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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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反則級の用心棒

 ポケットに突っ込んでいた覆面を被ると、裏道を通ってアンドリューの店に移動した。

 店の裏側に到着すると、裏口の扉ではなくその横の壁が破壊されていた。おそらくバリケードが築かれた扉を突破するのではなく、大きなハンマーなどを使って壁を破壊したほうが早いということなのだろう。理由は想像でしかないが、とにかく荒っぽい連中だ。


 逐電亡匿のレーダーによれば、この強引に作った出入口の脇には敵が隠れている。

 駆けつけたコロンバス会の人間を不意打ちで仕留めようというのだろうが、俺には通用しない。

 気配を絶ちながら突入すると、隠れていた二人組をまともに認識すらさせずに昏倒させた。


 勇者の力は魔物や魔神にこそ発揮させるべき力なのだと思うが、俺の場合には対人戦こそが最も力を発揮しやすい。

 拳闘無比の特殊能力は素手を用いるだけあって、人間相手が与しやすいというのもあるし、なにより手加減が利きやすい。

 どこをどの程度の力で殴れば、どういったダメージを与えられるかすら、今の俺なら完全にコントロールできる。実力の乖離が大きいからミスをする心配もない。



 一応ではなく、俺は完全に表社会の人間だと思っている。

 暗黒街の連中と多少の繋がりはあっても、その一員になった覚えも、これからなるつもりもない。他人からどう思われようと、俺自身はそのつもりでいる。


 利益と友情によって用心棒をやることはこれからもあるだろう。

 だが、用心棒であっても決して殺し屋ではない。手を汚す気はないのだ。

 個人的に友誼を結んだ連中以外がどうなろうが知ったことではない。ぶちのめしたあとで敵が死のうが助かろうが、どうでもいい。だが、俺自身が手を下すことはしない。


 正義や法律、綺麗事という他人が創ったものではない──マイルールだ。

 なるべく出来る限りの範囲でだが、マイルールを守って生きて行く。他人からどう見えようが、俺自身が納得のできる生き方をするのだ。世間の価値観ではなく、マイルールのなかで。

 この世界では、俺には色々な意味での『実力』がある。気に入らない文句を黙らせるだけの実力、そしてマイルールを押し通せる実力がな。


 だから俺は俺のやりたいようにやる。

 なにせ、世界の脅威である魔神と最前線で戦う身だ。

 その程度の我儘が許されないはずはないだろう。


 もちろん、この場でもマイルールに照らして動く。

 それからすれば、俺にとって殺人はルール違反だ。ルールを破る時があるとするなら、それは余程特別な場合に限られるだろう。柔軟さを認める身としては、もちろん例外も考慮しているがな。


 まあなんにせよ、勇者の力はあまりにも大きく恐ろしい。ある程度の線引きをしておかなければ、きっといつの間にか稀代の殺人鬼になってしまう。簡単に殺せるがゆえに、簡単に殺してはならない。結局はそういうことだ。



 無音で見張りを倒すと、隠密状態を維持しながら先に進む。

 レーダーによれば、一階にはたくさんの男がいる。ステージのような場所に十数人で固まっているのが敵だろう。ほかにも倒れているのが五人ばかりいるが、これはアンドリューの手下だろうな。


 あとは二階。オリビアがいるという話だったから、そちらを優先だ。

 隠密と超速を駆使して一気に二階に駆けあがると、その勢いをもって階段の上に陣取っていた敵を叩き伏せる。続けて奥に目をやると、目に入った姿にカッとなった。


「この野郎っ」


 女にのしかかるクソ野郎がいた。

 瞬時にダッシュで詰め寄ると、横っ面をぶっ飛ばした。手加減が難しかったが、辛うじてできている。


「オリビア、大丈夫……でもなさそうだな」

「誰!?」


 美人におっかないツラで睨まれてしまった。ああ、そうか。覆面姿では分からないだろう。

 一時的に覆面を外して顔を見せてやると、安堵したように溜息をついた。


「……大門さん、助けてくれてありがとう。大丈夫ですよ」


 内心は分からないが、取り乱すでもなく乱れた服を整えている。

 目に見える怪我は無さそうだが、助けが間に合ったとは言い難い状況だった。さすがは大人の、それも百戦錬磨の女といったところか。


「お前がそう言うなら、俺も気にしねぇよ。野良犬に噛まれたようなもんだな」

「いえ、人にそう言われたくはないのですが……」


 複雑そうな顔だったが、無事ならそれでいい。

 二階にはほかに人はいないようだが、さすがに一階の連中には異変を悟られたようで騒がしい。


「ここにはお前だけか? ほかの女はどうした?」


 まさかどこかに連れ去られたなどということでもあれば一大事だ。


「ロージーにまとめさせて避難していますから、そちらは大丈夫と思います。それより」

「ここをさっさと片付けねぇとな。下で倒れてる奴らはアンドリューの手下だろ? まだ息はありそうだったから大丈夫だ。助けてきてやる」


 人質にするつもりか、情報を吐かせるつもりだったのだろう。

 かなり酷い目にあわされていたようだが、魔法がある世界なら大怪我でもなんとかなる。


「その間にお前は化粧でも直してこい。アンドリューの奴が心配するだろうからな」


 表面上、オリビアに問題はない。倒した二人の敵もしばらくは動けないはずだ。

 二階の安全を確保できたことから、上がってこられる前に片付けてやる。


 どやどやとしながら一階のステージ上から移動を始めた連中には、二階から飛び降りて襲撃を仕掛けた。

 もはや不意打ちの必要もなく、覆面を被ったまま正面から全員を殴り倒した。人間相手に勇者の力は反則だな。



 半殺し程度に抑えて敵を片付けると、覆面を脱ぎながら倒れたアンドリューの手下に近づく。

 五人とも健在で意識もあるらしい。ボコボコにされて酷く顔を腫らしているし、全身どこもかしこも痛そうにしているが、それでも半殺しよりはマシな状態かもしれない。


「おう、お前らも悪運が強いな。立てるか?」

「だ、大門さん……すんません」

「あのクソ野郎ども、ただじゃおかねぇ」


 口々に感謝やら謝罪やら恨み言やら、あるいはオリビアのことを気にしながら立とうとするが、力が入らないのかまだ動けないようだ。


「あんまり悠長にしてる暇はねぇだろうが、少し休んでろ」


 五人もの動けない男たちをどうにかできる方法はない。自力で回復してもらわなければ。

 その間にオリビアの様子を見に二階に行くとしよう。

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