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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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悠々とした看過【Others Side】

 バルディア王国の現国王、オスロエス・ディ・バルディアには、目の中に入れても痛くないほど可愛がっている娘がいました。

 それは実の娘ではなく、弟の娘、つまりは姪っ子のことでした。


 自身の子を大切に思う気持ちはありましたが、姪は特別です。それというのも、王が幼いころに懐いていた祖母とよく似ていたからです。祖母が若い時分の絵姿とそっくりに育った姪は、美しい容貌だけではなく、特に髪の色、そして瞳の色がまったく祖母と同じだったのです。


 姪はすでに成長し、成人を過ぎていますが、それでも王にとってはいつまでも可愛い娘同然でした。王族の中の王族と称えられる現国王にとって、唯一の弱点と呼べる存在と考えてもよいでしょう。


 特別扱いのひとつの証拠として、姪は王族としての結婚適齢期を過ぎているのですが、異例の独身です。これも王が相応しい者がいないと婚姻相手を厳選、国内有力者の子息はもちろん、他国の王子との縁談であっても積極的に介入し、破談にし続けているからです。


 そんな王は自室での執務の合間に、傍仕えにふと思いついたように聞きました。


「エリザヴェータはどうしている? 今日は珍しく時間がある。王宮にいるのであれば、すぐに呼んで参れ。顔が見たい」


 厳格な王は、妃である王妃や実子である王子、王女に対しても、このような呼び出しをすることはありません。いかに姪のエリザヴェータが特別であるかの表れでした。


「……陛下、エリザヴェータ様は慰問として近隣の町や村へお出かけになっています。しばらく王宮には戻られないかと」

「ほう、慰問か。さすがは余の姪であるな。感心なことだ」


 誇らしそうにしながらも、どこか寂しそうな王でした。



 働き者の王が執務の手を止めて休むと、傍仕えは下がりました。

 部屋を出ると、今度は王妃の執務室を訪れます。


「陛下のご様子はどうでした?」


 傍仕えが入室するなり問い掛けます。


「エリザヴェータ様のご様子をお気にされておられました」

「そうですか。久しく王宮には顔を出していませんからね。私からも伝えておきましょう。それと……分かっていますね?」

「は、はい。もちろんでございます」

「結構です。では下がりなさい」


 優秀な人間を輩出し続ける家系として有名なバルディア王国ですが、優秀なことと問題を抱えていることは両立できます。

 何事にも、厄介の種は付き物ということになるのでしょう。




 王宮からほど近い、とある貴族の邸宅において、ダンスパーティーが開かれていました。

 珍しくもなんともない、毎日どこかで行われているパーティーのひとつに過ぎません。


 そして社交の場は『集まる』という名目において極めて自然です。派閥内の気安いパーティーは怪しまれることもなく、腹のうちを明かして結束を深める意味でも重宝されてしました。


「そちらは勇者殿の囲い込みに成功した聞いているのですが、真相はいかがなのです?」

「噂は承知しているのですが、実際にはそこまで上手く行っていません。娘も頑張ってはいるのですがね。勇者殿がどうにもはっきりしない性格のようでして」

「当家も似たようなものだ。初めのうちは良い仲になったと喜んでいたのだが、一定のところから進展しないようでな」


 恋多き勇者は噂になっているようです。注目を浴びる勇者は、嘘も真も入り混じって様々な噂の対象になりやすいのは事実です。


「他派閥では取り込みに成功したとの噂も出ていますが、実際にはどうなのでしょうな?」

「婚約などの明白な結果が出るまでは何とも言えんな。それより、王家について少し面白い話を耳にしたのだが」

「王家ですと? あの隙のない王家で? こう言っては何ですが、所詮はただの噂では?」

「まあ良いではないですか。酒の肴に王家の噂話も悪くはないでしょう」

「期待は薄いが、王家の弱みを握ることができたなら、我らにもチャンスとなりますからな」

「まったくだ。王家の安泰は歓迎すべきことかもしれないが、貴族社会は長い歴史のなかで腐り果てておるわ!」

「我々を含めて、ですかな?」

「がっはっはっ、これは一本とられましたな!」


 盤石な国家と王家は望むべきものですが、出世を望む貴族にとっては停滞も倦むべきものです。


「万が一にでも王家に傷ができれば、貴族社会にも大きな動きが出るかもしれません。いや、我々こそがその動きを作り大きくしなければ!」

「その意気だ! 貴公はまだ若いがリーダーの素質があるのではないか?」

「王家の噂も良いですが、勇者殿の噂も事欠きませんな。どれ、夜は長い。他派閥の噂も交えて、『もしも』の場合に備えた妄想を語り合いましょうか。単なる妄想ですがね?」


 仲間たちと酒を酌み交わし、妄想を語り合うだけでも楽しいものです。

 ただし、派閥内での勢力争いもあり、誰しもが簡単に腹のうちを見せることはありません。万が一の場合の保険を掛けることも忘れていないでしょう。


 個人の思惑、派閥としての思惑、魔神が出現し世界が大変な時にでも忙しいようです。

 しかし大変な時だからこそ、なのかもしれません。

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