表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

163/441

大空の格闘

「この畜生っ」


 化け物に恐れを感じなくても、高い場所、それも無防備にぶら下がるという体勢でいるのはかなり怖い。特に高所恐怖症というわけではないが、さすがに恐怖を感じる。

 頼れる極致耐性があっても、一直線に地面に激突すれば助かるかは疑問だ。せめて山の樹々をクッションに、土の上に落ちるようにしなければ。


 その前にまずは振り落とされまいと、しっかりと羽毛を握りしめてよじ登る。

 体力と腕力には自信がある。腹から背中側へと腕の力だけでなんとか移動して一息つこうとするが、もちろん鳥の魔神は異物を振り落とそうとしてアクロバット飛行を繰り返す。休む暇などありはしない。


 景色を見ている余裕はないし、見れば恐怖が湧き、目も回る。だから手元のみに集中して、必死にしがみつき、首のほうに向かってにじり寄る。

 ただしがみ付いているだけでは勝機はない。魔神も振り落とすまでは暴れ続けるだろうし、体力勝負でじっとしているのも性に合わない。仕掛けてやる。


 急な方向転換や上昇や下降、宙返りなど、体にかかる負担は想像以上だ。ジェットコースターを思い出す。

 不安定な体勢ながらも、羽毛を手放さなければ落ちることはない。抜けにくく頑丈な羽毛だったことに今は感謝しておこう。握りしめる感触のみを頼りに、勝利と生存への執念を燃やす。


 歯を食いしばって少しずつ移動を続ける。そこまでの巨体ではないから、実際の移動距離は短いはずだ。


 ふと、空を飛べる特殊能力の持ち主はいるのだろうかと思う。空を飛ぶ魔神との空戦なんて、いかにも勇者っぽい姿ではないか。本来ならそういう奴の出番だろうに、なぜ殴るだけしか能のない俺がやらなければならんのか。必死にしがみ付く状況も相まって、怒りがこみ上げる。


 せめて遠距離攻撃の一つもあればと恨み言を呟きながら這いずっていると、目的の場所に近づきつつあった。



 両の翼の間から首元に取り付くと、少しだけ下の景色を覗き見る

 そのタイミングで翼を畳んだ魔神は、急転直下の落下を始めた。凄まじい加速だ。

 ぐんぐんと地面が迫り、そこには勇猛果敢に待ち受ける聖堂騎士がいた。


 激突するのではないかという恐怖が押し寄せるが、さすがにそれはなく、魔神は凍てつくブレスを吐き散らかして再び舞い上がる。猛烈に冷たい風が吹き抜けた。


 畜生らしく、本能のまま好き勝手に暴れていやがる。だが、それもそろそろ終いだ。

 急降下から急上昇の間は必死にしがみ付くしかなかったが、上昇が止まった瞬間に首に縋り付いた。

 一抱えもある太い首だが、これなら締めることは可能だ。折ることも考えるが、締めることを選択する。

 後のことは後で考えよう。今はとにかく。


「ぶっ殺す!」


 首に回した腕をぐっと締め付ける。がっちりと手首を掴んで固め、力の限り締めていく。

 気道を塞いでしまえば、魔神でも苦しいだろう。息をしているなら、それを止めてしまえば殺せるはずだ。あるいは首を通る血流を堰き止め、失神状態に追い込めるかもしれない。

 空中でじたばたとする魔神だったが、ロックした腕は絶対に外さない。締め落としてやる。


「うおおおおおお! いい加減、落ちろーっ」


 落ちるといっても自由落下されてしまうと、それはそれで困るが、運のいいことに苦しみもがく魔神は飛びながら徐々に地表に近づいていっている。本能的に墜落死を避けようとしているのだろうか。

 ふらりふらりとした頼りない飛び方には、また別の恐怖を覚えるが腕を緩めたりはしない。


 地表が近づくにつれ、景色が嫌でも目に入って恐怖が押し寄せる。目を瞑るのはそれはそれで怖い。

 とにかく首を絞めながら、落ちても魔神を下敷きにできるよう意識する。こいつの体のクッション性を利用できれば、俺自身の落下ダメージは最小限にできると期待している。


 無目的に本能で飛び続ける魔神がどこに向かって飛ぶのかは不明だ。できれば迷子にならないよう、上手いこと道やその近くに着地して欲しいものだと贅沢を考える。果たしてその行き着く先はどこになるのか。

 そこはかとなく哲学的な思考になりかけるが、これは現実逃避なのだろうな。


 地表が近づく。

 俺のようなろくでなしにも、気まぐれに運命の女神は微笑むのだろうか。

 遠くに見える聖堂騎士の集団に向かって、ふらりふらりと近づいていっているような気がする。このまま行けば突撃してしまうかもしれないが、不時着程度の勢いなら向こうは向こうで対処するはずだ。

 他人のことよりも迷子にならずに済みそうなのが、少しばかりほっとできる要素だ。


「……このまま行けよ、このままだ」


 なんとなく締め付けたままの首を操縦桿のようなイメージで真っ直ぐに固定すると、気のせいか運がいいのか、目的の着陸コースに向かって真っすぐ飛んでいるような気がしてきた。

 広い道を道なりに飛行。横手を流れる景色が速い。だが、このままだと騎士に突っ込む!


 馬鹿正直にこれまでの戦法をとり、防御を固めた聖堂騎士が受け止めようと待ち構えているが、体当たりを受け止めては無用な怪我人だって出るだろう。目算では先頭で待つ騎士の少し手前でこいつは地面に激突する。そのまま勢いで滑ると思うが、そんなものは止まるまで放っておけばいいだけだ。


「避けろーっ」


 叫んでみるが、聞こえはしないだろう。

 そのまま地面に激突。思ったよりも少ない衝撃はラッキーだったが、勢いでずざーっと進む魔神に騎士が吹っ飛ばされるのを見て、なにをやっているんだと少し呆れた。根性見せるのは良いが、見せ所を考え欲しいものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ