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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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褒美の真実

 待機中だった御者と馬車を借りて、意気揚々と新居に向かう。待望の個人所有の屋敷、気分も盛り上がるってものだろう。

 今日のところはただの下見のつもりだが楽しみでならない。なんといっても、新居は今は使われなくなったとはいえ、元は王家の別荘だった物件なのだ。控えめに考えても、十分過ぎる屋敷となるはずだ。


 馬車の中では移動中の時間を利用して、金の事をマクスウェルに確認した。

 内務大臣から受取った皮袋に詰め込まれていた支度金は、大銀貨がちょうど百枚。

 この世界の金は紙幣がなく硬貨しかない代わりに、なかなかに風情がある。

 鈍い輝きを放つ微妙に不揃いのコインには、なんだかロマンを感じてしまう。


 平均収入やら物価やら細かいことは良く分からんが、ざっくりいって大銀貨が百枚なら、大体のところ百万円くらいの価値になる、と俺は理解した。

 設備や調度品が整っているのなら、ほとんどを生活費に回せるだろうし、当面は誰かに頼らずとも食いつなげるだろう。


 しかし金貨ではなく銀貨だ。今までの功績からして決して十分な金額とは思わないが、その代わりに別荘には期待しておくとしよう。

 聞いている話が本当なら調度品の一つも売っ払えば、金はすぐに作れるだろうし。


 国家予算や王家の資産がどれほどなのか知らないが、ひょっとしたら割りと余裕がない国なのか? いや、王宮の暮らしぶりを考えればそれはないな。単にケチ臭いのだろう。


 今回はひとまずの支度金は貰ったが、国から小遣いみたいな金を貰ってずっと生きるのもなんか違う。やっぱり今後のことも考えなければ。

 ヒモ生活は悪くないかも知れないが、相手が女ではなく国家ではいずれ使い潰されそうだ。


 余計な事を考えるとテンションが下がるから、今は考えるのをやめる。せっかくの褒美、せっかくの自分の屋敷の下見なのだから。

 短い時間の馬車の移動で、体調がなんともないことに満足感を覚えながら目的地に到着した。



 それは山というよりは平原にポツンとある丘だ。

 随分と標高は低いし、なだらかな山道も登りやすそうだ。山道以外は背の高い木々が密生しているし、もしかしたら動物が住み着いているかもしれない。

 山道の手前には大きな古びた門があって、そこから内部に侵入できる。

 内側には馬車を止めるスペースや、御者や配下の者が休むためと思われる小屋というには些か大きな家まである。


 ――ただし、だ。


 門は最初から開かれていたというよりは、ずっと開きっ放しだったようだし、家はどう見ても廃屋にしか見えない。そう、廃屋だ。

 馬小屋は壊れていて用を成さなくなっているし、あたり一面は雑草が生え放題。どれだけ長い間放置されればこうなるのか。


 どうにも嫌な予感しかしない。御者にマクスウェル、俺も含めて全員が無言になってしまった。


「……とりあえず、行くか」


 ここでこうしていても始まらない。気を取り直して引き続き無言のまま山道を登り始めた。

 御者は馬の面倒を見るために残るが、マクスウェルは俺に続く。同じく無言のままだ。

 低い山のなだらかで幅の広い階段は、手入れがされている様子はまるでなかったが、それでも十分に登りやすかった。


 程なく山頂が近づく。それは同時に、屋敷の姿が見えるということでもある。

 一歩一歩進むにつれ、嫌な予感は確信に変わり、現実に変わる。


 目の前に姿を現した元王家の別荘は。

 ただの幽霊屋敷とも呼ぶべき廃屋だった。



 雑草まみれの山頂で、廃屋を前に佇む。

 石造りの立派な建物ではあるが、敷地の門や屋敷の扉は無残に壊れ、見える範囲の全ての窓も破れ、外から見ただけでも中は荒れ放題なのが分かる。


「…………大門殿、これは、その」

「なにも言うな、マクスウェル」

「いえ、これはあまりに酷いです。私からも抗議します。最低でも手入れを終えてから引き渡すべきでしょう」


 なにかの間違いであって欲しいが、これが現実だ。世界は変わっても、やっぱり世の中こんなもんだ。

 さて、俺自身から提案した契約書は、もちろんこんな事態を想定していない。だが、契約内容にはこう記されている。



 『譲渡後に発生する費用のすべてを負担する。』



 これはもちろん俺が負担するということだ。

 さすがにこっちから言い出しておいて、すぐさま反故にはできない。ということは、王家や他者に負担させることもできないということだ。


 完全に墓穴を掘った。フェアにやろうとした結果がこれでは報われない。

 せめて現物を確かめてからにすべきだったが後の祭りだ。まさか王からの褒美が廃屋とは想定外に過ぎる。


 廃屋っぷりを見る限り建物の中だって、もう期待はできないし無駄だろうが、それでも己の目で確かめてみよう。

 補修というよりは大幅な改修が必要だろうが、ここが俺のヤサになったことは変えられない。それに、ここを放棄して他の場所を求めるのも癪に障る。

 こうなったら意地だ。徹底的に綺麗にして、俺はここに住んでやる。


 建物自体はしっかりした造りだろう。荒れてはいても掃除をして家具を入換えれば住む分には大丈夫そうだ。

 住むために優先して修理すべきは玄関扉と窓か。あとはインフラ。そっちのほうが大事だな。


「とにかく俺は中を調べる。お前は建物の周囲に何があるか探ってくれ」

「え、ええ、分かりました」


 王家の別荘ともなれば母屋のほかにも、なにか施設があるかもしれない。一緒に探索するよりも、今は独りになりたい気分ということもあった。

 雑草を踏みしめ、破壊された門を乗り越え、壊れた玄関扉から屋敷の中に入る。

 最悪、せめて何か売れるものでも残っていればいいが……。

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