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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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城下町での買い出し

 とりあえず腹ごしらえでもするかと、適当な屋台で買い食いをする。

 以前は金がなくて、できなかった買い食いの再チャレンジだ。


 美味そうな肉の焼ける匂いに誘われて、ボリュームのある串焼きを注文して頬張った。


「ほうっ、こいつは美味いな」


 いきなり当たりの店だったことに満足しながら、いくつかの店を巡って腹を満たす。その際には道々の商店のチェックも忘れない。


 街の中を歩いていて気がついたのは、リヤカーのような台車を引いている人が結構いることだ。

 仕入れや何かに使っているのか、運ぶのが仕事なのか分からないが、あれは便利そうだ。


「オヤジ、あの台車はどこで買える?」

「なんだ、商売でも始めるのか? それなら、ほら。向こうに赤い看板が見えるだろ。あの隣に店があるぜ」


 甘い匂いを漂わせるワッフルのような焼き菓子を売る屋台で、適当に注文しつつ聞いてみれば、目当ての店はすぐに見つかった。

 さて、問題は値段だな。



 早速訪れた台車を売っている店は、専門店らしく色々な種類が置いてあった。

 値段もやけに安いのから高いのまで様々だ。どれを買ったらいいのか、さっぱり分からん。

 分からないことは聞けばいい。こんなところで悩むのも馬鹿らしいからな。


「おばちゃん、ちょっといいか。街の外まで荷を運びたいんだが、お勧めはあるか?」

「おや、行商かい? どれくらいの荷を運ぶんだい?」


 人当たりのよさそうなおばちゃんだ。なんでも聞いてしまおう。


「どれくらい……そうだな、一人分の生活用品一式を運べるくらいか」

「ずいぶんと少ないね。それなら小型で十分じゃないかい。種類はたくさんあるから、心配なら少し大きめにするといい」


 そうはいってもな。たくさんあるし、どれが良いのか全く分からん。


「じゃあ、それっぽいのをいくつか見繕ってくれ。その中から選んで買うからよ。ああ、それとなるべく安いやつでな」

「小型ならどれも安いけど、じゃあ売れ残ってるのをサービスしてやろうかね」

「悪いな、おばちゃん、それで頼むわ」


 お任せでらくらく購入だ。俺のような強面で得体の知れない奴にも物怖じしないおばちゃんはさすが商売人だ。


 ありがたいことに小銀貨五枚のところを、まけて四枚にしてくれた。

 大銀貨一枚を支払うと、釣りとして小銀貨が六枚返ってきた。計算が分かりやすいな。


 相場が分からんから得したのか損したのか、それとも妥当なのかさっぱり分からん。俺の価値観からすれば、総合的に考えて妥当なところだとは思うが。



 リヤカーを引く自分の姿を考えると、また笑えてくるが、ここではなんら珍しくもない。

 さっそく手に入れたガタガタと揺れるリヤカーを引いて買出しを済ませる。


 路地で時折見かける喧嘩や一方的な暴行、スリに窃盗を横目にスルーしながら店を巡る。

 幸いにも俺と目があって逃げる奴はいても、喧嘩を売ろうとするバカはいなかった。


 次から次へと商店を訪れては、店主に適当な物を用意させて購入していく。


 毛布を二枚、適当な着替えの服と下着をいくつか、雑巾まで含めた掃除用品を一揃い、安かった葡萄酒を樽で、明日の朝食用のパン、保存の利く乾物を適当にまとめて、一応の料理道具を一式、食器類のセットを適当に、なんにでも使えそうな安い布切れをまとめて束で、石鹸類に歯ブラシ、洗濯板も。


 特に洗濯のことを考えると面倒くさすぎて頭が痛い。

 はぁ……これからは洗濯板で汚れ物を洗うことになるのか……。


 結局、なんやかんやと大量に買う羽目になってしまった。


 色々と買ったが足りないものがあれば、また買えばいい。

 どっかの店で夕食を食べてから帰りたかったが、リヤカーを放置したまま飯屋に寄れるほど街の治安はよくない。屋台で夜食を買い込みながら撤収だ。



 帰り際、夕暮れ時に単独で街の外に出ようとする俺を見咎めた衛兵がいたが、今後のことも考えると俺が何者か知っておいて貰わないと毎度面倒が起きる。

 信じる信じないはともかく、俺が勇者であり、街の外の屋敷に住むことになって、今後はちょくちょく出入りすることを伝えようとする。


 己の仕事を果たそうとする衛兵と問答していると、衛兵の中でも偉い奴が出てきた。

 そいつは俺とグシオンとの戦いを見ていたことがあるらしく、細かいことはともかく俺が勇者であることは分かってもらえた。余計なことまで聞かれて若干イラついたが、信じてもらえて何よりだ。

 これからは顔パスで出入りできるだろう。

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