは怖いし、あの、ほかの人たちは……」


 俯いてしまって言葉にならない。はっきりしない奴だが、うるさくないのだけは良いところだ。


 気を利かせたマクスウェルによれば、シノブは他のイケイケな勇者との反りが合わない上に集団行動が苦手らしい。それに魔物との戦闘にも消極的なことから、キョウカと一緒にこっちにくることを選んだのだとか。

 まだ出会って間もないが、こいつが勇ましく魔物と戦うところなんて想像できないし、脱落するのは順当と言って良いだろう。



 それから少し話を聞いてみれば、キョウカとシノブは別に友達同士というほど、仲がいいわけではないらしい。

 友達の線引きがどこかは不明だが、一緒に遊んだりした経験がなければ『友達』認定はしにくいのかもな。


 ただ、互いに人見知りで人付き合いが苦手、魔物との戦闘なんてやりたくない。元の世界に未練はあっても、どうにもできない今は平和に生きていきたい。それが本音かは分からないし、どうでもいいが、その点で少女たちは意気投合しているらしい。


 見た目も性格も全く違う奴らだが、同居人が気まずい関係でいるよりは良いだろう。精々仲良くやってくれればいい。ホームシックになっても俺では慰めてやれないし、そういうのは女同士でやってくれ。


 それにしても、若い身空で随分と欲のないことだ。強大な勇者の力があれば、少しは大それたことの一つも考えそうなものだが。


「ちょっと、あんたも自己紹介くらいしなさいよ」

「ああ? 聞いてねぇのか?」

「そりゃ少しは聞いてるけど、又聞きと本人からとじゃ違うでしょ?」


 それもそうか。まあいい、これもコミュニケーションってやつだ。


「知っているだろうが俺が刑死者の勇者、大門トオルだ。この屋敷の持ち主でもある。今日からはお前らの家でもあるな。俺は魔物退治に出掛けることもあるから、基本的に屋敷のことはお前らに任せたい。今は幽霊屋敷みたいなもんだが、少しずつ直していくつもりだ。金は俺が稼ぐから、掃除やら修理の手配やらをできれば頼みたいがな」


 ていよく押し付けたいとも言う。せめて掃除くらいはやらせたい。でなければ本当にただの穀潰しだ。本人たちもそれは望むまい。


「は? あたしらにやらせるつもり? あたしら家政婦じゃないんですけど」


 第一声としては予想通りの反応だ。


「文句あるか? あるなら聞いてやるが、まさか四六時中食っちゃ寝だけするつもりだったのか?」


 あわあわと慌てるシノブと、納得いかなそうなキョウカ。意外なことにシノブが先に切り出した。


「だ、大門さん。その、お掃除はわ、私がやりますから、その……」


 本当に人と話すのが苦手らしい。つっかえつっかえ、なんとか話そうと必死だ。


「だそうだぜ、キョウカ。お前がシノブに全てを押し付けるのは、それはそれで構わんが相談くらいはしておけ」

「ちょっ!? そんなつもりないし! シノブ、あんたもあたしに遠慮なんかしてんじゃないの!」


 凸凹なコンビだが、案外上手くやれそうな二人組みだな。しばらくは様子を見よう。

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