鳥の魔神
女教皇は少し考えるそぶりを見せたが、結局のところ共闘を了承した。
さっそく最前線に行こうかと思うが、その前に一つ気になることがある。
「その白い光、なんか力を与える能力だろ? 俺にも使ってくれ」
共闘なのだから、使える力は使って少しでも楽をしたい。
「残念ですがこれは信徒にしか効果が出ません。私の信徒になってください」
「アホか、なるわけねぇだろ」
真面目な顔して冗談いいやがって。まさか信徒だけにしか効果がないとは。やはり条件が厳しいからこそ、強い力が与えられるのだろう。対象外にはまったく効果がないとはな。
「それにしてもおかしいですね。信徒でなかったとしても、同じ志があれば少しは効果が見込めるはずなのですが……」
「同じこころざし? 俺とお前が? あるわけねぇだろ、そんなもん」
堅苦しい感じの女教皇と俺とでは考え方がまるで違うのだろう。重なる部分などきっと一つもないに違いない。だったら効果がゼロでも納得するしかない。
「とにかく、そろそろ行くぞ。お前も何かほかに手があるなら、それをやれ。なけりゃ、逃げる準備だけでもしてろ」
言い放つと返事を待たずに駆け出した。手があるなら、すでにやっているだろう。ないからこそのジリ貧だ。あるいは手があっても、酷く使いにくい切り札のようなものだろうしな。
走りながら考える。偉そうなことを言ったが、俺にもできることは少ない。
倒すべきは鳥の魔神だ。ついでにニワトリのような魔物もいるが、そいつらはおまけでしかない。ひとまずは無視だ。
聖堂騎士の奮戦で魔神のことが少しは分かっているのがありがたい。具体的な弱点などは不明だが、奴の攻撃方法が分かっているだけでも十分に役に立つ。
さて、どうやって倒すかだが動物が苦手な要素といえば、思いつくのはまずは火だろうか。ほかのも匂いやら電磁波やら超音波やら、動物によって色々と弱点と考えられる要素はある。だが結局のところ、俺にできるのは殴ることしかない。悲しいほどの手段の少なさよ。
ほかにも試せることは聖堂騎士も試していたようだが、これといった成果は出ていないようだ。ここは力づくで何とかしてみよう。いつもの力押しだ。
後方で支援する騎士の間をすり抜け、なるべく驚かせたりしないよう、逐電亡匿の特殊能力を発揮して端っこを駆け抜ける。
タイミングよく、鳥の魔神は遠くから低空飛行で接近中だ。守りを固める騎士に向かってまた凍てつくブレスを吐きかけるつもりだろう。今からなら余裕で間に合う。
上手くタイミングを調整する。防御を固めた騎士の邪魔をするわけにはいかない。ブレスを正面から食らった騎士は死ぬかもしれないが、俺の突然の行動で動揺を与えてしまっては無駄死にになってしまう。それは最悪だ。
やるなら防いだ後、さらに騎士が反撃を加えた直後、それに便乗して襲い掛かる。
風のように走り、近づく。
パターンと化したブレス攻撃、防御、魔法と投擲による反撃、そこに追加をくれてやる!
横手から低空に浮く鳥に向かってジャンプ。思ったよりも高い位置にいたから跳ぶしかなかった。地を踏みしめない一撃ではあまり期待ができない。
鳥の魔神は俺を認識できていなかったのか無視していたのか、あっさりと拳が体に食い込む。
しかしだ。分厚い羽毛に阻まれてしまった。空中で踏ん張りも効かない状態では拳が本体まで届かなかった。これは予想外だ。
ぼふっと跳ね返され、そのまま着地。ダメージはまったく与えていない。厄介な。
「ちっ、羽をむしり取ってやるか」
できることをやるのみだ。こんなのが相手では戦闘技術は役に立たない。思いついた手段を講じるのみ。
急に現れた俺に最前線の騎士はやはり驚いたようだが、参戦する人数が増えるに越したことはない。連携を乱すようなら怒られるだろうが、今のところはその余裕もないのか無視するらしい。
まだ近距離で浮いたままの魔神にまた跳び掛かる。むしってやる!
殴っても手ごたえのない羽毛の塊に手を突っ込むと、ぐっと握りしめて思い切りむしり取った。かなり力を入れないと抜けない。馬鹿力がないと無理なほど強固で、これはこれで厄介だ。
「丸裸になりやがれ!」
抜けにくくても抜けるなら問題ない。乱雑にごっそりとむしり取ったから痛みを感じたらしく、鳥が可愛げのない鳴き声を上げた。
「まだまだっ」
さっさと空に逃げればいいものを、ギャアギャアと騒いで羽を振り回している。暴風が起こっているのかもしれないが、胴体にまとわりつくようにしている俺には効果がない。騎士が騒いでいるようだが今は無視する。ボーナスタイムを活かさなければ。
羽毛をぐわしっと掴むと、ここぞとばかりにむしり取りまくる。
鳥の魔神は怒り狂って暴れ、空に舞うことはせず、まとわりつく俺を標的に氷や冷気の魔法をばら撒いてくる。密着に近いので避けるまでもなく当たらず、余裕でむしる。
するとついに諦めたのか、羽ばたいて浮かび上がった。
「逃がすかっ!」
とっさにしがみ付くと、そのまま一緒に空に浮かび上がってしまった。
「や、やべぇな……」
地上がどんどん遠ざかり、高所からの景色に思わず身がすくんだ。




