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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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生活の心配

 今後の方針を決めて相談事が終われば、あとは実行するだけだ。

 もう晴れやかな気持ちで、これからに向かっている。過ぎたことをウダウダ言っても仕方ない。

 面倒な事前調整やら細かいことやらはマクスウェルに任せてしまったし、こっちは気楽なものだ。


 荒れた山の麓でぽつんと待っていた御者に軽く詫びると、城下町まで戻ってもらう。

 後でここに戻ってくる時は歩きでも構わない。本気で走れば大した時間もかからないだろうし、たまには散歩をするのも悪くない。


 これから何度も通うことになるだろう景色を漠然と見ていると、同乗者のマクスウェルが退屈しのぎに口を開く。


「大門殿、今日から先ほどの屋敷に住まわれるとして、食事はどうされるのですか?」


 メシか。今後を考えると、しばらくは金に余裕がなさそうだ。

 手持ちの金は大銀貨が百枚。およそ百万円相当でそこそこあるようにも思えるが、無駄遣いをすればあっという間に消える額でもある。

 となれば、自炊は必須だろうが、今はそんな気分じゃない。


 しかし明日から毎日自炊をやるかと言われれば……。

 うーむ、とりあえず保留だな。


「簡単なメシくらいなら自分でも作れるが、正直な話やる気はしないな。料理道具も必要になるしな。街で何か食うか適当に買っていくさ。ああ、そういや掃除もしないとな……メイドでも雇いたいところだが、金は結構掛かるのか?」


 所帯じみた話だが、これも現実だ。

 そもそも世界の危機において召喚されたはずの勇者が、明日のメシや掃除のことを気にしなければならないとはな。

 随分とまあ余裕があるものだ。実際、切迫感はまったく感じないが。


「そうですね、決して安くはないです。メイドを雇うのは大きな商家や貴族ですから縁故で雇うことが普通になります。そうでない場合には教育を受けたプロを斡旋しているところを頼ることになります。相応に値は張りますね」


 これからやろうとしている事が上手くいけば、資金面での問題はなくなると思う。

 まだこれから交渉する段階だから、稼げるようになるのは先の話になるが。確実に思ったとおりになる保証もないし、今のところ捕らぬ狸の皮算用は止めておこう。


「なるほどな。先のことはともかく、今の手持ちでは無駄遣いできんな。いや、臨時で短期間だけでも雇えないか……」


 総合的な家事全般を任せられるメイドではなく、掃除夫のような人を雇うにしても、あの屋敷の規模だとやはりまとまった金が掛かりそうだ。

 それにスポット的な都合のいい雇い方は難しいらしく、今のところは自力で何とかするしかないようだ。まとまった金が入ったら、その時にまた考えよう。



 城下町に着いたところでマクスウェルとはお別れだ。

 メインストリートならば大抵の生活物資は揃うらしいから、そこを適当に回って必要なものを買い集める。といっても、掃除用具に毛布と保存食、酒くらいか。あと着替えや石鹸、体を拭く布なんかも要るな。


 良く考えてみれば何だかんだと色々あるし、荷物も多くなりそうだ。一度に全部を持って帰るのは無理かもな。どうするか。


「それでは大門殿、進展があり次第、後日そちらのお屋敷に伺います」

「おう、手間掛けるな。悪いが頼んだぜ」


 適当なところで馬車を降りて別れを告げる。次に会うまでは何事も起こらないことを祈っておこう。

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