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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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不吉な追加報酬とむさ苦しい旅

 いよいよバルディア王国に向けて出立する早朝。

 国境までは馬車で四日ほどの道程だが、もう馬車は勘弁してくれと頼みこみ、乗馬で戻れることになった。

 送ってくれる一行も美女軍団ではなく、むさいおっさんたちで固めてもらった。


「私がお送りしましたのに……」


 名残惜しんでくれているのはニコーレ大司教だが、以前と同じ轍を踏むわけにはいかない。

 さり気なく近寄って、ニコーレにだけ聞こえるよう囁く。


「乗馬で早く移動しても国境までには泊りがあるだろ? これで会えなくなると思ったら、我慢できずに襲っちまうよ。最後にとんでもないことをやらかすわけにもいかねぇからな」

「……はぁ、そういう方ですよね、大門様は」


 しんみりした別れなど不要だ。

 そして巫女にも挨拶を送る。朝日を受けた巫女は透明感のある美しさに輝かんばかりだ。意外と年は食っているはずだが、ライティングの効果で結構若く見える。


「じゃあな、カテリーナ様。またなんかあったら呼んでくれ」

「では、その時には遠慮なく。それから、最後に一つ」


 巫女は声を潜めて言う。


「まだ先のことになると思いますが、バルディア王国で大きな動きがあります。トオル様も十分に気を付けてください。もしもの時には、神殿はトオル様をいつでも歓迎します」

「……どういう意味だ?」

「未来予測、予知、といいますと大袈裟ですが、なんとなく分かってしまうのです。酷く曖昧にしか分からないので、普段は口にしないのですが、ほかならぬトオル様のことですから。私からのちょっとした追加報酬とでも思っていただければ」


 具体的には分からんが、とにかく王国には気を付けろってことか? いまのところは割と良好な関係のはずなんだがな……

 王国と教国は敵対関係にある。強大な力を持った俺と王国の間に亀裂を入れる工作かとも思うが、巫女ならもっと俺を上手く乗せる別の手を使う気もする。


「一応は覚えておく。なるべくなら面倒事は避けて通りたいが、いざとなればどうとでもするさ」


 単なる忠告としても、具体的なことが分からなければどうにもしようがない。結局はそのいざという時に、どうするかでしかないな。それでも大神殿の巫女という伝手を作れたのは大きい。もしもの時には俺からも利用させてもらうとしよう。


 不吉な予言は気にしないことにして、最後にハグの一つも交わしたいところだが、人前で馴れ馴れしい態度もよくないだろう。普通に言葉だけを交わして愛馬にまたがった。


 別れの言葉は昨日も済ませている。最後の最後は手だけ軽く振って出発した。



 帰り道は巫女派の聖堂騎士に囲まれながらとなった。

 聖堂騎士には女もいるらしいが、希望のとおりにおっさんばかりの一行だ。それも誰もが四十代か五十代くらいのおっさんばかりで、青年と呼べるような男すらいない完全におっさんオンリーの編成だった。


 良く鍛えられた聖堂騎士たちは筋骨隆々で体格にも恵まれた非常に優秀な騎士たちらしい。

 移動中は護衛に徹しているからか、油断なく周囲に気を配り、整然とした行動には規律と練度の高さが伝わってくる。

 休憩中も礼儀正しいだけではなく、フレンドリーに接してくれる。なかなかに有能で性格もいい連中だ。人生の先輩として、きっと若い騎士にも尊敬されているような男たちなのだと想像できる。


 だが欠点もある。

 かしこまった感じにされるのが嫌で、普通に接してくれと最初から言っておいたが、それが社交辞令でないと分かると、奴らは鬱陶しいくらいに馴れ馴れしくなった。

 特に野営の時には少々の酒も入るので、ややこしくなる。


「がっはっはっ! しかし、大門殿も隅に置けないですなぁ。ニコーレ大司教は若い騎士の憧れの的のような女性だというのに、なにやら怪しい仲ではないですか!」

「それは聞き捨てなりませんぞ。ウチの息子がショックを受けてしまいますわ!」

「なにぃ? 儂が聴いたところによれば、大門殿は娼館の娘に夢中ということだったはずだぞぉ!」

「なんと、これはまた気の多い御仁だ! 王国にも待たせている女がいるのではないか?」

「いやー、大門殿もまだまだ若い! しかし遊んでいられるのも今のうちだけですからな」

「しかりしかり。大変なのは所帯を持ってからと相場が決まっておる」

「はっはっー! そんなことより大門殿、ニコーレ大司教はどうだったのですか!?」

「それを聞くのはさすがにマズかろう!? で、どうなんですか、大門殿!?」


 いい奴らではある。しかし、とにかく。


「うるさい。そしてむさい……」


 決して深酒しているわけではないのだが、この調子だ。俺でなくても勘弁してくれとなるだろう。

 ベテラン騎士と比べればまだまだ若い年ごろとあって、いじり甲斐があるのかもしれないが……。


 予想外に賑やかな旅を三日ばかり続け、国境が迫る。

 ここまででいいと告げ、あっさりと解散だ。おっさんとの別れは寂しくとも何ともない。むしろ晴れやかな気分だ。



 バルディア王国の国境を守る要塞に入ると、通り一遍の雑事を済ませてまた旅の続きだ。

 ここから王都までは六日ほどの旅路になる。今度は国境警備の騎士の集団が送ってくれるらしいが、長い移動にはいい加減うんざりするな。


 だが、あと少しの辛抱だ。待ってろよ、ヴァイオレット。心の天使に逢えると思えば、辛い旅もなんとか我慢できるというものだ。

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