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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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予定調和の緊急依頼

 目が覚めると昼にはまだ早いくらいの時間だった。

 しばらくは眠気でぼんやりとしていたが、寄り添って眠るジウリアの感触によってムクムクとしてきた。


「朝からってのも、たまにはいいな」


 欲望のままに悪戯を始めようとすると、扉を叩く音が。


「……時間か?」


 しょうがない。無視するわけにもいかず、ドアに向かった。

 躊躇なく開けると、まずやり手ババアの姿が目に入る。


「あんたね、なんてカッコして出てくんだい……」

「大門様、ふ、服を着てください!」


 二人いるのは分かっていたが、なんでこいつがここにいる。


「ニコーレ? こんなとこでなにやってんだよ」

「な、なにって」

「いいから、そのおっ立ってるモノを仕舞ってきな!」


 真っ最中の部屋にくるほうが悪いだろうに。しかも大司教などという肩書の女がくるような場所ではまったくない。世間知らずにしても、周囲が止めるべきだろう。

 憮然として部屋に戻ると、顔を洗って髭を剃り用を足してから服を着る。少し待たせることになるが、身だしなみというやつだ。


 さて、一体なんの用だろうか。神殿には昼過ぎに戻ると話していたはずだが。


「あ、行くんですか?」

「ジウリア、起こしちまったか。もう少しゆっくりしてから帰ろうと思ってたんだが、なんか迎えがきてな」


 裸をシーツで隠す姿にぐっとくるが、ニコーレを待たせて遊ぶわけにもいかない。なにか急用があるのだろうし。


「迎え、ですか」

「今夜もくるからよ、そんじゃまたな」

「は、はい。待ってます」



 待たせたなとニコーレに声を掛け、外にあった馬車に二人で乗り込むが、どうにも気まずい感じだ。こっちは何とも思っていないが、ニコーレからしてみれば想定外だったのだろう。

 女の所に行くとはっきり言っていたのだから、なにをしに行ったのかくらいは、いくらなんでも分かるだろう。そこまで初心ではないはずだ。そうすると裸の臨戦態勢を見せてしまったことが原因になるか。しかし、蒸し返すのもな。なかったことにして話を聞くのが一番か。


「おう、まさか迎えにくるとは思わなかったぜ。それで、なんか急ぎの用事か?」

「……こほん。そうです、それどころではないのです。実は緊急のご用がありまして」


 大司教がわざわざ迎えにくるような用事だ。下手な奴を寄越して拒否されないようにということだろうし、そうすると大体想像は付く。


「俺に緊急の用事なんて魔物以外ありえねぇだろ。魔神でも出やがったか?」

「……まだ確実な情報は入っていないのですが、その可能性があるようなのです。詳しくは巫女様からお聞きになってください」


 軽いジャブを打ったつもりだったが、まさか本当に魔神なのか。

 深刻な様子のニコーレには軽口も叩きにくい。雑談をする雰囲気ではないため、黙って馬車に揺られた。



 大神殿に戻ると、奥の奥にあった滝のある部屋ではなく、入り口からほど近い個室に案内された。ここが本来の応接室なのだろうか。すっきりとした上品な内装だ。

 急いでいるのか、待たされることなく巫女が登場した。


「トオル様、朝からお呼び立てしてしまい申し訳ありません」

「急いでんだろ? 回りくどい話はいらねぇ」


 魔神が出たというのなら、呑気に挨拶をしている場合ではない。奴らは放っておけば眷属を増やすというのだから、対処は早ければ早いほどいい。教国の戦力だけで片が付くならどうでもいいが、そうではないからこそ俺に声を掛けたはずだ。


「では率直に。昨晩の事ですが、魔神発見の急報が入りました。この大神殿より東に馬車で四日ほどの山岳地帯です」


 僻地に現れる魔神をどうやって見つけるのかと思いきや、バルディア王国と同じように魔物対策の砦が各地に点在しているらしい。

 しかし王国で聞いた話では、教国は魔神をすでに発見しているのではないかということだった。そこに俺を放り込めば、教国は自前の戦力を失わずに済む。もしくは最小限の犠牲に抑えられる。だが本当に発見済みだったのかは分からない。ズバリ聞いてみるか。


「はっきり言うが、王国の噂じゃあ教国は魔神をとっくに見つけてるって話だったぜ。昨日の晩に発見したってのは本当か?」


 確認だ。巫女と俺の間はまだまだ信頼関係というには程遠いが、その切っ掛けになる程度の関係性はできていると思う。ここで正直に話してくれれば、よりよい関係が築けるというものだ。


「噂は承知しています。ですが、実際に魔神の姿を確認できたのは昨晩が初めてのことなのです」


 立場柄ポーカーフェイスが得意なのか、動じた様子はまったくない。

 考えてみればそもそも女の嘘を見破るのは得意ではない。むしろ簡単に騙される口だ。本当のところは確かめようがないし、言ってしまえばどっちだっていい。

 まぁいいだろう。女の嘘に騙されてやるのも男の甲斐性のうちだ。


「疑ってもしょうがねぇ、カテリーナ様を信じてやるよ。それで? 単に倒してこいって言いたいわけじゃねぇんだろ?」


 単純な話ではないだろう。魔神は世界共通の脅威だ。存在を確認できていた、もしくはその可能性が高い割合で見込めるのなら、普通に勇者に助力を願えばいいだけだ。回りくどいやり方をせずとも、勇者が滞在しているバルディア王国に正式にその旨を要請すればいい。拒否する理由などどこにもない。回りくどいことをするには理由があるはずだ。


「ふふっ、トオル様は話が早くていいですね。本当はもう少し時間を掛けてお話しするつもりだったのですが、急を要しますのでもう腹を割っていきます」

「正直なのは好みだぜ。だが、善意に期待してもらっちゃ困る」

「ええ、承知しています。『お仕事』の依頼をさせてください」

「分かってるじゃねぇか」


 調べは付いているようだな。

 俺は勇者などというふざけた肩書きを持っているが、使命感などこれっぽっちもありはしない。善意だって人と比べればささやかに過ぎる。

 無報酬で魔神討伐など絶対にやらないが、相応しい対価があれば話は別だ。仕事としてなら、受けてやってもいい。


 それに教国に恩を売っておくのは、いつか何かの役に立つかもしれない。甘くない世の中だからこそ、繋がりは多く持っておくべきだ。

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