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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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今の気持ち【Others Side】

 一旦は王都に戻った若き勇者たちでしたが、彼らは再び合宿に出かけていました。

 今回はよりハードに、魔物の棲む山に入っての実戦訓練が行われているのです。


 公平なくじ引きでいくつかのチームに分かれた勇者たちでしたが、その進捗はチームによって様々です。組み合わせのくじ運もありますが……。


 最も積極的に山の奥地に進もうとしているのは、勇者として順調に実力を伸ばしている者が集まったチームでした。

 彼らは数奇な運命と現在の状況を受け入れた上で、積極的に貢献しようとしているポジティブな者で構成されていたのです。もちろんチームワークもいいです。


「そっち! ゴブリンの亜種が向かっていましてよ!」


 細身の剣で目の前のゴブリンを突き刺しながら、他に向かって警告を飛ばす女帝の勇者。


「こちらは引き受けた! 背後は頼むぞ!」


 オーソドックスな長剣で袈裟切りにゴブリンを葬る教皇の勇者は、女帝の勇者に応えつつ、力の勇者に向かっても声を掛けます。


「任せて! ヒカルは中央で警戒して!」


 力の勇者は三方の一角を受け持って、ゴブリンをタックルや投げ技で仕留めていきます。


「みんながんばれー! よーっし、あたしもやっちゃうよー!」


 女帝、教皇、力、三人の勇者に囲まれるようにして中央に陣取った太陽の勇者は、明るい声を出しながら周囲を鼓舞しています。

 続けて味方を強化する魔法が発動されると、三人の動きはさらに鋭く力強いものとなりました。

 彼らは隙のない連携でゴブリンの群れを一掃していきます。



 前向きで性格も悪くないメンバーが組むと、自然と会話も弾みます。

 戦闘後の反省やアドバイスを互いに送りあったり、他愛もない日々の出来事を話したり。

 四人中、男は教皇の勇者のみですから、彼だけは少しだけ居心地が悪そうではあったのですが。


「いやー、あたしたちもう最強じゃないかなー! ね、ヒメちゃん」


 水を向けられた女帝の勇者は不本意なあだ名に若干不満そうでしたが、特に何も言わずに会話を続けました。


「そうね。あなたのサポートは優秀だし、中原さんと長谷川くんも肩を並べて戦うのに不満はないわ」

「やだなー、ヒメちゃん。仲間なんだからもっと仲良くしなきゃ! ほら、名前で呼んで?」


 太陽の勇者である明るい少女はからかうように言いますが、嫌味には感じさせない軽妙さで距離を詰めます。


「こらっ、ヒカル! 藤原さんが困ってるでしょ」

「もう、トモエちゃんも硬いこと言いっこなしだよ~」


 力の勇者が嗜めますが、太陽の勇者には効果がありません。それでも彼女たちの雰囲気が悪くなることはなく、むしろ明るくなったのは太陽の勇者が持つ独特な空気感のお陰でしょう。

 元はといえば、力の勇者も人と仲良くするタイプではなかったのですが、気がつけば太陽の勇者のペースに巻き込まれて一緒にいる時間が増えているのです。彼女は今回、太陽の勇者と一緒の班になったことを実は内心嬉しく思ってもいたのでした。



 探索を続けながらの雑談は続きます。

 今度は黒一点である教皇の勇者が口を開きました。


「ちょっと聞いていいか? 実は合宿にくる前から、妙な連中が接触してきたり手紙が届いたりするんだが、君たちにもそういうのはあったか?」


 顔を見合わせる女子一同。


「そんなのありまくりだよ? 勇者でありながら、こーんなに可愛いあたしたちがお誘いを受けるなんて当たり前だよね? マサヒロくん、大丈夫?」

「ヒカルの言うとおりだよ。女子全員から聞いたわけじゃないけど、多分みんな同じ」

「わたくしのところにも、何度も手紙や秘密裏に使者がきていましたわね」


 何を今更といった感じです。


「……そうだったのか。それで、どうするんだ?」


 また顔を見合わせる女子たちは、決まりきったことを聞くなとばかりに適当に返します。


「バカだなぁ。もしそうなら、合宿になんてこずにさっさとどっか行ってるよ」

「まだみんなと別れてまで旅立つほど、不満に思うことはないからね。冒険をするなら、もう少し時間が経ってからでもいいよ」

「先のことまでは分かりませんが、今のところはバルディア王国から離れるつもりはありませんわ。拙速に動くべきではありませんわね」


 返事を聞いて安心する教皇の勇者。彼は勧誘に乗った勇者が少しずつ去っていってしまうのではないかと危惧していたのです。

 特に戦力として優秀であり、気のいい彼女たちがいなくなることでもあれば、自分も考えねばと深刻になりかけていたところでした。


 これといった不満もなく、順調な勇者に甘言は通用しにくいでしょう。

 チームの連携を深めつつ、さらなる探索と戦闘に余念のない優秀なチームでした。

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