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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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攻め入られるホスクルムの王都

 バルディア王国の南に位置するリエージュ・シャトレ教国を除き、これまで他国にまで足を延ばしたことはほぼなかった。

 例外は今から行こうしている東の隣国ホスクルム王国に、少しばかり入ったことがあるくらいだ。

 あの時は国境の大河を渡った先の町に魔神が現れ、緊急事態として無断で乗り込んだ経緯があった。討伐後には即座に引き返したから、せっかくの他国でも戦闘以外の思い出は特にない。


 二度目となるホスクルム王国への訪問は、女を救いに国の中心まで行くことになりそうだ。どこか途中で合流できればいいのだが、それは甘い見込みと考えておこう。


 当然のように隣国側にも国境警備の部隊がいるのだが、今は有事ということで休戦協定が結ばれているらしい。

 進軍を続ける悪魔の勇者率いる大軍を無視して、両国が戦闘するのは愚の骨頂なので当然でもある。

 勇者に勇者をぶつけたい思惑は誰も彼もが同じだったらしく、出国も入国もすんなりと進んだ。そうして今回は堂々と隣国に入る。


 入ったらまたうんざりする移動の始まりだ。再び長距離ランナーと化して突っ走った。


 ところがここでも簡単にはいかない。外国だからお尋ね者ではないと思いきや、手配書が回ってしまっている可能性が高いそうだ。隣国のお尋ね者でも報奨金や手柄に繋がる可能性があると考えれば、俺の顔を見て反応を示す奴はいるかもしれないらしい。

 運が悪ければどこぞの町の人や組織とトラブルになるかもしれず、余計な時間を使いたくない身としては、今回も隠れながらの旅路となる。


 初めて訪れた場所であっても、夜間に街道沿いを走るだけでは景色もなにもない。お気楽な観光客とは違うのだから別いいが、少々思うところはある。


 ちなみに途中でアーテル一行にかち合う可能性は、一晩走って考えるのを止めた。

 夜の移動中に会えればいいが、昼に移動されると俺は休んでいるのですれ違ってしまう。町に滞在しているのを捜し当てるのも無理だから、途中での合流は諦めるしかない。


 合流できずとも無事にバルディア王国に逃げ戻ってくれれば、それはそれでいい。ただ、運命の輪の勇者の伝言が当たっているなら、俺の行く先にあいつがいるに違いない。


 さらに道中では、ホスクルム王国の王都に近づくにつれ、俺の進行方向とは逆に向かう人々がどんどん増えて行った。これは戦場になりそうな王都から逃げ出した人々で、田舎への疎開といったところだろう。

 やがて群衆の大移動と言えるほどの場面に遭遇し、夜間でも街道とは遠く離れた荒れ地や森を移動せざるを得なくなった。お陰で昼夜逆転を解消することになったのは良かったが。


 そうして多少の苛立ちは感じながらも無心で走り続け、王都を遥か遠くに望める場所まで到着した。

 人目を避け続けた結果、森の中の低い山を登る羽目になってしまい、その途上で見えたのだ。


「すげえもんだな……」


 真っ先に目に入るのは王宮だ。なだらかな丘の上に尖塔のような王宮が建ち、それを囲む形で大きな街が形成されている。

 街の外周には多角形を成す城壁が囲み、人々の暮らしを外敵から守っているようだ。山の上からなら王宮や街並みまでが良く見えた。


 時刻は夕方だ。

 茜色の日が照らす白亜の王宮と広がる街並みは、平時に見たならば美しい光景とこの目に映ったかもしれない。

 思わず漏れ出た感嘆のような言葉は、しかし美しさに対してではない。暴力的な光景に対して、思わず出てしまった呟きだ。


 街を取り囲む人、人、人!

 それは絵に描いたような軍事侵攻の様子だ。おおよそでも数を判断することが難しいほどの軍勢になっている。悪魔の勇者が率いるバフォメル王国とやらの軍勢で間違いない。

 奴らは都市に対して激しい攻撃を繰り返し、応戦する防御側の人員をどう見ても圧倒的に上回っている。


 距離が遠くて戦闘の細かい部分までは見えないが、圧倒的な戦力差から街が落ちるのは時間の問題と思える。

 他国の街や人々に義理はない。本来なら他人事にすぎないが、あの王宮にはいまアーテルがいるかもしれない。

 街を蹂躙されて王宮が無事に済むはずはないのだから、あの街の危機はアーテルの危機となってしまう。あいつがすでに脱出しているならいいが、いる可能性がある以上は見過ごせない。


「ボケっと見てる場合じゃねえな」


 急がなければならない。

 まだ日のある時間帯でもここまで戦場になっている王都に近づけば、のこのこ出歩いている一般市民はいないだろう。山から飛ぶように下りると森から街道に出て、一気に突っ走った。



 空が茜色から群青色に変わった頃になって、平地の街道からでも遠くに王都が目視できるようになった。

 すでに王都が見える前から気づいていたが、城下の街のあちこちから火の手が上がっていて悲惨な状況になっていることは想像できた。

 目視できた城壁はすでに何か所も破られていて、バフォメル王国軍が内部に入り込んでいるようだ。もう少し持ちこたえるかと思っていたが、想像よりもかなり早い。


 市街地にもすでに大軍が入り込んでいるのだろうが、王都を包囲したままの軍勢もまだまだ多い。あれは一人たりとも逃がさない構えなのだろうか。


 王宮にたどり着くためには、まずは分厚い包囲網を突破し、市街地戦真っただ中の状況を抜けて初めて王宮に至ることができる。

 遠い王宮の様子までは見えないが、ひょっとしたらすでに王宮が制圧されている可能性まである。勇者が火力に物を言わせて突き進んだなら、短時間でやり遂げるだろう。


 バルディア王国なら若い勇者の人となりや能力について熟知しているから、もう少し展開が違ったのだろうがな。さすがに他国にまで、貴重な勇者の情報は渡していなかったと思われる。


「邪魔くせえな」


 街を取り囲む軍はどこを取っても分厚い陣容だ。

 対魔物戦で騎士の部隊と共に行動したことはあっても、ここまでの大軍を目にしたことはないし、人間と人間の殺し合いとなる戦場は初めてだ。特に市街地は想像以上に悲惨な状況になっているだろう。


 それでも俺の目的は軍隊を倒す事ではない。

 大勢を相手に一発で殲滅を狙える能力を持たない身としては、一人ずつ倒して回っていたら、それこそ時間がいくらあっても足りない。

 必然的に敵を無視して突き進むしかないのだが、分厚い陣容を突破するまでには結構な距離を走破する必要があり、人を避けて動くとそれだけでも時間が掛かりそうだ。


 少しでも時間短縮するため、拳闘無比の特殊能力はオンとオフを切り替えながら、省エネで突破を図るしかない。

 まだ遠くて具体的な陣容までは不明だが、これは腕の見せ所になるかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ギリギリの状況間に合いそうかな。輿入れ云々は、悪魔の勇者倒す代わりに無しにしてもらえばいいですし。 [一言] やっぱり勇者と敵対するとこうなりますよねぇ。そんな勇者に恨まれるような事をした…
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