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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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頼みごとの相談【Others Side】

 刑死者の勇者と巫女との歓談は、終始和やかに進みました。

 社交辞令で良き友人として、などと言って始まった歓談でしたが、最後のほうには本当の友人のような感覚で両者とも打ち解けていました。


 巫女の年長者として、女性として、大きな立場にいる者としての包容力があってこそですが、無頼漢である刑死者の勇者とは不思議と馬が合うようでした。


 雑談に始まり、巫女の好奇心のままに重ねられる質問に答え、特殊能力に関する重要な情報を得ることができた刑死者の勇者は、大きな満足感と少しの感謝を覚え、夜の街へと今回は堂々と出て行きました。

 はっきりと夜は街に遊びに行くと言い出した男には巫女も大司教も驚いたものですが、止めたところで無駄であろうことも承知しています。許可とまではいきませんが、黙認せざるを得ませんでした。


 巫女側にとっては刑死者の勇者の昨晩から今朝にかけての謎の行動がそこで明らかになったのですが、ある意味では知りたくなかった真実でもありました。

 その一幕として、


「夜の街とおっしゃいますと、どちらに? お知り合いでもいらっしゃるのですか?」

「それは聞くだけ野暮ってもんだろ。男の事情ってやつよ」

「男の事情、ですか?」

「……とぼけてるわけじゃなさそうだな。ったく、女だよ、女。そういう店に行くってことだ。ここまで言えば分かるだろ?」


 貞淑な女性に向かって堂々と言ってのける非常識さには呆れますが、教国にとって不利になるような情報収集活動ではないらしいと分かって一安心でもありました。念のための調査を行って、真相はこれから確認することとなりますが、嘘ではないだろうと巫女たちは思いました。



 予定の時間が過ぎ、大司教が勇者を神殿の出口まで送り届けると、巫女と大司教は先ほどまでの部屋で所感を述べあうことにしました。

 滝のある部屋は巫女の私室です。滝や泉などはガーデニング趣味が高じて作られたものであり、それ以上でも以下でもありませんが、彼女の自慢ではあります。近しい者やそうなって欲しいと思う客人は、なにかとこの部屋に誘う悪癖がありました。


「勇者様とはずいぶんと奔放な方が多いのですね……女教皇の勇者様は違うようでしたのに」

「それだけは幸いでした。奔放さは別にして、巫女様は大門様をどのようにお感じになられましたか?」

「率直に面白い方でした。取り繕ったところがないので、話がしやすいです」

「まぁ、なんと言いましょうか、正直な方ではありますね」


 夜遊びの話はともかく、重要なことはたくさんありました。

 勇者の特殊能力は破格であり、様々な意味で重要な情報です。刑死者の勇者はその重要性を承知しており、これまでは必要最小限にしか明かしてはきませんでした。


 しかし巫女との歓談ではすべてをオープンにしています。能力を見破る能力によって、隠すよりも開示して助言を得る方策を選択したのですが、警戒するよりも積極的に情報をオープンにする姿勢には、巫女としても驚くばかりでした。

 ただ、刑死者の勇者としては詳しく伝えなければ教わることができませんので、仕方のないことでもあります。


 信用というにはまだ浅い関係性でしかないのですが、巫女側も情報開示を行ったことによって、互いに歩み寄ることに成功したといえるでしょう。刑死者の勇者はその過程でもう開き直っていました。


「久しぶりに楽しくて、つい本題を忘れて話に夢中になってしまいました。明日は切り替えないといけませんね」

「女教皇の勇者様のこと、それから魔神のことですから。慎重に話を持って行きたいです」


 やはりバルディア王国が睨んだように、事は魔神に及びます。


 現時点ではあくまでもお飾りとしてですが、女教皇の勇者はリエージュ・シャトレ教国のまさしく女教皇として君臨する予定となっています。教国の政治的な事情と勇者本人の野心あってのことですが、対外的には秘密裏に進められていました。それを前もって教えることによって、信用を得ようという魂胆です。

 特殊能力談議についても信用獲得の一環でしたが、それは個人的な事です。女教皇の件は国家の秘事ですので、より重いと考えられました。秘密の共有によって得る信頼関係です。


 そして教国内で発見した魔神の討伐依頼に繋げるのが最も重要な目的となります。


 勇者なのだから魔神と戦うのは当然、などというのは一方的な言い分です。巫女を始めとした神殿側は、それを弁えているが故に信頼関係の構築を図っているのです。

 事前の調査によれば、刑死者の勇者の戦果は圧倒的です。その力を利用したいと考えるのは当然で、巫女は己の地位と名声を使って呼び寄せることにし、今回の勇者訪問に至っています。


「トオル様の今日の様子から、女教皇の勇者様については特に気にされることはないでしょうね。もしかすると重要な秘密とすら思っていただけないかもしれません」

「はい。同居されているという勇者様を除き、ほかの勇者様には関心がないようでした。打ち明けても反応は薄いと思います」


 真相を突いています。刑死者の勇者に女教皇の勇者のことを話したところで、特段の反応は見込めないでしょう。それは恋人の勇者と運命の輪の勇者がバルディア王国を出奔し、教国に滞在していることについても同じことです。


「仕方ありません。問題は魔神についてどう切り出すかですが、あの方は契約によって魔物を退治するということです。単にこちらの事情をお伝えしたところで意味はないでしょう」

「契約と報酬、ですか」

「報酬と引き換えであれば、引き受けて頂けるというのは、ある意味では簡単で話が早いです。お人柄を見ても、あまり小細工はせず、正面からお願いしてしまったほうが良いように思われますね」

「ことは魔神退治ですから、報酬の準備には時間がかかりそうです。ただ単に退治していただくのではなく、こちらからの要望もありますし……」

「それがお引き受けいただけるかどうか、問題になるところでしょうね。報酬についてはどうとでもしましょう」


 残念ながら、単純に報酬を出すからやってくれと頼み、いいよと引き受ける構図にはなりません。魔神の討伐となれば、その後の影響にも気を払わなくてはならないのです。

 倒すこと自体が困難な魔神だからこそ、その過程も重要になるのです。

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