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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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女教皇の戦い【Others Side】

 女教皇の勇者こと、神宮じんぐうマリアは焦っていました。

 魔神とその眷属との戦いは、今後の展開が予測できてしまいます。すなわち分が悪いということに。

 読み違えた戦力差を呪いながら、ここに至る経緯を何とはなしに思い返していました。



 リエージュ・シャトレ教国からの勧誘を受け、自らの力を最大限に発揮するためには、バルディア王国を出て教国に行くことがベストであると女教皇の勇者は考え、そして実行しました。

 待遇は申し分ありません。まさしく国のトップとして迎え入れられるのです。例えそれがお飾りのつもりであったとしても、それに甘んじる必要はないのですから。


 普通の十代の若者であれば、いきなり国のトップになってくれと言われても二の足を踏むでしょう。お飾りであっても多少なりとも責任は生じますし、立場をわきまえる必要も出てきます。当然のように自由は制限され、やりたくない仕事が舞い込むことにもなります。目的もなしに好き好んでなるような立場ではありません。


 しかし女教皇の勇者には受けても良い、あるいは受けるべきと思える理由がありました。

 十分な待遇とは別にして、もちろん迎え入れ先の国力とその内情は勧誘を受けてから調査をしています。その上で、受けるべきと判断したのです。



 第一の目的として、女教皇の勇者は元の世界に帰りたいと願っていました。

 そのためにはすべての魔神を討伐する必要があると聞かされてから、真剣にそれを成すためにはどうすれば良いかと考えていました。人任せだけにはしておけない真面目さが伺い知れます。


 残念ながら女教皇の勇者は直接的な戦闘能力が低いです。単なる努力不足とは違い、所持する特殊能力の傾向からして明らかでしたので、如何にして持てる能力を活用できるようにするかが彼女の課題でした。

 そして是非にと勧誘を受けたリエージュ・シャトレこそがその解答であると結論付けました。

 教国であれば、この国でなければ、女教皇の勇者の力は存分に発揮できない。そう考えいざ訪れた魔神との決戦において、その片鱗程度は見せることができていたでしょう。



 リエージュ・シャトレ教国を訪れた女教皇の勇者が真っ先にしたことは、聖典主義を掲げる過激派との融和でした。過激派とまでは言えなくても傾向として似た勢力まで含めれば、彼らは多数派となる存在です。その聖堂騎士を味方につけることは、武力を必要とする女教皇の勇者にとっての必須事項です。


 勇者という存在を忌避する聖堂騎士に対し、神宮マリアは個人として、そして教国の新たな女教皇として語りかけました。


「私は勇者としてこの地にやってきたのではありません。新しい教皇として、そして誉れ高い聖堂騎士の皆さんと一緒に魔神を倒すためにきました。世界に名だたる神聖にして勇猛果敢な神の騎士、聖堂騎士の皆さんこそが、魔神打倒のカギを握っていると私は確信しています。どうか一緒に偉業を成し遂げてはくださいませんか」


 神宮マリアはまだ年若い少女と言える年齢です。年齢の割には大人っぽい容姿や雰囲気ではありますが、国家の代表者として君臨するにはまだ如何にも頼りないです。しかし勇者ゆえか不思議な力強さがありました。そして真摯な態度が好感を持ちました。


 勇者でありながら勇者ではないと言い放ち、聖堂騎士を頼みにするという言葉には、過激派も聞く耳を持つしかありません。反発する心が完全に消えるわけではありませんが、第一印象は思ったよりも良いというのが聖堂騎士の大勢を占める意見でした。

 それに形だけであっても、教国のトップとなる存在に失礼な態度を取りにくいというのもありますし、大人げない態度は対外的にも自らの矜持にも反することがあります。


 対話が可能な関係になれば、女教皇の勇者にとってあとはスムーズです。

 己の力の有用さを見せつければ良いのです。それがいかに聖堂騎士にとって有用で利用価値が高いか。理解が進めば逆に頼みされ、絶対に手放したくないと思わせるほどの力があるのです。勇者がどうのと言っても、あまりにも有用な力と魔神討伐の名誉を餌にされてしまえば、過激派の聖堂騎士も実利に目が眩みます。


 女教皇の勇者は勇者としての立場を捨てて教国にやってきており、まさしく教国のトップとして君臨するのですから、勇者不要を唱える過激派でも建前の上では問題になりませんでした。あるいは目をつぶることができました。


 そうして女教皇の勇者は過激派を味方に引き込み、戦力として抱えることができるようになりました。

 短い期間の交流ではありましたが、過激派の聖堂騎士はその過激な思考がゆえに、今度は逆に女教皇を祭り上げるようになります。信奉する者さえ出る始末です。しかしそれが功を奏する形でもありました。


 なぜなら、女教皇の勇者は特殊能力によって、自らを信じる者の力を大幅に引き上げる魔法を行使することができました。鍛え抜かれた聖堂騎士が驚嘆するほどのパワーアップを成し遂げられるのです。さらには高潔な聖堂騎士でなければ力の付与は成功しないなどとリップサービスまで加われば、彼らの意気も上がろうというものです。また実際に、対象が狂信者あれば最高効率の力が与えられ、これ以上の効果もない特殊能力なのです。


 千人超の過激派聖堂騎士は、その実、過激な女教皇派閥と化していました。

 力を引き上げる魔法を最大限に享受した聖堂騎士は強く意気込みます。魔神討伐の成果を女教皇に差し出したい、対立派閥に見せつけたい、ほかの国々や勇者たちにも聖堂騎士団ここにありと示したい。欲求は一気に高まります。その状態で魔神発見の知らせが入ったなら、行動を起こすのは必然的に素早くなります。手柄を誰かに渡すわけにはいかないのですから。


 これをもって魔神の討伐へと挑むことになったのです。女教皇の勇者はもっと戦力を整えたいと考えていましたが、魔神発見の知らせが入ると即座に血気にはやった聖堂騎士に連れ出されてしまいました。


 しかし現実は厳しいものでした。魔神はあまりにも強大で苦戦を余儀なくされました。このままでは危険であることを女教皇の勇者は認めざるを得なかったのです。



 目の前で起こる激戦、そして劣勢に対し、女教皇の勇者は使うまいと決めていた切り札を使わざるを得ないか、もしくは撤退かを考えた始めましたが、その時です。後方に向かってお付きの者が鋭く声を発しました。


「貴様、何者だっ!? 怪しい奴め!」


 女教皇の勇者が思わず後ろを振り返ると、確かに怪しい風体の男がいました。

 たった一人で激しい戦闘が行われる場所に、一体何の用事があってのことか。救いを求める感じでもありません。

 特に武装はしていないようでしたが、如何にも悪党といった凶悪な顔がどうしても警戒心を引き上げます。


 怪しい男はお付きの者の誰何を無視して、女教皇の勇者のみを見ています。そして少し距離が離れているにもかかわらず、気安く話しかけました。


「おう、お前が神宮……えー、マリアだったか? 巫女のカテリーナ様に頼まれて助太刀にきてやったぜ。困ってんだろ?」

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