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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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力と理解の向上

 第二種指定災害グシオンとの二度目の戦いからしばらくは何事もない平和な日が続いた。

 騎士団の副団長や若い勇者たちは、訓練の一環として遠征に出ているらしく全然戻ってこない。彼らの基本的な動きなどを確認したかったが、戻るまでは他のことに集中だ。


 その間に行った騎士団との訓練で、俺の特殊能力である『拳闘無比』はその秘めた力の片鱗を現し始めている。


 それは無自覚と自覚した状態では何もかもが違うということだ。

 意識の違いだけで顕著になる速度と力。さらに色々と拳闘らしい法則があることも分かってきた。


 戦闘時に意識すると、まるでスイッチが入ったかのように全てが変わる。

 能力を使った場合、前にグシオンと戦った時以上の加速する世界の中に俺はいた。


 きちんと意識して拳闘士らしい動きをすると、能力が段違いに上昇する。

 走るような動きの場合には、それなりの速度だが、ステップを踏むような動きや近距離を詰めるような動きをする時には、段違いの速度を叩き出す。


 パンチ力も同様だ。前にグシオンを殴りつけた、あの時の感触とは何もかもが違う。今ならあの化物からダウンを取れる自信さえある。ひょっとしたらノックアウトすることさえ可能かもしれない。


 ただし、能力名からはみ出す、肘打ちや蹴りのような攻撃には恩恵がない。

 試しにナイフを持って切りつけてみたが、期待する効果が得られるどころか、明らかに速度や威力は下がった。明確に条件があるらしい。

 俺の場合には何か武器を持つよりも、純粋に拳を武器にしたほうが遥に強い。


 制限はあっても、速度も力も見切りも何もかもが理想を超越している。はっきり言って拳だけで十分だ。新たな武器を学ぶ必要性は感じられない。

 そんな事をしている暇があるなら、この能力をもっと伸ばして使いこなせるようになったほうがいいだろう。


 凄まじい能力を自覚する一方、弱点じみたものも発見した。

 それは時間だ。体感でしか測れていないが、おそらく最高の能力を連続で発揮し続けられる時間は三分だ。それが過ぎると一分のインターバルが必要になる。


 インターバル中は意識した状態での拳闘無比の恩恵がなくなる。そうはいっても勇者としての基礎能力が高いことと、特に意識しないパッシブな状態でも拳闘無比の効力はある程度発揮されるらしく、戦闘時には加速された世界の中に常にいるから特に問題には感じない。しかし留意しておくことは必要だろう。

 インターバル後はまた三分の有効時間が復活して、以降はずっと繰り返しだ。体力が続く限り、何ラウンドでも戦える。



 昼間はずっと体を動かす訓練に没頭していたが、夜は別のことを試した。

 とりあえず試してみたのは『呪詛』だ。

 俺の持つ唯一の魔法っぽい能力だし、試したくもなる。不吉な名称な能力だからこそ、早くその力を把握したい気持ちもある。


 なにをどうすればいいのか、取っ掛かりすら分からなかったが、何事も試してみなければ始まらない。

 物は試しと、適当に城の中でよく見掛ける嫌味なおっさんに、呪いを掛ける感じで祈ってみた。なに、殺そうとするほどの気持ちはない。大丈夫だろう。


 ところが、どれだけ祈ろうが呪おうが、おっさんはピンピンしたままで、効力を発揮したようには思われない。

 まあ、何かが違うのだろう。気長にやるさ。



 他の特殊能力についても何の進展もないが、数日程度の成果としてはこんなもんだ。

 拳闘無比の能力が分かってきただけでも上等だろう。


 日々を過ごす中、二度目のグシオンとの戦闘後は特に褒美の話などはなく、感謝はされつつも、さも当然のように思っている節があるのが、どうにも俺は気に入らない。

 上手くグシオンの対処ができたから良かったものの、しくじっていれば大惨事だったはずだ。そのあたりの認識が甘いのか、なにか他に切り札でもあるのか。微妙な不信感が拭えない。


 考えれば考えるほど、不満は募る。だが不満を吐き出して妙な誤解を受けるのも厄介だ。自慢じゃないが、誤解を受けるのには慣れている。

 今のところは居場所を失って困るのは俺だしな。湧き上がる気持ちを飲み込んで、訓練や考え事に没頭した。

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