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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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魔神を比較

 帰りの道中は行きよりもさらにペースが早かった。

 同行するのはベテランの壮年騎士が一人とまだ若い騎士が二人だったが、全員が優秀な騎士だそうだ。連絡役と言うのはそれだけ重要な役目だからなのだろう。


 一刻も早く魔神討伐の戦果を知らせたい聖堂騎士らしかったが、馬を潰しかねないほど急ぐ若手をベテランが上手く抑えながらの旅路となった。馬術の経験がまだ少ない俺はついて行くのがやっとで、行き以上に会話のない強行軍だった。

 まるでこれから重要な戦いが始まるので応援を呼びに行くかのような必死さだったが、すでに終わっている戦いのためにここまで急ぐとは予想外だ。まあ早く帰れる分には別にいいかと黙っておいた。


 しかし、楽しみも色気もない移動ほどつまらないものはない。

 聖堂騎士はクソが付くほど真面目でお堅い連中らしい。行きで一緒だった巫女派の騎士は多少なりとも休憩時間には会話が成立したが、過激派は俺が勇者だからか会話がない。なんとなく話を振ってみても返事はそっけないものに終始した。


 思えばバルディア王国の騎士は一見すると真面目風なのだが、話してみれば意外と遊び人であることも多く、楽しい奴らだった。代わりに王国の連中はだらしのないことも多いが、教国の連中と比べれば付き合いやすい連中と思えてくる。久しぶりにまたあいつらと飲みに行きたいものだ。



 あまりにも退屈で乾ききった心を抱えて大神殿に帰り着くと、やっと終わったかと思いほっとする。

 同行した騎士たちとは途中で別れたが、あいつらは騎士団本部や別の場所に報告をしに行くのだろう。詳しくは聞いていないし、聞いても答えてくれたかは疑問だ。


 神殿の裏手に回って馬を預けていると、無事に戻されていた愛馬を少し撫でてやる。


「おう、ご主人様を忘れてねぇだろうな」


 大人しく撫でられる馬に満足していると、見覚えのある女が寄ってきた。巫女か大司教かのお付きの者だったような気がする。


「おかえりなさいませ、大門様。まずは旅の汚れを落とされてはいかがでしょう?」

「風呂か? それで頼む。ついで食い物の用意をしといてくれるとありがたい」


 移動中でも寝る前には川の水を使って体を拭いてはいた。それでもここまでで汗はたくさんかいているし、なにより服は着替えが無かったので汚れが酷く、自分でも分かるほど汗臭い。

 すぐに報告しにこいと言われるのかと思ったが、相手は大神殿の巫女様だ。会うにはそれなりの身だしなみが必要なのだろう。


「かしこまりました。こちらへどうぞ」



 久しぶりの風呂でさっぱりとし、用意されていた服に着替えるとようやく落ちつけた気がする。

 巫女はまだ仕事があったらしく、その間に保存食ではない普通のメシを堪能し、茶を飲んで一息つく。

 今日の夜はハッスルするぞと思い描いていると、ようやくお呼びが掛ったらしい。


 例の奥の奥にある滝の流れ落ちる変な部屋だ。そこまで連れていかれると、中には以前のように巫女のカテリーナと大司教のニコーレがいた。


「お待ちしていましたよ、トオル様。大方の報告は別の者から受けていますが、お話を聞かせていただけますか?」

「なんだ、もう知ってんのか?」


 魔神との戦いのあとで少々の準備の時間はあったが、ハイペースでここまで移動してきた。それよりも早い報告があったとはな。また特殊能力だろうが、急いだ甲斐がないというものだ。


「神殿には勇者様ほどではありませんが、様々な特殊能力を持った者たちがいますので。私はその代表みたいなものです」


 言われてみれば、巫女の予言だか予知だかの能力は、相当に珍しいものらしい。神殿はそういった能力者が多くいる組織なのかもしれない。

 わざわざ報告を受けたというからには、魔神討伐の様子や女教皇と上手く協力できたことは分かっているようだ。であれば、俺から話すことは特にない。


「そういうことなら、あらましは必要ないな。逆に、なにか聞きたいことはあるか?」

「はい、今回の魔神について率直なご意見をお聞きしたいと思っていました」

「意見……漠然としてるな」

「では以前に戦われたという魔神と比較してどう思われましたか?」


 前の魔神、グシオンの親玉か。


「どうって言われてもな……全然違うタイプの魔神だったが。今回は鳥で空を飛んでいたが、前のはでかい人型だった。それに氷と炎とで使う魔法も違ったな」

「姿かたちや攻撃方法は存じています。単純にどちらのほうが強かったですか?」

「そうだな、空を飛ぶ能力は厄介だったが、それを加味しても前に倒したほうが強かった。あれは攻撃も防御も鳥の魔神と比べて数段上で間違いない」

「もっと詳しく、よろしいでしょうか?」


 グシオンの親玉の防御力は尋常ではなかった。速度も拳闘無比を発動しなければ負けたし、攻撃も極致耐性を持つ俺でさえ怪我をしたほどだ。ほかの勇者どもは親玉の魔神どころか、普通のグシオンにすら数が多ければ負ける始末だった。眷属のグシオンがそれほど強力なのだから、親玉はもっと強くて当然というところになるな。


 対して鳥の魔神はどうか。

 羽毛の防御は優れていたが、毛はむしり取ることが可能だった。ブーストの魔法が掛けられていたとはいえ、聖堂騎士の攻撃が通用したことを考えても防御力は圧倒的にグシオンの親玉が勝るはずだ。速度も遅いとは言わないが、スローモーションの世界に追随するグシオンの親玉とは比較にならない。攻撃については今回の戦いでは特に受けることがなかったから評価しにくいが、見ていた限りでは物理も魔法もそこそこレベルに留まるだろう。あくまでも俺から見た基準となるが。


 鳥の魔神は総合的に決して弱くはない。単体の脅威度としては第二種指定災害を上回っているのは確実と思うが、第一種指定災害のフルフュールと比較した場合には、それほどの違いがあったとは感じられない。

 もちろん空を飛ぶ魔神と地上を這う魔物ではカテゴリーが違い過ぎるが、どちらが強かったかと聞かれれば、鳥の魔神はランクが落ちるように思える。主観でしかないが、これが正直なところだ。


 思ったところを巫女に話した。


「……個人としてはそう思うが、参考になるかは分からん。聖堂騎士には悪いが、たぶんグシオンの親玉の魔神が相手だった場合、頭数を揃えただけなら負けると思うぞ。あれはそういう次元じゃねぇ」


 空を自由に飛べるというのは、ただそれだけで有利になれる能力だ。

 上空から攻撃できるし、あの羽毛はひょっとしたら魔法防御にもっと優れていたのかもしれない。正攻法としては遠距離攻撃で戦うことになるのだろうし、そういう意味ではしがみ付いて締め落とすという戦法は誰の参考にもならないだろう。だから、普通にやればもっと苦戦する魔神だった可能性は十分にある。だが個人的にもう一度やれと言われて嫌なのは、確実にグシオンの親玉だ。

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