繋がっていく真相
ソールズワード侯爵の息子、こいつが元凶だとしたら色々と話が繋がる。
クラインロウ家はソールズワード家と同じく王宮の始末屋を請け負っているらしいが、双方は仲が悪いらしく他家の悪行にまでは関与していないと思われる。
両家の仲が悪いことはレニー・ブランドから聞いた話だったが、それゆえにこうして伯爵は侯爵家に不利な話も素直にしゃべっているのかもしれない。
「おい、ソールズワードの息子が王子のダチってのはマジな話か?」
「友人という意味ならそうだ。貴族に限らず多くの者が承知している事実だ」
「だったら王子が死んだ夜に会いに行った奴が、その野郎だった可能性はあるよな?」
「十分に考えられる。ソールズワード家が拙速に動いた理由も、馬鹿息子の不始末をもみ消すためと考えるなら無理なく説明がつく。だが証拠はない。あくまでも可能性の一つとして考えられるだけだ」
理由はともかく、ダチ同士が争い合い弾みで王子を殺してしまったとしたら。実家のソールズワード家が動いても、何ら不思議はない。無計画ゆえにスピード重視で雑な後始末になったことも納得できる。
「証拠なんざ知るか。ソールズワード家が動いてたのが間違いねえなら、あとは吐かせるだけだ」
「儂の今の状況を思えばそれもそうだな。それともう一つ、根拠になりそうな理由はある」
「なんだ」
「貴様とエリザヴェータ様の関係だ」
こいつも知っているのか。
どこぞのドラ息子がエリザヴェータに片思いをしていたのは王妃に聞いたことがある。俺を恨んでいるらしいともな。伯爵の言い方から、そのドラ息子はソールズワードの息子で間違いないのだろう。
横恋慕野郎めが。まったく、男の嫉妬は醜いものだ。
「ちっ、ソールズワードのドラ息子が何でか知らんが王子様を殺しちまって、その罪をエリザヴェータの件で恨んでる俺に被せた格好か。しかも最悪なことに、王様がその展開を受け入れちまったと、こういう流れだな」
「陛下はエリザヴェータ様を溺愛しておられた。貴様が不敬にもエリザヴェータ様の部屋に侵入したことも、陛下のお心を千々に乱したであろうしな」
かくして俺は罪を被せられお尋ね者ってか。冗談ではない。
「とにかく、分かった。一応は納得のいく説明だ。だが分からねえのは、俺を執拗に探してるって部分だ。長いこと姿をくらましてたんだぜ? 本人がいねえほうがソールズワードにとっちゃ、都合がいいんじゃねえか?」
「口を封じなければ安心できまい。例えば他国の王族に無実を訴え出るような真似でもされてしまえば、杜撰な後始末など含め国内からも疑問の声は必ず上がる。証拠はなくとも怪しい状況があったこと自体は消えはしないのだからな。そうなってしまえば、今度はソールズワードが追い詰められる側に回るかもしれない。その時には儂が急先鋒になるだろう。なんとしてでも貴様を始末したかったのはそういった理由が考えられる」
俺の口を封じるとは大きく出たものだ。やれるものならやってみろと言いたいが……。まさか勇者が死んだ件は、ソールズワードの仕業ではあるまいな?
いや、その前に。
「是が非でも俺を殺して口を封じたかったってことは、俺の関係者を殺したのもソールズワード家の奴らで確定か」
「それは承知していないが、関係者が死んだというのなら、おそらく貴様の行方の手掛かりを得ようとしたのだろう」
「お前は無関係ってか?」
「関与していない。ソールズワード家とは同業者だが完全に別口だ。協力し合ったことは一度たりともない」
それが本当かどうかはソールズワードの側に聞いて確かめるとしよう。
だがこれで王子殺しの濡れ衣の件と、コロンバス会の店の女の仇ははっきりしたと思っていい。
ソールズワード家の当主とその息子。この二人の命だけは必ず獲る。
分家筋の手足は少ししか捕えられていないが、その少数からも情報は得られるかもしれない。居ない者はあとで捜し出すとして、次は本丸のソールズワード家だ。
「ほかにも聞かせろ。エリザヴェータは今どこにいる?」
「知らん。王宮にいるのか、どこかに移されたのか、陛下とその側近のみが知っているはずだ」
「まさか処刑されたりなんてことは……」
「ないだろうな。貴様との一件で激怒されたとは聞いているが、処刑してしまうほど怒り狂っているのならすでに実行しているはずだ。当然、儂の耳にも入る」
溺愛が本当なら殺す決断まではそうできるものではないだろう。だったら、差し迫った危機にあるとは考えなくてもいい。おそらく自由とは程遠い軟禁生活なのだろうが、危険から遠ざけられていると思えば安心だとも考えられる。
特にソールズワード家の息子のような異常者に接近される機会などもってのほかだ。王様が厳重に管理しているなら、不逞の輩の接近は確実にガードしてくれるだろう。
「あいつが無事ならそれでいい。噂じゃあ、貴族どころか王族まで処刑されたって言うじゃねえか、その辺はどうなってんだ?」
「事実だ。ヨークエラ殿下夫妻はすでにお亡くなりになった」
「ヨークエラ殿下? 誰だ?」
「エリザヴェータ様の父君にあたる御方だ。陛下の弟君夫妻と言えば貴様にも分かるか?」
それはあれか。エリザヴェータが放蕩三昧な生活を送っていたことに対する怒りを両親に向けたということか。自分の弟夫妻を殺すなど、よっぽどの怒りだ。これを聞くとエリザヴェータが本当に大丈夫なのかと思うが、まだ無事でいるのなら愛情は残っていると考えるべきか。なんだか安全面が微妙に思えてきたな。
「むしろ王様の精神面が気になるが……ほかにも貴族が死んでるんだろ?」
「それに関しては儂も無関係ではない。勇者におもねる貴族は粛清するようにと、陛下から勅命が下されている」
「ほう、もったいぶらずにしゃべるじゃねえか」
「隠し立てしても仕方あるまい。ここまでやる貴様のことだ、どうせ全てを暴くまで止まらんのだろう?」
「そういうことだ。一応、誰をやったか聞いとくか。言え」
聞いてみると少なくともクラインロウ家が手に掛けたなかに、俺の知り合いはいないようだ。マクスウェルの奴も貴族の端くれだったはずだが、あいつの名も出てはこなかった。無事でいてくれるといいのだがな。
「騎士団はどうなってんだ? あいつらが勇者派かどうか知らねえが、俺とはそこそこ仲が良かったぞ」
「あれは別だ。騎士団に手を出せば武装蜂起が起こりかねん」
それもそうか。だったら、騎士団のアルノー団長やグリューゲル副団長も無事と考えていいようだ。
「待てよ、勇者が貴族の家に婿入りしたケースがあったよな? そこはどうなってんだよ? 勇者におもねるどころの話じゃねえだろ」
「あの家か……」
婿入りだか嫁入りだかといった話はどこかで聞いたことがある。そいつらの立場は危ういだろう。
ハンジの野郎はたしか審判の勇者だったか。あいつは娼館にいた委員長っぽい感じの女と婚約していたはずだ。いや、貴族の女たちともいい仲だったような? あれ、結局あいつどうしたんだっけか?




