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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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面倒な条件

「はじめに言っておくが、仕事の報酬は金だ。金貨そのものか換金可能な財宝でもいい。ああ、もしくは土地と建物でもいいぜ。教国に別荘を持つのも悪くない。だが地位や名誉を持ち出すなら、この話はほかの勇者に持っていけ」


 要望はなるべく明瞭、明確に。曖昧な伝え方では、結局は望まないことになる場合が多いのが世の中だ。


「それも承知しています。時間がないので具体的には事後になってしまいますが……」

「本当は事前に契約を結びたいところだが、特別対応でやってやるよ。急ぎだしな」


 金勘定は巫女ではなく、実務担当者がすべきことだ。この場で決めることは無理だろう。

 それに身分や立場のある奴というのは信用を大事にする。大神殿の巫女様ともなれば、簡単に人を裏切ることなどできはしない。

 ありえないとは思うが、約束を反故にするようなら二度と助けてやることはない。


「報酬についてはお戻りになってから改めて。では、やっていただきたい内容ですが、まずは魔神とそれに付随する眷属の討伐です」

「だろうな。倒せるかどうかまでは分からんが、やるだけやってみるさ」

「結構です。そしてここからが本題です」


 本題か。魔神討伐が本題でなくてなんなのかと問いたくなるな。


「ご面倒をお掛けすることになるのは教国の事情ですが、これも王国は承知しているはずです。トオル様もお聞きになっているのではありませんか?」

「よくは知らねぇが……聖堂騎士団のことか?」


 神の尖兵を自認する聖堂騎士というのは結構な幅を利かせる一大派閥らしい。そいつらは勇者なんぞという怪しい存在やそれを頼みにする巫女派とは関係が悪いという話だ。面倒な事情といえば、そのくらいしか思いつかない。


「無関係ではありませんね。彼らは聖典主義を掲げる派閥なのですが、深夜のうちに出撃してしまったようなのです」

「気の早い連中だ。まあ国を守る騎士として、褒められたもんなんじゃねぇのか?」

「一面ではそうです。ですが、動機がいただけません。合言葉は「勇者に後れを取るな」、だそうです」


 魔神討伐はこの上ない名誉と考えていい。なにせ世界の脅威なのだから当然と言えば当然。それに加えて聖堂騎士にとっては、教義上のなにかがあるのだろう。躍起になる理由は知りたくもないが、当人たちにとっては重要なことに違いない


「その騎士どもで片が付くならそれでもいいと思うが……」

「ええ、おそらく厳しい戦いになるでしょう。最悪の事態をも考えなければなりません」


 魔神という存在は戦ってみて初めてその脅威を実感できる。指定災害と呼ばれる魔物も大きな脅威だが、単体なら策を練って時間を掛ければ騎士団でも倒せる。だが、近くにいると思われる指定災害が複数の上、魔神そのものは別の次元にいる脅威だ。


 グシオンの親玉の異常な防御力は、騎士団の精鋭がどれほど頑張っても突破は難しいだろう。圧倒的なスピードは捉えるどころかまともに視認することすら困難で、振るわれる攻撃は鎧程度の防具では到底防ぎきれない。どれだけの大軍で挑もうが、蹂躙されてしまう光景が目に浮かぶようだ。それに強力な炎の魔法は広範囲に展開する軍をただの一撃で焼死体の山に変えてしまうかもしれない。


 勇者とそれ以外を分ける決定的な差は、どう考えても特殊能力の強さに尽きる。特殊能力自体は勇者の専売特許ではないが、能力差があまりにも大きい。

 話によればこの世界の天才が長い時間の研鑽の果てに至るような境地を、勇者は努力もなしに最初から超えるという。

 だからこその勇者召喚。魔神を倒すための秘儀。


 今回の魔神がどのような特徴を持っているのか、後で聞いてみなければ分からないが、簡単な相手では決してないはずだ。


「本題ってのは聖堂騎士を助けてやったらいいのか? そんな余裕は俺にだってねぇぞ」

「助けられるようなら助けていただきたいですが、最優先は聖堂騎士に連れ出されてしまった女教皇の勇者様です」

「女教皇? 勇者がいるのか」


 状況が良く分からん。いつの間にバルディア王国から出てリエージュ・シャトレに鞍替えしていやがったのか。

 しかし、勇者など不要と考える強気な聖堂騎士の一派が勇者を連れ出すとは一体どういうことか。女教皇というのがどこの国に居ようと知ったことではないが、面倒を掛けられるのは迷惑だ。


「詳細は省きますが、彼女には文字通りに教国の女教皇となっていただく予定なのです。なんとしてでもお守りいただきたいです。そしてできるなら、協力して魔神を倒していただけないでしょうか?」

「女教皇ってのは、王様みたいなもんか?」

「そのご理解でも構いません。私たちにとって、とても重要なお方です」


 重要なのはいいが協力といってもな。顔も知らんし、先日の勇者どもの実力と大差ないなら足手まといになる。

 まあ一応はサポート能力があるなら頼りにできる可能性はあるか。ヘボでも勇者なら簡単に死にはしないだろうし、どうしてもと言うなら仕方がない。


「その女教皇の勇者次第になるが、とりあえず分かった。できるなら協力して倒すとしよう。それよりなんでまた聖堂騎士はそいつを連れ出したんだ? 勇者など不要とか言ってる奴らなんだろ?」

「勇者様ではありますが、これから教国のトップになられるお方でもあります。聖堂騎士は実力と覚悟をお見せすると息巻いているようなのです」


 色々と面倒くさそうだ。深入りするのはやめておこう。

 俺の仕事は魔神殺し。そして可能であれば女教皇の勇者と協力してそれを成すこと。それだけでいい。最悪は魔神を倒せない可能性もあるが、その時には女教皇だけは連れてなんとか逃げよう。


「その気合で魔神を倒せるならいいんだがな。とにかく、上手く行くように祈っててくれ。最低でも女教皇の勇者だけは連れて帰る。いつ出発できる?」


 国の事情などそもそも俺には関係ないことだ。細かいことは考えたくないし、聞きたくもない。


「現在はトオル様の分も含めて食料等の物資をまとめさせているところです。聖堂騎士は千人以上で移動しているようなので、追いつくことはできると思います」

「じゃあ準備ができるまでは待たせてもらうか。道案内がなけりゃ、場所も分からんしな。ああ、カテリーナ様も忙しいだろ。俺がやることは分かったし、行っていいぜ」

「お気遣いありがとうございます。ではお言葉に甘えて」


 そう言うと、巫女とニコーレは本当に忙しいらしく出て行った。

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