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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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法外な要求と男の決断

「お待たせしました、こちらをどうぞ」


 恭しく差し出されたのは黒のファイルだ。手渡された状態だと左に開く形か。

 表紙には特に何も書いていない。大きさは縦A4サイズほどになるだろうか。

 試しに最初のページを開くと、表紙の裏と一ページ目には、何も書かれていない。


 次のページに行くと、左側にはバストアップの女の姿絵があった。完全に写実的で、まるで写真のようにリアルだ。

 右側のページには裸の全身像が描かれていて、これも写真のようにしか見えない。


「おおっ、これはすげぇな」


 煽情的なポーズではなく棒立ちだが、これなら実物を直接見なくても外見は問題なく分かる。

 さらに次のページには後ろ姿と横顔の絵まであって隙がない。多少は美化されているのかもしれないが、好みから外されるということはないだろう。


 その右側のページには絵ではなく簡単なプロフィールが書かれているらしい。

 こういった情報込みでの料金だからなのか、意外と詳細だ。名前や出生日、家の爵位や本人の続柄、趣味や特技、身長と体重、スリーサイズなどの詳細な数値も。

 在籍している理由までは書いていないようだが、NGプレイの内容は明記されている。それとチップを除いた基本料の設定もだ。


 凄いファイルだ。これを見ているだけで、己の中の欲望が溢れ出して止まらなくなりそうになる。

 分厚いファイルのまだ最初の数ページを見ただけでも、もう興奮がヤバイ感じになってしまった。これはダメだ。


 ああ、それに俺が求めているの最高級だ。じっくりと全てを見て選ぶ必要はない。


「なぁ、手っ取り早く聞きたいんだが、身分が絡むこのファイルだと、単に料金設定が一番高い女が、一番いい女ってわけじゃねぇよな? まぁ『一番いい女』って定義が難しいところなんだが」

「おっしゃっていることは理解できます。大門様は身分を抜きにして、もっとも女性として魅力のある方をお求めなのですね?」

「まさに、そういうことだよ。なに、金に糸目は付けねぇ。あんたが薦める最高にいい女を紹介してくれねぇか?」


 重い革袋をもう一度持ち上げて、どすんと落とす。下品な仕草だが、分かり易くていいだろう。これを全部使っても構わないという意味だ。


 よく聞かれる質問なのか、驚くでもなく紳士は答える。


「……わたくしの知り得る限りにおいてですが、プラチナ・エデンには大陸一番と申しましても過言ではない女性がいらっしゃいます。少なくとも容姿においては、となってしまいますが」

「大きくでやがったな。王国一どころか、大陸一ときたか。だが、あんたのようなベテランが太鼓判を押すんだ、疑う理由はねぇな。どこに載ってる?」


 ファイルをペラペラとめくる。そこまで言うほどの美人なら、姿絵からでも特別なものを感じるかもしれない。


「いえ、ファイルには載せておりません。その方は特別扱いとなっておりまして」

「なんだって? それじゃ事前に姿を知ることはできねぇのか? 名前やその他のプロフィールはどうなんだ?」

「明かすことはできません。その上で望まれるのであれば、とお考えになる女性ですので」

「随分と秘密主義なんだな……だが、面白そうだ」


 ミステリアス!

 相手の正体は一切不明だ。顔もスタイルも分からないが、目の前の紳士は大陸一だと豪語する。俺の理想を超越できるとしたら、そいつしかいないのではないか。


「決めたぜ。その女を頼む。拒否権を使われねぇよう、あんたからも口添えしてくれねぇか? チップならそこの余りを全部やってもいい。俺が求めるのは最高だけだ。ケチったりなんざ一切しねぇ」


 ここに全てを賭ける。

 新たな女神、そして希望との出会い。これこそは、きっと運命!


「残念ですが、大門様。足りません」

「……は? なんだって?」


 おかしいな。興奮していたせいか、良く聞こえなかった。


「残念ですが、大門様。足りません。料金が不足しています」


 聞き間違いではなかったらしい。はっきりと、もう一度言いやがった!


「いや、小金貨で四百枚だぞ? 足りねぇってのか?」

「はい。小金貨ですと五千枚必要です。これに加えて心づけですが、プラチナ・エデンでは基本料の一割を想定しておりますので、五千五百枚はご用意いただきたいと。大金貨のほうがお持ちいただくには便利でしょうか」


 頭おかしいな、こいつ。女を買うのに一晩で五億だと? チップ含めて五億五千万だと?

 アホかと怒鳴りつけたい衝動が湧き上がる一方、猛烈に興味を引かれてしまう自分もいる。


 ここは引き下がるのが普通の選択だろう。だが、それでいいのか?

 求める最高の女に出会えるかもしれないというのに。ここで引き下がってしまって本当にいいのか?


 しかし五億以上だ。そこそこ金を持っている俺にとっても、べらぼうに高い。いくらなんでも法外だ。

 だがどうしてだ。俺の心は決定的に傾きつつある。

 挑むハードルが高ければ高いほど、燃え上がる。なんという、挑みがいのある挑戦なのかと。


 そう、これは試練。神が与えたもうた試練に違いない。

 この試練に打ち勝ち、至高の女を手に入れてみせよ、という壮大なる神よりの試練、挑戦。


 幸いなことに俺には金がある。五億六億ならなんとかできる。試練に挑むことのできる資格を有しているのだ!

 だったら、挑むしか道はない。そうしなければ、腰抜けの負け犬としての生涯を歩むことになるだろう。

 ああっ、ここが人生の分かれ目だ!


 決して、決して、逃げるわけにはいかない。やるしか、ないのだ。

 男には引けない時がある。引いてはならない時がある。

 それは、今、この時だ!


「……上等だぜ、すぐに金をとってくる。待ってろよ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 現世で身持ちを崩したのはこういうところが原因なのかな?
[一言] >それは、今、この時だ! おお、漢と書いておとこではないが、雄と書いて「をとこ」よのう。
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