手下からの報せ
思っていたよりも深刻な状況に置かれているコロンバス会だった。
動かせる手駒は少なく、頼みの本家ときたらそっちはそっちで大変であてにはできない。
どうしても守らなければならない拠点は二つあるが、どちらも完全に守りきるだけの自信はない。
なかなか厳しい。
とりあえずは、いつ攻めてこられるか分かったものではないので、俺もこの事務所に寝泊まりすることに。
むさい男どもと雑魚寝になってしまうので、かなり嫌だが非常時ゆえに仕方がない。アーテルと一緒だった夜を想えば、落差の激しさにげんなりする。
すでに食料や生活必需品など物資の調達はできていて、今は若い連中が本格的な防御を固めるている最中だ。
窓に板を打ち付けたり、玄関前にバリケードを作ったりといった感じで騒がしい。出入りする際は二階からということで、よじ登る姿はさぞ滑稽に見えるだろう。
俺自身の準備は特にないが、アンドリューから覆面だけ借りておいた。悪党面は嫌でも目立つし、顔が売れるのは勘弁願いたいことから、これは必須だ。
アンドリューとスピアーズが今後を想定しながら苦しんでいる様子を横目に眺めながら、用心棒にすぎない俺は何も言わずに黙っていた。
明るい雰囲気になる要素もなく、淀んだ時間が流れる。
晩メシ時になると、若手が作った及第点の焼き飯を全員でもそもそと食べる。急激にキョウカのメシと屋敷での食卓が恋しくなった。
「……酒飲んで酔っ払うわけにもいかねぇし、やることねぇな。そろそろ寝るか?」
「寝ようにも、さすがにまだ眠れないですよ」
「暇っすね。まあ、かといって暇つぶしに遊んでられる心境でもないっすけど」
「数日の辛抱だ。お前ら、気ぃ抜くんじゃねぇぞ」
スピアーズが下っ端どもに注意をするが、緊迫した状況のまだ初日だ。いつまで続くのか分からないが、精神的にきつくなるのはまだまだこれからだろう。
内容のない雑談が響く室内で、ふと話題が途切れた時だ。
激しく扉を叩く音が聞こえる。
玄関をバリケードで閉じていることから、誰かが訪問してくる予定はないはずだ。
この場にいる全員に緊張が走る。
「誰だっ!?」
誰何の呼び掛けに応える声はあるが、内容がよく聞き取れない。
「誰か二階から見てこい、油断するなよ!」
気になったのかスピアーズが率先して駆け出すと、若手も続いた。
少しすると外に出たらしいスピアーズが呼び掛けてきた。
「アンドリューさんっ、マイケルの野郎です! 酷くやられちまってます!」
「マイケルだとっ!? 店はどうした!」
会話の流れからして、アンドリューの店を任せていた組員の一人なのだろう。そいつが怪我を負った状態で事務所までやってきたのだ。なにがあったかは察せられる。
二階に向かったアンドリューを俺も追いかけた。
結局、全員が外に出ると、血塗れで横たわる男を囲む。
「おい、マイケル! すぐに医者に診せてやる、しっかりしろ!」
「……あ、兄貴、店が……姐さんが」
「姐さん? おい、オリビアさんがいんのか!?」
「クソがっ! 逃げるように言っておいたはずだぞ!?」
オリビアはアンドリューの女だ。逃げるように言っておいたはずの女がまだ店にいて、よりによってそこが襲撃を受けているという状況だろう。
気がかりなのはオリビアがいたということは、ほかの女たちもいるのかもしれない。一時は楽しい仲になったロージーがいる可能性だってある。
アンドリューは冷静な奴だ。すぐにでも女を助けに行きたい気持ちがありありと出ているが、プランを変えるつもりはないらしい。苦渋の色を浮かべながら俺を見た。もちろん分かっているとも。
「店のほうは任せろ。お前らはここを動くなよ、罠かもしれねぇ」
「くっ、頼んだぞ。大門さん」
むさい野郎がガシッと俺の肩を掴んだ。暑苦しいが気持ちは分かる。
「任せろ。腐れ外道どもをぶちのめしてきやる」
女がいるから狙ったのか、偶然そうなったのかは分からない。
だが、女に危害の一つでも加えていたなら、五体満足で帰らせはしない。
俺はアホでバカでどうしようもないクソ野郎かもしれないが、美人にだけは優しいのだ。
美人を傷つけようとする奴は、誰が何と言おうと俺の敵だ。




