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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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バーでの語らい

 路地をとぼとぼ歩き、盛大な溜息を吐く。


「はぁ~~~~~~……」


 俺も大人だ。裏切られたなどと思いはしない。誰にだって事情はあるし、その時の感情や判断だってある。

 そもそもヴァイオレットは俺の女というわけではなく、ただの風俗嬢と客の関係だ。そこから発展できる余地は十分にあった、と思いたいところだが、今となっては確かめようとする行為さえ無粋だろう。


 負け犬にできることは、黙って女神の幸せを祈ることだけだ。


「はぁ~~~~~~……虚しい……」


 あれほど猛り狂っていた衝動はいったい、どこに行ってしまったのだろうか。

 まさかこれを切っ掛けにEDなんてことには……いやいや、まさか。


「あれ、大門さん?」


 嫌な懸念を払拭するべく、血流を股間に集めようと努力する。

 だが妄想の中に愛しの女神が出てきてしまい、哀しみが押し寄せる。血流は一点集中どころか、完全に静まったままだ。

 これはもしや、ヤバいのでは?


「やっぱり大門さんじゃないですか! 戻ったんなら事務所に顔出してくださいよ」


 あ? なんだ、俺に言ってんのか?


「なんだよ、うるせぇな……って、スピアーズか。おう、久しぶりだな」


 こいつは王都の暗黒街を仕切る三大勢力の一つ、ワッシュバーン組その直系コロンバス会の構成員だ。

 コロンバス会のボスであるアンドリューと俺は友人の間柄で、アンドリューの手下のスピアーズとも、こうして気軽に声を掛けられる程度には仲がいい。


「ど、どうしたんすか? なんか元気ないですね」

「まあ……色々あってな。そうだ、お前、ちょっと付き合えよ。どっかで飲もうぜ」

「そういうことなら。俺の知り合いの店でいいですか? この近くなんで」

「どこでもいい。しばらく王都にいなかったからな。ちょっと話、聞かせてくれ」


 気を紛らわすにはちょうどいい。女の事など忘れて、男同士で友情を深めよう。


 言われたとおりのすぐ近く、目と鼻の先にあった小さなバーのような店に入った。

 カウンターのほかには、壁際にテーブルがいくつか並ぶよくある内装だ。客の入りは悪くなく、ざわざわとしている。


「よぉ、今日は上客を連れてきたぜ」

「スピアーズ! てめぇ、この前のツケ、今日は払ってけよ!」

「色々と口利きしてやってんだから、そのくらい大目に見ろよ。まあいいや。奥、座るぜ」


 スピアーズと店主は随分と仲がいいようだ。

 店の奥のほうまで進むと、一番奥のテーブル席には予約済みの札が置いてあった。スピアーズはそれに構わず席につく。


「ここは俺の専用なんですが、大門さんなら使ってもらってもいいですよ」

「そういうことか。まあ気が向いたら使わせてもらう」


 かなりの融通が利くらしいことから、こいつの友人の店であり、そしてケツ持ちをしている店でもあるのだろう。

 タイミングよく店主がボトルと小さめのグラス、水と氷も持ってきてくれた。ついでに軽いツマミまである。


「そちらさんは初めてですよね? スピアーズの兄貴分ですか?」

「俺はただの知り合いで、そっちの業界とは無関係だよ。かしこまる必要はねぇし、金はちゃんと払うから安心しろ」

「無関係ってことはないでしょうよ。ダンテ、この人は大門さんって言って、アンドリューさんのダチだ。一緒に仕事したこともあるし、頼りになるぜ」


 スピアーズの奴が俺を紹介し、店主のダンテという男のことも軽く紹介してくれた。そこまで仲良くなるつもりはないのだが、これも縁と思っておくか。

 仕事中の店主はすぐに席を離れてカウンターに戻り、さっそくボトルに手を付ける。今日は酔いたい気分だ。


 店に連れてきたのはスピアーズだが、誘った俺が金を出すつもりということで、高そうなボトルから遠慮なくなみなみと酒を注いでしまう。氷少なめのロックだ。

 言葉もなくまずは乾杯、そして一気に飲み干す。


 思った以上にキツイ酒でクラっとするが、問題はない。スピアーズの視線を無視してまた琥珀色の液体をなみなみと注いだ。


「……それで、なにがあったんです?」

「俺のことはいい。それより面白いことはなかったのか?」

「面白いことは特にないですが、ここ最近で色々と変わったことはありますね」


 納得がいっていなさそうではあるが、ヴァイオレットのことを話すのも未練たらたらなようで格好悪い。

 強引に話を変えると最近の暗黒街のことを話してくれた。


 なんでも以前、コロンバス会の隣のシマで多数のモズライト組構成員が殺された事件もあって、その組が大きく揺らいだらしい。そこに付け入ろうとする別の勢力と、三大勢力による支配を保ちたい側とで抗争が起こり、今もなお継続中なのだとか。

 スピアーズはそうした状況下で単にぶらついていたというわけではなく、ちょうど仕事の帰りだったところらしい。。


「そういや、どっかの事務所の連中が皆殺しにされた事件もあったな。その辺のことが発端になってんだな」

「結局はそれをやらかした奴も不明なままで、モズライト組はずっと揺れてたんですよ。そこに付け入ろうっていくつもの組織が、ウチのワッシュバーン組やもう一つの大勢力のグレッチバッカー組まで揺さぶろうって、あちこちで余計なチンコロやらカチコミなんかも掛けられまくってまして……」

「ずいぶんと荒れてんな。そこまで行くと衛兵も黙ってねぇだろ」

「今のところは裏金でなんとか黙らせてるみたいなんですが、さすがに騎士団に出張ってこられると、もうお手上げになっちまいますよ」


 こいつらはこいつらで大変なようだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] チャンスはいくらでもあった。 モノにしなかったのは自分。 まぁしゃあないしゃあない。 人生そういうこともあるやろ。 大門さん強く生きて()
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