表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

164/441

共闘の成立

 鳥の魔神は首を絞められて意識が朦朧としているようだが、まだ健在だ。落下ダメージもそれなりに大きいはずだが、まだ生きている。

 この魔神がどのような特別な力を所持しているのか、完全に解明したとはとても思えない。やれる時に確実にやっておかなければ。油断は禁物だ。


 がっちりと締めたままの首を放さず、そのままの体勢で呼び掛ける。


「止めを刺せっ! まだ死んでねぇぞ!」


 落下した鳥の魔神を前にした聖堂騎士は唖然と、あるいはやっと終わったのかという顔をしていた。疲れ切っているのかもしれないが、停滞した空気を感じて、まだ終わっていないぞと警告を飛ばす。


 一応は首絞めの状態から骨を折れないかと試してみたが、ぐねぐねとしてどうにもやりにくい。かといって首絞めを緩めるのも危険な気がして、聖堂騎士に委ねることにした。止めを譲る形になるが、共同戦線という建前がこれなら結果的に本物にできる。


 呼びかけに気を取り直した聖堂騎士は鬨の声を上げ、続々と槍や剣を構えて押し寄せる。

 女教皇の勇者によってブーストされた速度と力は大したもので、続々と刃が突き刺さる。分厚い羽毛に阻まれた攻撃もたくさんあるようだが、無防備な魔神には何度でもチャレンジが可能だ。

 刃が突き刺さり、切られる度にビクンビクンと身体を震わせていた魔神だったが、どんどん力を失っていった。


「俺が離れたら、首を落とせ!」


 意外と楽に追い込めた気もするが、これは世界を滅ぼすと言われる魔神だ。最後の最後まで警戒を緩めることはできない。

 魔神はだらりと頭を地面に付けた状態で、当然ながら頭部にも攻撃は加えられていた。頭を割られてもなお首を絞め続けていたが、力を感じなくなってようやく離脱を決める。


 離れた直後、大柄な騎士が剣を首に向かって振り下ろした。

 分厚い羽毛に阻まれ、また首の筋肉が発達していたからか、一撃で落とすことはできず、何度も首に剣を叩きつけていた。そうしていると切れ目が入ったらしく血が流れ、次の一撃で首が落ちた。


 さすがにこれで復活することはない。決着だ。

 首を落とした騎士が剣を掲げて勝利の声を上げる。

 呼応して叫ぶ大勢の騎士だが、かなりの犠牲を払っての勝利だから、思うところも多いのだろう。それに伝説の魔神を倒した名誉と誇り、色々な気持ちが湧き上がっているに違いない。

 聖堂騎士に掛けられたブーストの魔法と思われる薄っすらとした白い光もこのタイミングで消えていった。これについては凄まじい魔法だったと言うしかない。


 感動なのか倒れた仲間を思ってなのか泣き出す奴や抱き合って喜び合う奴など様々だ。こいつらにとっては謎の人物である俺への警戒心も、今はどうでもいいことなのだろう。

 そういえば、いつの間にかニワトリの魔物がいなくなっている。聖堂騎士が全部倒したか、魔神が倒れた際に逃げ出したのだろうか。まあ、あの魔物は聖堂騎士でどうとでもできるようだし俺が気にすることではない。


 周囲の悲しみや喜びの輪に入ることはできず、この隙に女教皇のいる後方へ向かうことにした。



 後方支援をしていた騎士はこっちへ露骨な警戒心を向けるが、トラブルが起こる前に身分の高い騎士と思われる男が迎えにきてくれた。


「こちらへどうぞ!」

「おう、悪いな」


 装飾過剰な鎧の騎士に導かれ、女教皇のところまで無事に戻る。

 向かう途中では負傷者の救助が行われ始めたらしく、聖堂騎士たちは戦闘後でもかなり忙しそうだった。


「終わったぜ。行き当たりばったりだったが、案外上手くいったな」


 女教皇の勇者はリエージュ・シャトレ教国の『女教皇』としてここに引っ張り出されてきたらしいが、聖堂騎士の指揮権まで持っているわけではないようだ。戦いが終わった後では割と暇そうだった。


「無茶な戦い方をしますね。空を飛べる特殊能力は無いのですよね?」

「あったらもっと楽だったろうな。そういやお前、なんか遠距離攻撃できる魔法とか使えねぇのか? 少しくらい援護しろよ」

「できなくはないですが、先ほどまでは加護の光で手いっぱいでしたので」


 あのブースト魔法のことか。たしかに、あれだけの大人数に効果を及ぼす魔法だ。持続的な魔法の行使が必要なら、ほかのことに割ける余裕はなかったのかもしれない。それにしても、なにか切り札を残していそうではあるが、簡単には明かしてくれないか。


「まあいい。目的は完全に遂げられたからな」

「そうですね。私たちが魔神を引き付け犠牲を払いながらも能力をつまびらかにし、あなたがあと一歩まで弱らせ、最後は聖堂騎士が仕留めました。こちらとしては、これ以上は望めない結果と思います」


 教国のメンツと騎士の誇りは守られ、俺も巫女との約束を果たすことができた。結果論だが、いいところに収まる戦いができたと思える。

 ついでに賢そうなこいつなら、俺が最後の止めを譲ってやったことも理解しているだろう。近々、国のトップに君臨する予定の奴に貸しを作れたと思えばそれも悪くない。共闘を持ちかける際に名誉は譲ってやるなどと言ってしまったこともあるし、自分から恩着せがましいことは主張できないが。


「終わり良ければすべて良し、ってところだな。そんじゃ、俺は先に帰るぜ」


 こいつらにはまだやることがある。犠牲者の収容や負傷者の手当はもちろんのこと、倒した魔神を持ち帰る準備もこれからのはずだ。移動は早くても明日、もしかしたら数日はここに留まるかもしれない。それに付き合うつもりはない。


「こちらも結果報告に伝令が出るそうです。ご一緒に移動されますか?」

「ああ、便乗させてもらうか……そういや馬も食料もないから、俺の分もひと揃い頼むな」


 微妙に呆れた顔をされてしまったが、こっちとしては予定通りだ。

 さて、早く帰ってジウリアのところにしけこみたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ