旅の同行者
魔神の出現場所はここから三、四日の場所らしい。その間の食料等は全部揃えてくれるという話だから楽なものだ。それが終われば道案内を担当してくれる奴が呼びにくるはずだから、そいつがくれば即出発となる。
応接室で待つこと、体感で二十分ほどだろうか。暇だなと思っていると、ふと野暮用を思い出した。
魔神を倒しに行くのは良いが、往復で考えると結構な日数だ。馬車ではなく乗馬で急げばもっと早いのかもしれないが、それなりの旅程にはなるだろう。だったら、それを伝えてこなければいけない相手がいる。
少し遠いが本気で走れば大した時間はかからない。待ち時間がもったいないし、さくっと行ってこよう。
「勇者様、どちらへ?」
部屋を出ると護衛なのか見張りなのか門番なのか、二人の男がいた。入る前にはいなかった奴らだが、ちょうどいい。
「ただ待ってるのも暇でな。用事があるから少し出るが、すぐに戻る」
「間もなく準備が整いますが、一体どちらへ?」
「急な遠出だからな。知り合いに挨拶もなしじゃ、心配掛けるだろ?」
ジウリアには今夜も行くと言ってしまった。一言もなしに行かなかったのでは、予約の放棄になってしまうし印象が悪い。待ちぼうけさせてしまうのも、さすがに心苦しいものがある。
適当にはぐらかして外に出ようとしていると、タイミングが良いのか悪いのか、案内役がきてしまったらしい。
「お待たせいたしました! 勇者様、準備は万全ですので、さっそく参りましょう!」
重武装の元気なおっさんだ。神殿の清廉な雰囲気には似つかわしくないが、これから魔神やその眷属がいる場所に乗り込むのだから、必要な武装ではある。
もちろん案内役は元気なおっさん一人ではなく、もっといる。速度重視のため少人数にはなるが、十二人ほどの騎士が同行するらしい。バルディア王国では分隊の人数だが、同じような軍の行動単位なのだろう。
ほかの人員は外で待っているのだろうが、そうするとあまり待たせるのも良くない。今から娼館に行くのは無理そうだ。だがジウリアに言伝くらいはしておきたい。
迎えのおっさんにちょっと待てと言うと、門番をしていた男に頼むことにした。
「あんた、歓楽街には行ったことあるか?」
「え!? いや、その」
見たところ年は二十半ばくらいか。年ごろの男が恥ずかしがることもあるまい。神殿の関係者でも、行く奴は普通に行っているだろうし。
「行くんだな? じゃあ、フィーネグラッセって店は知ってるか? 伝言を頼みたい」
「し、知りませんし、行きませんよ!」
「ベニート、勇者様に失礼だぞ。自分もそういった店に入ったことはありませんが、伝言だけでしたらお受けします」
中年のイケメンが申し出てくれたが、こいつはたぶん歓楽街の常連だろう。入ったことがないなど、嘘に決まっている。偏見でしかないが。
「そうか、助かる。夜に予約を入れてたんだが、巫女様からの頼まれごとで行けなくなったからな。今日だけじゃなく、しばらくは行けないと、受付のやり手ババアに伝えれてくれ。それと勇者と名乗らず、大門トオルからの伝言で頼むぞ」
店のおおよその場所と特徴を伝えると理解したようだった。店に入ったことは無くても知ってはいるようだ。これなら問題ない。礼を言うと待っていた騎士のおっさんと今度こそ一緒に外に出た。
神殿裏手の広場には、聞いていたとおりの重武装の騎士がおっさんを除きて十一人。きっちりと整列して待っていた。
急ぐ旅だから馬車は使わず、それぞれの馬に荷物をくくりつけた状態だ。俺の愛馬も同様になっている。無駄なものは一切なく食料も最低限で、水は川の近くを行くからそこから調達するらしい。最低限でも結構な量の荷物になっているが。
「こちらの御仁が勇者様だ! 道中、失礼のないようにしろ!」
元気なおっさんは隊長らしい。声を張り上げると短く俺を紹介した。続けて出発の号令まで掛ける急ぎようだ。こいつらも聖堂騎士だが巫女派に属する連中らしい。巫女の要望に従って、快く案内役を務めてくれるそうだ。
「勇者様。できるだけ急ぎますので、我らの紹介などは野営の時にでもさせていただきましょう!」
「おう、さっさと行こうぜ」
呑気に自己紹介などしている暇はない。さっさと行って、さっさと帰ってこよう。普通の旅で四日の旅程なら、急げばもっと縮められるはずだ。急ぐことになんの文句もない。




